The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PA

Wed. Aug 26, 2015 10:00 AM - 12:00 PM メインホールA (2階)

[PA062] 女子大生の成功回避動機に関する研究

性役割と自尊心との関連

菅野早樹1, 佐藤淑子2, 廣田昭久#3 (1.鎌倉女子大学大学院, 2.鎌倉女子大学, 3.鎌倉女子大学)

Keywords:成功回避動機, 性役割, 自尊心

目的
本研究は,女性が仕事をし,リーダーシップをとることの困難さの原因として,成功回避動機に着目した。成功回避動機とは,「競争場面において成功することを恐れて,それを回避してしまう」ことをいう。女性の自己実現を阻む成功回避動機(Horner,1968)は性役割観に基づいているとされ,日本でも成功回避動機に関する一連の研究(青柳,1982; 青柳ら,1985;永江,1996;岡本,1999;藤江,2009)がある。
堀野(1991)は4年制の男女共学大学に在籍する男子学生と女子学生を対象に,成功に対する恐怖の大きさを測定する成功回避動機測定尺度を作成した。その結果,女子学生の方が男子学生に比べ,成功回避動機の得点が高いことが報告されている。
Alisonら(2009)の研究では,共学クラスに所属する女子生徒は競争を回避する傾向にあるが,別学クラスに所属する女子生徒は競争を回避しない傾向にあることが示された。別学クラスの女子生徒は共学クラスの女子生徒に比べ,伝統的性役割について社会的学習をする機会が少ないため,競争を避けようとする動機が生じにくい。日本国内の研究でも,女子大生は自尊心が共学大学の女子学生よりも高く,結婚後も就業継続のライフコースを選択する学生が多いことが明らかになっている(三宅,2010)。
以上のことから,先行研究においてキャリア志向が共学大学の女子学生より高いとされる日本の女子大学の学生を対象に,成功回避動機と女性の自己意識との関わりを検討することを本研究の目的とした。
研究Ⅰ
研究Ⅰの目的は,成功回避動機と女子大生の自己意識を検討することにあった。
方法
女子大学の大学4年生230名を対象とする質問紙調査。
調査内容は,成功回避動機測定尺度,性度尺度(BSRI日本語版) ,自尊心尺度,Locus of Control(原因帰属) 尺度,同調性尺度,を用いた質問紙調査を実施した。
結果と考察
各尺度について,主因子法・バリマックス回転による因子分析を行い,以下の因子が確認された。成功回避動機4因子:〈成功への否定的評価〉・〈勝利への後ろめたさ〉・〈対人関係の意識過剰〉・〈結果への負荷・懸念〉,性度2因子:〈男性性〉・〈女性性〉,自尊心3因子:〈劣等感〉・〈自己信頼〉・〈自信〉,原因帰属2因子:〈外的統制〉・〈内的統制〉,同調性”因子:〈共感性〉・〈同調行動〉である。
各尺度の相関分析を行ったところ,成功回避動機と自尊心,成功回避動機と原因帰属の内的統制の間では負の相関が,成功回避動機と同調性の間には正の相関が見られた(Table 1)。また,自尊心は原因帰属の内的統制と正の相関を示しており,加えて,自尊心は同調性と負の相関を示していた。自尊心の低い人は他者との親密性を重視するため,成功回避動機が高まると考えられた。さらに,重回帰分析の結果,成功回避動機と自尊心,原因帰属,同調性との間の関連が強い傾向にあることが明らかとなった。
以上の結果から,女子大生の成功回避動機は,性役割よりも自尊心と強い関わりがあることが明らかとなった。
そして,堀野(1991)の共学大学に学ぶ女子学生との比較から,本調査の女子大学で学ぶ女子大生は成功回避動機が低いことを確認した。
研究Ⅱ
研究Ⅱの目的は,成功回避動機の社会的文脈を検討することにあった。
方法
女子大学の大学4年生76名を対象とする実験。調査対象者に2つの状況(「(A)学業での成功課題」「(B)リーダーシップをとる上での成功課題」)についてそれぞれ4条件を想定させた。その際,主人公の成功に対して主人公がどのように感じると思うか,主人公の成功に対して周囲の人々はどのように評価すると思うか評定する実験を行った(堀野,1991)。
条件1「女性が1番で男性が2番」(A,B課題)
条件2「男性が1番で女性が2番」(A,B課題)
条件3「女性が1番で女性が2番」(A,B課題)
条件4「無競争」(A課題)
  「男性が1番で男性が2番」(B課題)
結果と考察
先行研究の堀野(1991)の結果では共学大学に学ぶ女子学生は異性との競争場面において成功回避動機が高く現れることが明らかとなっている。女子大生を対象とした本研究の結果からは,特に同性同士の競争場面において,成功回避動機が著しく現れることが明らかとなった。女子大生は,教育環境の中で女性同士の親和性を保つために成功回避動機が現れると考えられる。
総合考察
本研究の結果から女子大学という環境が女性の自己形成に影響を与えていると考えられる。女性の成功回避動機を低減するという視点から言えば,女子大学の学習が有効であることが示唆された。