[PB033] 説明文の「読み手意識尺度」の妥当性の検討
読み手意識尺度および説明メディア間における比較
キーワード:読み手意識, 尺度の検証, 説明活動
【はじめに】
説明を行う際,説明の受け手の知識や理解度,置かれた状況などを配慮し,それに合わせた説明内容と方法を選択する重要性が指摘されている(辻,2010)。これに関して,岸・辻・籾山(2014)は,「読み手意識尺度」の作成と妥当性の検証を行った。読み手意識とは,説明文の読み手に関する情報を抽出・利用し,それに合わせた説明内容と方法を選択するものである。岸らによると,読み手意識尺度は,「説明意識」「書き手意識」「メタ理解」「工夫実践」これらの4因子から構成される。岸らは,本尺度の妥当性に関して,3パターンの検証を行っている。しかし,これらの検証は,他者の説明文の評価観点に読み手に対する配慮が含まれているかどうか,また,説明文の空欄を正しく補充できたかどうか,これらの観点に基づくものであった。そのため,読み手意識尺度と,実際の説明文のわかりやすさとの関連について,十分な検証が行われていない。ここで本研究では,読み手意識尺度の妥当性の追試を行う。
また,その際の観点として,説明メディアによる違いに注目する。説明文の産出において,手書き条件とコンピューター(PC)条件では,どのような違いが見られるのだろうか。
これらの検討を通して,読み手意識尺度の妥当性,また,説明メディアに合わせた説明文作成指導のあり方に関する基礎的な知見,これらが得られることが期待される。
【方 法】
調査時期:2015年2月中旬~下旬。
被験者:被験者は,大学生29名であった。
実験手続き:被験者に,読み手意識尺度と,日常的な説明活動に関する調査票に回答させた。説明文産出課題にあたり,被験者を,手書き条件(14名)とPC条件(15名)に分けた。課題は,最寄り駅から被験者の所属大学までの道案内文(徒歩のみ)の作成であった。その際,両条件ともに,図表を使わずテキストのみで説明するように教示を行った。制限時間は30分としたが,全ての被験者が時間内に作業を完了した。次に,被験者の作成した道案内文について,本実験に参加していない2名の学生に評価させた(7件法)。評価観点として「わかりやすさ」「読み手の配慮」「丁寧さ」「簡潔さ」「好感度」の5点を設定した。
【結果と考察】
(1)読み手意識尺度の信頼性の検証:信頼性分析の結果,読み手意識尺度全体でα=.832であった。また,説明意識(.653),書き手意識(.582),メタ理解(.570),工夫実践(.576)であり,各因子についても,おおむね良好な結果が得られた。
(2)読み手意識尺度と説明メディア間における道案内文の評定値の比較:読み手意識尺度(高・低),説明メディア(手書き・PC),これらの要因に注目し,二要因分散分析を実施した。その結果,「簡潔さ」のみ説明メディア要因に主効果が認められた(PC>手書き,p<.05)。その一方,「わかりやすさ」をはじめとする他の評定値に差が認められなかった。特に読み手意識尺度において説明文の評価に違いが見られず,妥当性の追試が求められる。
(3)道案内文のわかりやすさに影響を及ぼす要因の検討:重回帰分析の結果,道案内文のわかりやすさには,「工夫実践(β=-.63)」「手書き得意(β=-.37)」「PC得意(β=.37)」「簡潔さ(β=.58)」が影響を及ぼしていることが示された(R2=.825,p<.01)(図1)。これは,わかりやすさを向上させる工夫(工夫実践)が,わかりやすさの評定値を低下させる結果を示している。これは,テキストで道案内文を作成する実験課題の特殊性が,わかりやすさ評定値に影響を及ぼした可能性が考えられる。より現実的な条件下での追試が望ましい。
【結 論】
読み手意識尺度と,実際に作成する説明文のわかりやすさについて,明確な関連は認められなかった。今後,より多くの被験者,実験条件における追試が必要と考えられる。
説明を行う際,説明の受け手の知識や理解度,置かれた状況などを配慮し,それに合わせた説明内容と方法を選択する重要性が指摘されている(辻,2010)。これに関して,岸・辻・籾山(2014)は,「読み手意識尺度」の作成と妥当性の検証を行った。読み手意識とは,説明文の読み手に関する情報を抽出・利用し,それに合わせた説明内容と方法を選択するものである。岸らによると,読み手意識尺度は,「説明意識」「書き手意識」「メタ理解」「工夫実践」これらの4因子から構成される。岸らは,本尺度の妥当性に関して,3パターンの検証を行っている。しかし,これらの検証は,他者の説明文の評価観点に読み手に対する配慮が含まれているかどうか,また,説明文の空欄を正しく補充できたかどうか,これらの観点に基づくものであった。そのため,読み手意識尺度と,実際の説明文のわかりやすさとの関連について,十分な検証が行われていない。ここで本研究では,読み手意識尺度の妥当性の追試を行う。
また,その際の観点として,説明メディアによる違いに注目する。説明文の産出において,手書き条件とコンピューター(PC)条件では,どのような違いが見られるのだろうか。
これらの検討を通して,読み手意識尺度の妥当性,また,説明メディアに合わせた説明文作成指導のあり方に関する基礎的な知見,これらが得られることが期待される。
【方 法】
調査時期:2015年2月中旬~下旬。
被験者:被験者は,大学生29名であった。
実験手続き:被験者に,読み手意識尺度と,日常的な説明活動に関する調査票に回答させた。説明文産出課題にあたり,被験者を,手書き条件(14名)とPC条件(15名)に分けた。課題は,最寄り駅から被験者の所属大学までの道案内文(徒歩のみ)の作成であった。その際,両条件ともに,図表を使わずテキストのみで説明するように教示を行った。制限時間は30分としたが,全ての被験者が時間内に作業を完了した。次に,被験者の作成した道案内文について,本実験に参加していない2名の学生に評価させた(7件法)。評価観点として「わかりやすさ」「読み手の配慮」「丁寧さ」「簡潔さ」「好感度」の5点を設定した。
【結果と考察】
(1)読み手意識尺度の信頼性の検証:信頼性分析の結果,読み手意識尺度全体でα=.832であった。また,説明意識(.653),書き手意識(.582),メタ理解(.570),工夫実践(.576)であり,各因子についても,おおむね良好な結果が得られた。
(2)読み手意識尺度と説明メディア間における道案内文の評定値の比較:読み手意識尺度(高・低),説明メディア(手書き・PC),これらの要因に注目し,二要因分散分析を実施した。その結果,「簡潔さ」のみ説明メディア要因に主効果が認められた(PC>手書き,p<.05)。その一方,「わかりやすさ」をはじめとする他の評定値に差が認められなかった。特に読み手意識尺度において説明文の評価に違いが見られず,妥当性の追試が求められる。
(3)道案内文のわかりやすさに影響を及ぼす要因の検討:重回帰分析の結果,道案内文のわかりやすさには,「工夫実践(β=-.63)」「手書き得意(β=-.37)」「PC得意(β=.37)」「簡潔さ(β=.58)」が影響を及ぼしていることが示された(R2=.825,p<.01)(図1)。これは,わかりやすさを向上させる工夫(工夫実践)が,わかりやすさの評定値を低下させる結果を示している。これは,テキストで道案内文を作成する実験課題の特殊性が,わかりやすさ評定値に影響を及ぼした可能性が考えられる。より現実的な条件下での追試が望ましい。
【結 論】
読み手意識尺度と,実際に作成する説明文のわかりやすさについて,明確な関連は認められなかった。今後,より多くの被験者,実験条件における追試が必要と考えられる。