[PA050] 大学生の先延ばし行動と援助要請に解釈レベルが及ぼす影響
キーワード:解釈レベル, 先延ばし行動, 援助要請
問題
学士課程教育において,主体的な問題解決など能動的な学習への転換が必要とされる(中教審,2012)。学生に求められるスキルの1つが自主学習であろう。本研究では自主学習に関する課題として先延ばし行動と援助要請を取り上げ,これらに影響を及ぼす認知要因を検討していく。
援助要請に影響を及ぼす認知要因に学習観がある。方略志向の学習観をもつ者は自ら方法を考え,解き方や答えだけでなく答えまでの詳しい説明を求めるため自律的援助要請を行いやすい。丸暗記・結果重視志向が高い者は答えや結果のみを求め解き方は重要視しない依存的援助要請にかかわる(瀬尾,2007)。また藤田(2010)は学習をモニタリングするメタ認知方略を用いる者は先延ばし行動が少なく,方略をあまり用いない者の先延ばし行動は多いことを示した。
これらの知見から,先延ばし行動と援助要請という行動レベルの変数を規定する認知要因にはメタ的理解がかかわっている可能性がある。本研究では解釈レベルを取り上げる(Eyal, Liberman, & Trope, 2008)。高レベル解釈とは,出来事に関する情報の抽象的・包括的な概念化を引き起こすものの見方である。低レベル解釈とは出来事を限定的に捉える具体的・表面的なものの見方である。
学習観について解釈レベルを踏まえると次のことが考えられる。高レベル解釈は,目の前の課題に対し結果よりプロセスや解き方に重点を置くことを促す。一方低レベル解釈は,目の前の課題をただ覚え,単純に量をこなすことを促す(仮説1)。先延ばし行動,自律的援助要請には解釈レベルが関連する(仮説2)。解釈レベルの高さが認知主義的学習観を規定し自律的援助要請を高め先延ばしを抑制,解釈レベルの低さが非認知主義的学習観を規定し自律的援助要請を低め先延ばし行動を促す(仮説3)。
方法
対象者 心理学系の講義受講者127名に調査を実施した。分析対象は124名(男性56名,女性65名,不明3名;平均18.48歳)とした。
質問紙内容 ①解釈レベル BIF尺度(Vallacher & Wegner, 1989 原島訳, 2009) ②学習観 瀬尾(2007)の学習観尺度の下位尺度のうち「思考過程の重視」,「意味理解志向」,「方略志向」,「結果重視志向」,「丸暗記志向」,「勉強量志向」および植木(2002)の学習観尺度の下位尺度のうち「方略志向」,「勉強量志向」を参考に作成した学習観尺度(寺田,印刷中)23項目。③先延ばし行動 藤田(2005)の課題先延ばし行動測定尺度の下位尺度のうち「課題先延ばし」9項目 ④援助要請 瀬尾(2007)の自律的・依存的援助要請尺度11項目
結果
仮説を検討するため重回帰分析を実施した。解釈レベルが思考過程の重視・意味理解志向を規定し,自律的援助要請に影響を及ぼす仲介過程を検討した。その結果,学習観を部分的に仲介し影響を及ぼすことが示された(z=1.64, p<.10)。また,解釈レベルが自律的援助要請を仲介して先延ばし行動を抑制させることがわかった(z=-1.95, p<.10)。
考察
解釈レベルの高い者は物事を包括的かつ抽象的に解釈し,自らの学習に対しメタ的な理解ができる。そのため彼らはプロセスに重点を置いたり学んだ知識を自らの知識と関連づけたりする思考過程の重視や意味理解志向の学習観をもつ。さらに認知主義的学習観をもつことにより自律的援助要請を行いやすい。加えて自律的援助要請をすることで先延ばし行動が低まる。
本研究により解釈レベルという情報処理の抽象度の違いが行動レベルの変数に影響を及ぼすことがわかった。今後,解釈レベルの個人差を踏まえ先延ばし行動を抑制,あるいは自律的援助要請を促す支援法を考えていく必要がある。
学士課程教育において,主体的な問題解決など能動的な学習への転換が必要とされる(中教審,2012)。学生に求められるスキルの1つが自主学習であろう。本研究では自主学習に関する課題として先延ばし行動と援助要請を取り上げ,これらに影響を及ぼす認知要因を検討していく。
援助要請に影響を及ぼす認知要因に学習観がある。方略志向の学習観をもつ者は自ら方法を考え,解き方や答えだけでなく答えまでの詳しい説明を求めるため自律的援助要請を行いやすい。丸暗記・結果重視志向が高い者は答えや結果のみを求め解き方は重要視しない依存的援助要請にかかわる(瀬尾,2007)。また藤田(2010)は学習をモニタリングするメタ認知方略を用いる者は先延ばし行動が少なく,方略をあまり用いない者の先延ばし行動は多いことを示した。
これらの知見から,先延ばし行動と援助要請という行動レベルの変数を規定する認知要因にはメタ的理解がかかわっている可能性がある。本研究では解釈レベルを取り上げる(Eyal, Liberman, & Trope, 2008)。高レベル解釈とは,出来事に関する情報の抽象的・包括的な概念化を引き起こすものの見方である。低レベル解釈とは出来事を限定的に捉える具体的・表面的なものの見方である。
学習観について解釈レベルを踏まえると次のことが考えられる。高レベル解釈は,目の前の課題に対し結果よりプロセスや解き方に重点を置くことを促す。一方低レベル解釈は,目の前の課題をただ覚え,単純に量をこなすことを促す(仮説1)。先延ばし行動,自律的援助要請には解釈レベルが関連する(仮説2)。解釈レベルの高さが認知主義的学習観を規定し自律的援助要請を高め先延ばしを抑制,解釈レベルの低さが非認知主義的学習観を規定し自律的援助要請を低め先延ばし行動を促す(仮説3)。
方法
対象者 心理学系の講義受講者127名に調査を実施した。分析対象は124名(男性56名,女性65名,不明3名;平均18.48歳)とした。
質問紙内容 ①解釈レベル BIF尺度(Vallacher & Wegner, 1989 原島訳, 2009) ②学習観 瀬尾(2007)の学習観尺度の下位尺度のうち「思考過程の重視」,「意味理解志向」,「方略志向」,「結果重視志向」,「丸暗記志向」,「勉強量志向」および植木(2002)の学習観尺度の下位尺度のうち「方略志向」,「勉強量志向」を参考に作成した学習観尺度(寺田,印刷中)23項目。③先延ばし行動 藤田(2005)の課題先延ばし行動測定尺度の下位尺度のうち「課題先延ばし」9項目 ④援助要請 瀬尾(2007)の自律的・依存的援助要請尺度11項目
結果
仮説を検討するため重回帰分析を実施した。解釈レベルが思考過程の重視・意味理解志向を規定し,自律的援助要請に影響を及ぼす仲介過程を検討した。その結果,学習観を部分的に仲介し影響を及ぼすことが示された(z=1.64, p<.10)。また,解釈レベルが自律的援助要請を仲介して先延ばし行動を抑制させることがわかった(z=-1.95, p<.10)。
考察
解釈レベルの高い者は物事を包括的かつ抽象的に解釈し,自らの学習に対しメタ的な理解ができる。そのため彼らはプロセスに重点を置いたり学んだ知識を自らの知識と関連づけたりする思考過程の重視や意味理解志向の学習観をもつ。さらに認知主義的学習観をもつことにより自律的援助要請を行いやすい。加えて自律的援助要請をすることで先延ばし行動が低まる。
本研究により解釈レベルという情報処理の抽象度の違いが行動レベルの変数に影響を及ぼすことがわかった。今後,解釈レベルの個人差を踏まえ先延ばし行動を抑制,あるいは自律的援助要請を促す支援法を考えていく必要がある。