[PH019] ジェンダーステレオタイプによる性格特性語の虚再認
社会的認知の教材作成に向けた予備的検討
キーワード:ステレオタイプ, 虚再認, 社会的認知
問 題
日本学術会議(2010)では個人が現代社会における問題に対処する力をつけるため,初等・中等教育の児童・生徒や心理学の非専門家に対しても「心理学的なものの考え方」の教育を行うことの必要性が主張されている。
本研究では,社会的認知の教育教材として活用可能な心理学の実験課題の作成を目指して,Lenton et al.(2001)で報告されているジェンダーステレオタイプによる単語の虚再認の概念的追試を試みた。彼らはDRMパラダイムを用いて,男性(女性)的な職業語のリストを提示することで,実際には見ていない男性(女性)職業語を「見た」と判断する虚再認が生じるという結果を得ている。
この実験課題は 1) 偏見や集団間の対立など,現代社会の問題と結びつけて考察可能であり,2) 認知・行為の自動性や概念間での活性化拡散といった,心理学的なモデルを説明するための導入としても扱いやすいという特徴を持つと考えられる。
しかしながら,本邦において職業語を用いてLenton et al.(2001)の追試を行った月元他(2011)では,虚再認の効果は十分に再現されていない。そこで本研究では性格特性語を用いた実験課題により,ジェンダーステレオタイプによる単語の虚再認が生じるかを検討した。
方 法
参加者 実験は研究室紹介に参加した大学生・大学院生13名(女:男=6:7),高大連携事業に参加した2校の高校生(A校は7名(女:男=4:3),B校は16名(女性のみ))に対して行われた。
刺激語 性格特性語は安達(1985)・伊藤(1978)・沼崎(2012)・若林(1981)を参考に女性語リスト(例:献身,優雅)・男性語リスト(例:力強い,冷静)としてそれぞれ18語ずつのリストを作成した。また,一般リストとして,宮地・山(2002)より聞く・電波・警告・災害の4つのリストを使用した。
手続き 実験は学習段階と再認段階から構成されており,集団で実施された。参加者は集団ごとに女性語条件(大学生6名+A校高校生7名)か男性語条件(大学生7名+B校高校生16名)に割り当てられていた。学習段階では,参加者は教室前方のスクリーンに2秒間ずつ提示される単語を覚えるように教示された。単語は警告・聞く・特性語・電波・災害とリストごとに12語ずつ順に提示された。特性語リストについてはそれぞれの条件に対応した性別の性格特性語が提示された。単語が全て提示された後,参加者は3分間,遅延課題として単純な計算課題に取り組んだ。
再認段階では,参加者は女性語リスト・男性語リストそれぞれ8語(学習語2語+未学習語6語),一般リストそれぞれ3語(学習語1語+未学習語2語),宮地・山(2002)の実験刺激から作成した無関連な未学習語20語からなる48語の単語について学習段階に見た語かを判断し,「1.まちがいなく見ていない」「2.たぶん見ていない」「3.たぶん見た」「4.まちがいなく見た」の4件法で回答するよう求められた。
結果と考察
女性語リスト・男性語リストの未学習語について「3.たぶん見た」あるいは「4.まちがいなく見た」と回答した語の未学習語の総数に対する割合を従属変数として,条件(参加者間:女性語条件・男性語条件)×リスト(参加者内:女性語リスト・男性語リスト)の2要因混合計画での分散分析を行った。条件×リストの交互作用のみが有意であり(F (1, 34)=17.54, p<.05, ηp2=.34),両条件ともに条件と一致したリストでは不一致なリストに比べて虚再認率(未学習語を「見た」と回答する割合)が高かった(図1)。この結果は,性格特性語を用いることで,ジェンダーステレオタイプによる虚再認が生じることを示唆している。
刺激語の違いによる影響も明らかにされるべき点ではあるが,本実験課題を教材として用いる上では,実験前後の参加者のものの考え方の変化や,教材としての活用法について検討する必要がある。
日本学術会議(2010)では個人が現代社会における問題に対処する力をつけるため,初等・中等教育の児童・生徒や心理学の非専門家に対しても「心理学的なものの考え方」の教育を行うことの必要性が主張されている。
本研究では,社会的認知の教育教材として活用可能な心理学の実験課題の作成を目指して,Lenton et al.(2001)で報告されているジェンダーステレオタイプによる単語の虚再認の概念的追試を試みた。彼らはDRMパラダイムを用いて,男性(女性)的な職業語のリストを提示することで,実際には見ていない男性(女性)職業語を「見た」と判断する虚再認が生じるという結果を得ている。
この実験課題は 1) 偏見や集団間の対立など,現代社会の問題と結びつけて考察可能であり,2) 認知・行為の自動性や概念間での活性化拡散といった,心理学的なモデルを説明するための導入としても扱いやすいという特徴を持つと考えられる。
しかしながら,本邦において職業語を用いてLenton et al.(2001)の追試を行った月元他(2011)では,虚再認の効果は十分に再現されていない。そこで本研究では性格特性語を用いた実験課題により,ジェンダーステレオタイプによる単語の虚再認が生じるかを検討した。
方 法
参加者 実験は研究室紹介に参加した大学生・大学院生13名(女:男=6:7),高大連携事業に参加した2校の高校生(A校は7名(女:男=4:3),B校は16名(女性のみ))に対して行われた。
刺激語 性格特性語は安達(1985)・伊藤(1978)・沼崎(2012)・若林(1981)を参考に女性語リスト(例:献身,優雅)・男性語リスト(例:力強い,冷静)としてそれぞれ18語ずつのリストを作成した。また,一般リストとして,宮地・山(2002)より聞く・電波・警告・災害の4つのリストを使用した。
手続き 実験は学習段階と再認段階から構成されており,集団で実施された。参加者は集団ごとに女性語条件(大学生6名+A校高校生7名)か男性語条件(大学生7名+B校高校生16名)に割り当てられていた。学習段階では,参加者は教室前方のスクリーンに2秒間ずつ提示される単語を覚えるように教示された。単語は警告・聞く・特性語・電波・災害とリストごとに12語ずつ順に提示された。特性語リストについてはそれぞれの条件に対応した性別の性格特性語が提示された。単語が全て提示された後,参加者は3分間,遅延課題として単純な計算課題に取り組んだ。
再認段階では,参加者は女性語リスト・男性語リストそれぞれ8語(学習語2語+未学習語6語),一般リストそれぞれ3語(学習語1語+未学習語2語),宮地・山(2002)の実験刺激から作成した無関連な未学習語20語からなる48語の単語について学習段階に見た語かを判断し,「1.まちがいなく見ていない」「2.たぶん見ていない」「3.たぶん見た」「4.まちがいなく見た」の4件法で回答するよう求められた。
結果と考察
女性語リスト・男性語リストの未学習語について「3.たぶん見た」あるいは「4.まちがいなく見た」と回答した語の未学習語の総数に対する割合を従属変数として,条件(参加者間:女性語条件・男性語条件)×リスト(参加者内:女性語リスト・男性語リスト)の2要因混合計画での分散分析を行った。条件×リストの交互作用のみが有意であり(F (1, 34)=17.54, p<.05, ηp2=.34),両条件ともに条件と一致したリストでは不一致なリストに比べて虚再認率(未学習語を「見た」と回答する割合)が高かった(図1)。この結果は,性格特性語を用いることで,ジェンダーステレオタイプによる虚再認が生じることを示唆している。
刺激語の違いによる影響も明らかにされるべき点ではあるが,本実験課題を教材として用いる上では,実験前後の参加者のものの考え方の変化や,教材としての活用法について検討する必要がある。