[PC056] 脳性まひ児の動作を通したやりとり学習による自立活動6区分からの考察
動作改善の時期的関連性と学校生活のエピソードに視点をおいて
キーワード:動作を通したやりとり, 自立活動, 脳性まひ児
Ⅰ.目 的
特別支援学校の自立活動の時間の指導において,筆者が指導者となり,座位が不安定な生徒に対して動作を通した課題(動作法課題)を集中的に指導した。躯幹反らせ,あぐら座位,膝立ち位それぞれの動作変容を中心に分析し,三つの姿勢の改善の時期的関連性と学校生活における生徒のエピソード記述を基に自立活動6区分からの考察を行う。
Ⅱ.方 法
1.対象生徒 高等部1年生男児16歳。脳性まひ(痙直型)。発声はほとんどなく,人や物を媒介として関わりをもつことが少ない。思い通りにならないと頭を叩くことがある。座位では,躯幹や腰が屈になり,上体が左へ傾き,体重が左尻にのる。膝立ち位は一人でできるが,腰が引けて,体重が左脚にのる。立位では,両膝が伸びにくく,自力での立位は難しい。新版K式発達検査2001では,姿勢運動:241日,認知適応:189日,言語社会:218日,全領域:215日である。
2.指導期間・場所 指導は平成X年9月にA県B特別支援学校で10回実施され,VTRにより資料が収集された。1回の実施時間は約15分である。
3.指導内容 躯幹反らせ,あぐら座位姿勢保持,膝立ち位姿勢保持を行い,上体の筋緊張を弛め,動作をコントロールすることや腰を立てて踏みしめることを主なねらいとした。
4.分析の視点
1)反応パターンの頻度(躯幹反らせ)。
2)姿勢の歪みを姿勢評定表(安好,2000)より評定し,変容を導き出す(座位,膝立ち位)。
3)指導開始日~終了日における生活習慣・健康面,運動面,認知面,情緒面から生徒のエピソードを整理する。
Ⅲ.結 果
1.動作を通したやりとり課題
生徒の動作変容の節目は以下の通りであった。
1)躯幹反らせ(Ⅰ期:1~3回目,Ⅱ期4~7回目,Ⅲ期:8~10回目)
Ⅰ期では「腰が動く」「上体に反る力が入る」「手に力が入る」等の反応パターンの頻度が多く,生徒が課題に集中できないことが多かった。Ⅱ期以降,頸と顎,腰を適切に補助でき,上体のリラクセーションが可能となり,Ⅲ期では,強い筋緊張がほとんどなくなった。
2)あぐら座位姿勢保持(Ⅰ期:1~7回目,Ⅱ期8~10回目)
Ⅰ期では胸が屈になり,重心の位置が左にのった。Ⅱ期では躯幹や腰を直に保とうとする力が現れ,右尻でも踏みしめることが可能になり,中央で重心を保持できた。
3)膝立ち位姿勢保持(Ⅰ期:1~5回目,Ⅱ期6~10回目)
Ⅰ期では上体が前後へ傾くことが多く,重心がかなり左にのった。Ⅱ期では上体の前後への傾きはなくなり,右脚にも体重をのせることが可能になった。躯幹や腰の筋緊張が弛み,股関節を直に保つことができるようになったからだと考えられる。
2.学校生活における生徒のエピソード
例年9月に入ると健康管理が難しく,欠席が多かったが,本事例の関わりをきっかけに休まずに登校し,継続的に学習に参加できた。授業6回目以降,「○○くん,おいで」と呼ぶと,指導者を注視しながら車いすの所まで四つ這い移動や膝立ち位移動が可能になった。手遊び場面では「もっとしたい」と教員に視線を合わせながら手をとりにきたり,自分の顔を近づける場面があった。頭を叩く行為はほとんど見られず,「バババ」「ナンナン」等の発声が現れた。
Ⅳ.考 察
1.動作を通したやりとり課題の時期的関連性
授業4回目「躯幹反らせ」で指導者が頸と顎,腰を適切に補助でき,反らせた上体を元の直姿勢まで戻すやりとりの向上がその後のやりとりの窓口となったと考えられる。授業6回目「膝立ち位姿勢保持」では腰が引けずにタテの力が加わり、右脚にも体重をのせることを意識できたことにより,授業8回目「あぐら座位姿勢保持」では重心の位置が中央で安定した。生徒は,指導者の言葉かけや身体への関わりの援助を受け止める学習が少しずつ可能になり,運動発達上位課題である「膝立ち位」に取り組むことにより,「あぐら座位」の姿勢の歪みが修正される経過をたどったと考えられる。
2.自立活動6区分の意味づけと相互の関連性
本事例では,動作改善を中心的なねらいとしていることから「身体の動き」の区分がやりとりの基盤であると言えよう。身体各部の筋緊張を弛め,動作をコントロールする経験を通して,課題への不安さと向き合い,克服し,「心理的な安定」が育まれていった。次に,あぐら座位や膝立ち位の抗重力姿勢をとる経験を通して,毎日学校へ登校可能な体調や生活リズムが整えられ,「健康の保持」につながったと考えられる。さらには,指導者とのやりとりが向上する中で,自分と相手の理解が深まり,相手と結びつく力が培われ,「人間関係の形成」において発達的な効果が表れたと推測できる。「人間関係の形成」がより濃密な関係になり,信頼関係が高まると,相手に対する強い関心が生まれ,「コミュニケーション」において,意思表示や相手の指示を受け止める主体的な外界への関わりが育まれた。同時に,抗重力姿勢の際には,脚で踏みしめられるポイントを的確につかんだり,指導者に身を任せるようになったり,「環境の把握」にも効果が表れたと考えられる。同じ視点をもち,複数回の指導を積み重ねることにより,「身体の動き」の区分だけでなく,他の区分への意味づけも十分可能になることがわかった。
特別支援学校の自立活動の時間の指導において,筆者が指導者となり,座位が不安定な生徒に対して動作を通した課題(動作法課題)を集中的に指導した。躯幹反らせ,あぐら座位,膝立ち位それぞれの動作変容を中心に分析し,三つの姿勢の改善の時期的関連性と学校生活における生徒のエピソード記述を基に自立活動6区分からの考察を行う。
Ⅱ.方 法
1.対象生徒 高等部1年生男児16歳。脳性まひ(痙直型)。発声はほとんどなく,人や物を媒介として関わりをもつことが少ない。思い通りにならないと頭を叩くことがある。座位では,躯幹や腰が屈になり,上体が左へ傾き,体重が左尻にのる。膝立ち位は一人でできるが,腰が引けて,体重が左脚にのる。立位では,両膝が伸びにくく,自力での立位は難しい。新版K式発達検査2001では,姿勢運動:241日,認知適応:189日,言語社会:218日,全領域:215日である。
2.指導期間・場所 指導は平成X年9月にA県B特別支援学校で10回実施され,VTRにより資料が収集された。1回の実施時間は約15分である。
3.指導内容 躯幹反らせ,あぐら座位姿勢保持,膝立ち位姿勢保持を行い,上体の筋緊張を弛め,動作をコントロールすることや腰を立てて踏みしめることを主なねらいとした。
4.分析の視点
1)反応パターンの頻度(躯幹反らせ)。
2)姿勢の歪みを姿勢評定表(安好,2000)より評定し,変容を導き出す(座位,膝立ち位)。
3)指導開始日~終了日における生活習慣・健康面,運動面,認知面,情緒面から生徒のエピソードを整理する。
Ⅲ.結 果
1.動作を通したやりとり課題
生徒の動作変容の節目は以下の通りであった。
1)躯幹反らせ(Ⅰ期:1~3回目,Ⅱ期4~7回目,Ⅲ期:8~10回目)
Ⅰ期では「腰が動く」「上体に反る力が入る」「手に力が入る」等の反応パターンの頻度が多く,生徒が課題に集中できないことが多かった。Ⅱ期以降,頸と顎,腰を適切に補助でき,上体のリラクセーションが可能となり,Ⅲ期では,強い筋緊張がほとんどなくなった。
2)あぐら座位姿勢保持(Ⅰ期:1~7回目,Ⅱ期8~10回目)
Ⅰ期では胸が屈になり,重心の位置が左にのった。Ⅱ期では躯幹や腰を直に保とうとする力が現れ,右尻でも踏みしめることが可能になり,中央で重心を保持できた。
3)膝立ち位姿勢保持(Ⅰ期:1~5回目,Ⅱ期6~10回目)
Ⅰ期では上体が前後へ傾くことが多く,重心がかなり左にのった。Ⅱ期では上体の前後への傾きはなくなり,右脚にも体重をのせることが可能になった。躯幹や腰の筋緊張が弛み,股関節を直に保つことができるようになったからだと考えられる。
2.学校生活における生徒のエピソード
例年9月に入ると健康管理が難しく,欠席が多かったが,本事例の関わりをきっかけに休まずに登校し,継続的に学習に参加できた。授業6回目以降,「○○くん,おいで」と呼ぶと,指導者を注視しながら車いすの所まで四つ這い移動や膝立ち位移動が可能になった。手遊び場面では「もっとしたい」と教員に視線を合わせながら手をとりにきたり,自分の顔を近づける場面があった。頭を叩く行為はほとんど見られず,「バババ」「ナンナン」等の発声が現れた。
Ⅳ.考 察
1.動作を通したやりとり課題の時期的関連性
授業4回目「躯幹反らせ」で指導者が頸と顎,腰を適切に補助でき,反らせた上体を元の直姿勢まで戻すやりとりの向上がその後のやりとりの窓口となったと考えられる。授業6回目「膝立ち位姿勢保持」では腰が引けずにタテの力が加わり、右脚にも体重をのせることを意識できたことにより,授業8回目「あぐら座位姿勢保持」では重心の位置が中央で安定した。生徒は,指導者の言葉かけや身体への関わりの援助を受け止める学習が少しずつ可能になり,運動発達上位課題である「膝立ち位」に取り組むことにより,「あぐら座位」の姿勢の歪みが修正される経過をたどったと考えられる。
2.自立活動6区分の意味づけと相互の関連性
本事例では,動作改善を中心的なねらいとしていることから「身体の動き」の区分がやりとりの基盤であると言えよう。身体各部の筋緊張を弛め,動作をコントロールする経験を通して,課題への不安さと向き合い,克服し,「心理的な安定」が育まれていった。次に,あぐら座位や膝立ち位の抗重力姿勢をとる経験を通して,毎日学校へ登校可能な体調や生活リズムが整えられ,「健康の保持」につながったと考えられる。さらには,指導者とのやりとりが向上する中で,自分と相手の理解が深まり,相手と結びつく力が培われ,「人間関係の形成」において発達的な効果が表れたと推測できる。「人間関係の形成」がより濃密な関係になり,信頼関係が高まると,相手に対する強い関心が生まれ,「コミュニケーション」において,意思表示や相手の指示を受け止める主体的な外界への関わりが育まれた。同時に,抗重力姿勢の際には,脚で踏みしめられるポイントを的確につかんだり,指導者に身を任せるようになったり,「環境の把握」にも効果が表れたと考えられる。同じ視点をもち,複数回の指導を積み重ねることにより,「身体の動き」の区分だけでなく,他の区分への意味づけも十分可能になることがわかった。