[PF031] 相互作用時の目標設定の規定要因
学習者への役割付与の効果に着目した検討
Keywords:相互作用, 役割付与, 信念
問題と目的
他者と説明しあう,議論するなどの相互作用を行うことで,知識の定着や概念理解が促進されることが指摘されているが(e.g., Johnson et al., 1981),学習に同士の相互作用は,常に教育者が意図しているような効果的なものとなるわけではない(e.g, 伊藤, 2009; 植阪ら, 2013)。
これまで,学習者間の相互作用に着目した先行研究では,動機づけや信念,相互作用を行う相手との関係性などの要因のほか,「説明役」や「聞き手」といった役割の付与が,相互作用の質と関連していることが示されてきたが(e.g, Hanze & Barger, 2007; Horn et al., 1998; 高垣・田爪・松瀬, 2007),これらの要因がなぜ相互作用に影響を及ぼすのかについては,十分に検討されてきたわけではない。
近年,学習者の信念が協同的問題解決での目標の持ち方と関連していることが指摘されており(野村・丸野, 2014),様々な要因が学習者の設定する「目標」の質を介して相互作用での発話に影響を与えている可能性は十分に考えられる。そこで,本研究では,付与された役割や,動機づけ,信念,ペアを組んだ相手との関係性と,活動に際しての目標設定の関連について検討を行った。
方 法
対象者 東京都の国立大学に通う大学生97名。協同学習をテーマにした授業の中で,前時の授業で学んだ「適性処遇交互作用(ATI)」について,「説明者」と「聞き手」という役割を付与した上で相互作用を行ってもらった。また,活動の前後に質問紙を配付し,以下の変数の測定を行った。各質問項目に対しては1(まったくあてはまらない)から5(とてもよくあてはまる)で回答してもらった。なお,質問紙には参加者に同意を得た上で回答してもらい,回答の内容は成績とは無関係であることを伝えた。
内発的動機づけ 「この内容をしっかりと身に付けたい」「この内容を確実に理解したい」など3項目を用いて測定を行った。
効力期待 「今(活動前)の時点で,自分はこの内容について分かりやすく説明できそうだ」など4項目を使用した。
説明観 この変数は,説明をすること,説明を聞くことに対して学習者が抱いている信念である。「説明をすることは理解を深める上で役立つ」など4項目を使用して測定した。
関係性 ペアを組んだ相手との関係性について評定を求めた。項目は「相手は自分の性格や考え方をよく知っている人だ」など3項目を使用した。
相互作用時の目標 篠ヶ谷(2014)で作成された項目をもとに,18項目を作成して使用した。想定された下位尺度は1)自己の理解(「自分が本当に理解できているか」など3項目),2)他者の理解(「相手がきちんと理解できているか」など4項目),3)共通理解(「自分の理解と相手の理解のどこが違うか」など8項目),4)意図伝達(「分かりやすく伝えること」など3項目)であった。
結果と考察
各質問項目の得点の平均値を各下位尺度得点とし,相互作用の際に与えられた役割については,説明者に1,聞き手に-1のダミー変数を割り当てた。その上で,内発的動機,効力期待,説明観,関係性,役割のダミー変数を独立変数として,4つの目標得点の予測を行った結果をTable 1に示す。
本研究の結果,説明者という役割が付与されることで,学習者は自分が本当に理解できているか,相手は理解できているか,自分の考えを相手にきちんと伝えられているかに注意しながら相互作用を行うようになることが示唆された。
ただし,「共通理解」に関しては,役割のダミー変数との関連は見られず,「人に説明することで理解が深まる」といった説明観との関連が認められた。こうした結果は,学習者同士の理解の比較や統合が行われるような相互作用を実現するためには,信念に対する介入を行い,理解を深める上で説明や議論が有効であることを実感させていく必要があることを示しているといえる。
他者と説明しあう,議論するなどの相互作用を行うことで,知識の定着や概念理解が促進されることが指摘されているが(e.g., Johnson et al., 1981),学習に同士の相互作用は,常に教育者が意図しているような効果的なものとなるわけではない(e.g, 伊藤, 2009; 植阪ら, 2013)。
これまで,学習者間の相互作用に着目した先行研究では,動機づけや信念,相互作用を行う相手との関係性などの要因のほか,「説明役」や「聞き手」といった役割の付与が,相互作用の質と関連していることが示されてきたが(e.g, Hanze & Barger, 2007; Horn et al., 1998; 高垣・田爪・松瀬, 2007),これらの要因がなぜ相互作用に影響を及ぼすのかについては,十分に検討されてきたわけではない。
近年,学習者の信念が協同的問題解決での目標の持ち方と関連していることが指摘されており(野村・丸野, 2014),様々な要因が学習者の設定する「目標」の質を介して相互作用での発話に影響を与えている可能性は十分に考えられる。そこで,本研究では,付与された役割や,動機づけ,信念,ペアを組んだ相手との関係性と,活動に際しての目標設定の関連について検討を行った。
方 法
対象者 東京都の国立大学に通う大学生97名。協同学習をテーマにした授業の中で,前時の授業で学んだ「適性処遇交互作用(ATI)」について,「説明者」と「聞き手」という役割を付与した上で相互作用を行ってもらった。また,活動の前後に質問紙を配付し,以下の変数の測定を行った。各質問項目に対しては1(まったくあてはまらない)から5(とてもよくあてはまる)で回答してもらった。なお,質問紙には参加者に同意を得た上で回答してもらい,回答の内容は成績とは無関係であることを伝えた。
内発的動機づけ 「この内容をしっかりと身に付けたい」「この内容を確実に理解したい」など3項目を用いて測定を行った。
効力期待 「今(活動前)の時点で,自分はこの内容について分かりやすく説明できそうだ」など4項目を使用した。
説明観 この変数は,説明をすること,説明を聞くことに対して学習者が抱いている信念である。「説明をすることは理解を深める上で役立つ」など4項目を使用して測定した。
関係性 ペアを組んだ相手との関係性について評定を求めた。項目は「相手は自分の性格や考え方をよく知っている人だ」など3項目を使用した。
相互作用時の目標 篠ヶ谷(2014)で作成された項目をもとに,18項目を作成して使用した。想定された下位尺度は1)自己の理解(「自分が本当に理解できているか」など3項目),2)他者の理解(「相手がきちんと理解できているか」など4項目),3)共通理解(「自分の理解と相手の理解のどこが違うか」など8項目),4)意図伝達(「分かりやすく伝えること」など3項目)であった。
結果と考察
各質問項目の得点の平均値を各下位尺度得点とし,相互作用の際に与えられた役割については,説明者に1,聞き手に-1のダミー変数を割り当てた。その上で,内発的動機,効力期待,説明観,関係性,役割のダミー変数を独立変数として,4つの目標得点の予測を行った結果をTable 1に示す。
本研究の結果,説明者という役割が付与されることで,学習者は自分が本当に理解できているか,相手は理解できているか,自分の考えを相手にきちんと伝えられているかに注意しながら相互作用を行うようになることが示唆された。
ただし,「共通理解」に関しては,役割のダミー変数との関連は見られず,「人に説明することで理解が深まる」といった説明観との関連が認められた。こうした結果は,学習者同士の理解の比較や統合が行われるような相互作用を実現するためには,信念に対する介入を行い,理解を深める上で説明や議論が有効であることを実感させていく必要があることを示しているといえる。