日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表 PG

2015年8月28日(金) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PG041] 大学における初年次合宿研修が学校適応感に及ぼす影響について1

2013年度帝京大学教育学部初等コースの場合

山村豊 (帝京大学)

キーワード:初年次教育, 合宿研修, 学校適応感

目 的
我が国の大学では,初年次教育において,現在,合宿形式での研修を実施しているところが多くなりつつある。本学教育学部初等学科初等コースにおいても,学部学科で学ぶ意義について考え知見を得ることや,学生相互の交流を深め人間関係構築に貢献することなどを目的として,2012年度以来実施している。ただし,本学を含め,このような合宿研修が目的を達成しているか,あるいは合宿研修が新入生にどのような影響を与えているかについて,実証的に検討されている例は少ないようである。そこで,本研究では,2013年度帝京大学教育学部初等教育学科初等教育コースで実施した合宿研修の目的を,学校への適応の促進と捉えなおし,参加新入生の学校適応感の変化を検討することで,大学初年次教育における合宿研修の効果を,山村・成家(2014)を再度分析し,実証的に検討する。
方 法
調査対象者 新入生合宿研修に参加した帝京大学教育学部初等教育学科初等教育コース1年生172名のうち,有効回答の得られた134名を調査対象者とした。
調査日時 2013年5月末に実施された合宿研修の約1週間前(合宿前調査)と約1週間後(合宿後調査)の1年生必修科目の授業時間内で調査を実施した。所要時間は他の調査を含め10分程度であった。
合宿研修 合宿研修は2013年5月25日~26日の1泊2日で山梨県西湖近くのホテルにて実施した。1日目は研修Ⅰとして大学生活や教員採用に関してのパネル・ディスカッション,研修Ⅱとして新入生の交流を図るアイスブレイクを実施した2日目は研修Ⅲとして大縄跳び,研修Ⅳとして青木が原トレッキングを実施した。
質問紙 学校適応感の測定には,大久保(2005)が作成した「青年用適応感尺度」を使用した。この尺度のオリジナルは5件法であるが,本研究では,回答者の負担を軽減させるため,4件法に修正して使用した。
結果と考察
因子分析 合宿前後で実施した「青年用適応感尺度」についての調査を込にして,因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行ったところ,第1因子「居心地の良さの感覚」,第2因子「被信頼・受容感」,第3因子「課題・目的の存在」,第4因子「劣等感」の4因子が抽出された。
合宿研修前後の変化 この4因子について,それぞれ下位尺度得点を算出し,合宿前後の平均および標準偏差を算出したところ,表1のようになった。これについて,下位尺度得点ごとに合宿前後のt検定を行った。その結果,第1因子「居心地の良さの感覚」については5%水準(t=1.974 df=133 p<.01),第2因子「被信頼・受容感」と第4因子「劣等感」については1%水準(t=5.425 df=133 p<.01, t=3.736 df=133 p<.01)でそれぞれ合宿前よりも合宿後で得点が有意に上昇した。しかし,第3因子「課題・目的の存在」については,有意差はみられなかった(t=0.626 df=133 n.s.)。このことから,合宿研修を通じて,新入生たちは,大学という環境に居心地の良さを感じ,周囲との信頼関係を獲得していったといえよう。だだし,2013年度の合宿研修は,大学・学部で学ぶ意義や目的については影響せず,また劣等感を助長しているという結果になった。前者については,当該合宿の研修の一部で大きく取り上げられてはいたが,新入生にはうまく伝わらなかったこと,また,他の因子に比べ合宿前の下位尺度得点が高かったことから,新入生にとって研修の内容が特別新しいものでなかった可能性も考えられる。また,後者については,合宿研修を通じ,教員採用状況や大学生活の実際など教育学部の現実を知ることになったためだと考えられる。2014年度合宿研修については,合宿研修の内容を変更することで,これらの問題の改善を図ったことから,次報では,改善後の合宿研修が学校適応感に及ぼす影響について報告する。
文 献
山村豊他 2014 初年次教育における合宿研修の効果に関する調査的研究. 帝京大学教育学部紀要第2号. pp.217-230.