日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PG

2015年8月28日(金) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PG014] 胸腔持続吸引システムの理解度に影響を及ぼす要因

高校時代の物理学の選択の有無

青木久恵1, 門司真由美2, 青木奈緒子3, 窪田恵子#4, 三好麻紀5 (1.福岡女学院看護大学, 2.福岡女学院看護大学, 3.福岡女学院看護大学, 4.福岡学園看護大学設置準備室, 5.福岡女学院看護大学)

キーワード:気圧, 物理学, 胸腔持続吸引

問題と目的
人間の胸腔内は,大気圧に対して陰圧になっている。胸腔持続吸引システムは,胸腔内に空気や血液などが貯留している患者に用いられ,貯留したものを体外に排出させる医療機器である。看護師は,そのシステムの作動の管理と患者の異常の早期発見を含めて看護を行う必要がある。このシステムの理解には,大気圧と吸引システム内の気圧の差,水封室と吸引圧抑制びんの仕組み,管内の水の動きと気圧の変化など,物理学の気圧の知識の活用が求められる。しかし,高校で物理学を選択した学生は少ない傾向が指摘されており,看護学で用いる参考書には,物理学の解説が乏しい現状がある。本研究では,物理学の気圧の知識を踏まえた補講の効果と高校での物理学選択の有無の関連について分析する。
方法
対象者 A看護大学4年生,希望者のみ受講可能な「胸腔持続吸引システムの補講」受講者97名中,協力が得られた93名。
手続き 「胸腔持続吸引システム」の補講は90分で行った。主な教育内容は,物理学の「気圧」の内容を含む「陰圧とは」「陰圧が成り立つ条件」「気圧差と気流,排液の方向との関係」「水封室のしくみ」「陰圧の確認方法」「吸引圧抑制びんのしくみ」「吸引圧抑制びん内の管の水面の低下理由」「吸引圧と胸腔内圧」についてであった。これらについて配布資料とスライドで説明を行った。補講アンケートは,補講3か月後に実施し,主観的理解度を測った。調査項目は,①ドレナージには,大気圧とドレーン器具内の気圧の差が応用されている,②陰圧は密閉空間で成り立つ,③陰圧を生じさせる操作や確認方法(観察点),④水封室の仕組みは,胸腔内からの空気の漏れ,胸腔内への逆流防止,胸腔内圧の変化を観察するために必要であること,⑤気圧の差で排気・排液の方向が決まる,⑥吸引圧制御びんは大気で吸引圧を調整する,⑦吸引圧制御びん内の管内の水面が下がる理由の主観的理解度と胸腔持続吸引システムの作動中の動画の分かりやすさである。主観的理解度と分かりやすさは,それぞれ4件法で行った。
結 果
93名の学生中,高校時代に物理学を選択した学生(物理群)13名,物理学非選択の学生(無群)は80名であった。動画の分かりやすさは,平均点3.317(SD±.63)で,2群間の有意差は認められなかった(t (91)=.7, p>.05)。補講内容の主観的理解度の比較結果はFigure 1に示す。
主観的理解度についてt検定を行った結果,①気圧の差の応用(t (91)=1.7, p<.05),③気圧の差と排液の方向(t (91)=2.5, p<.01),④陰圧の操作と観察点(t (91)=2.7, p<.05)⑦管内水面の低下理由(t (91)=1.8, p<.05)は,物理群の方が理解度は高く,⑤水封室の仕組みの必要性(t (91)=1.3, p<.10),⑥吸引圧抑制びんの仕組み(t (91)=1.5, p<.10)は,その有意傾向が認められた。
考察
胸腔持続吸引システムの作動中の解説動画は,物理群,無群共にわかりやすいという評価であったが,主観的理解度について7項目中4項目は物理群が高く,2項目はその傾向が認められた。このことは,気圧の定義を形式的に理解するだけでなく,水泡の出現や管内の水面の動きという,目に見える現象の意味づけに「気圧の知識」の活用が求められているためであると推察される。有意差の認められなかった②陰圧が成り立つ密閉空間は,口腔内吸引の操作演習で繰り返し体験でき,既にイメージ化ができている概念であるからではないかと考える。以上のことから,物理群は,既に気圧に関する知識の活用を伴う学習が土台にあるため,補講の解説で理解がより高まったのではないかと推察する。今後は,無群が「気圧の知識」を理解でき,その知識の活用ができるような教材や解説を工夫することが課題である。