10:00 〜 12:00
[JD07] 心理(教育)相談・支援機関では不登校とどのように向き合っているのか
キーワード:不登校, 相談機関
企画趣旨
不登校に対する相談・支援機関は,学校内あるスクールカウンセラーが勤務する相談室,公立の教育相談室や適応指導教室,あるいは民間のフリースクールなど多数存在しており,それぞれで行われている不登校児童生徒に対する相談,支援も多様である。たとえば,学校生活の中にある不登校の原因を除去するために直接的な環境調整をすることもあれば,不登校の原因となっている子どもや家族の心理的問題の解決を目指すこともある。一方で,相談や支援を求める不登校児童生徒や保護者の中には機関や担当するカウンセラーによって,相談の仕方やアドバイスの内容が異なり,混乱を来す場合もある。いずれの機関やカウンセラーも不登校児童生徒に対して相談や支援を行っていることに違いはないが,それぞれで不登校をどのように捉え,どこに解決目標をおいているかは必ずしも一致しているとはいえない。このことは,不登校児童生徒,保護者,あるいは関係教員がどこに行けば,どのようなサービスを受けられるかを見えにくくしているとも言える。
そこで本セッションでは,こうした機関を利用する不登校児童生徒,保護者,教員の視点に立ち,各機関では,①どのように不登校を捉え,②どのようなサービスを提供し,③どこに解決目標をおいているのか,④もし当該学校に何らかの環境調整課題があった場合はどのように対応あるいは連携するのかについて話題提供をしてもらい,これらについて議論していきたい。
スクールカウンセラーとして実践
(則定百合子)
学校における不登校に対する捉え方は,児童生徒の表出する反応や教職員の理解度によって多様であるが,一般的に,友人関係上のトラブルや心身症を併発している場合には,「学校に行きたくても行けない」という児童生徒の葛藤に対する教職員の共通理解が得られやすい一方,非行や怠学等の言動が目立つ児童生徒の場合には,そういった理解が得られにくく,依然として問題の原因を本人や家庭に帰属されることが少なくない。
話題提供者が勤務する地域では,不登校児童生徒のための別室が充実しており,開室日数に制限はあるものの,守られた教室が学校内にあり,教員免許を有するサポーターが配属されている。こうした別室とともに,相談室や保健室,図書室等の活用を含め,学校内で様々な登校形態を段階的に選択することが可能な体制作りは整備され,僅かながらも学校と繋がりを持てる児童生徒にとっては,教室復帰を目標に掲げつつ,そこに至るまでの選択の自由度が大きいという点において意義があるものと考えられる。
一方,学校との繋がりを持つことが難しい場合,外部機関をいかに活用するかが課題となるが,信頼関係が十分に確立されていない状態で,学校が外部機関を紹介することによって,児童生徒や保護者が,学校から見捨てられたという思いを抱く危険性もある。したがって,信頼関係の構築を大前提として,目標を共通理解し,学校と外部機関との連携体制をいかに提示することができるか,また,その伝え方が問われている。
近年の不登校児童生徒の一つの特徴として,生きるための活力が枯渇しているケースが多いように思われる。学校に行くか行かないかといった現実レベルの議論に固執するのではなく,日々の生活の中で,弾むように心が動く瞬間があること,また,その積み重ねによって生きる活力を取り戻していくことが,その先の長い人生の礎になることを,周囲の大人がどれだけ信じ,共通理解し,待つことができるかが重要ではないかと思われる。
公立教育相談室での実践
(中植満美子)
話題提供者は公立教育相談室に,平成25年度までカウンセラーとして勤務し,その後現在まで保護者対象の講演会・相談会実施の際の相談員や,教職員の課題研修の講師,そして,困難事例を抱える学校に対して,医師・臨床心理士等の専門家による助言・指導を実施する事例検討会の委員として関わっている。
本相談室が拠り所としている考え方は,「育てる教育相談」である。そこで目標とされているのは,子どもの人間関係形成力,コミュニケーション力,課題に直面した際の適応力の向上,そして学校においては居場所としての受容的な温かい学級集団作り,いじめ・不登校等不適応行動の予防や児童生徒の自己成長を可能にする環境作りである。つまり,本相談では,不登校の子どもは,課題を抱えた発達途上の成長しつつある対象として見なされているといえるだろう。
最近の個別面接相談者の65%が不登校であり,それも学校自体に抵抗を感じているために学内に勤務するスクールカウンセラーに繋がることが困難な事例が大半である。だからこそ,一歩でも学校の門をくぐりそこに滞在できることは,相談者にとって大きな喜びとなる。学校や関係機関内に居場所ができること,また,登校が困難であっても,新たな目標として,将来の進学先である高校や大学,就職等,未来への一歩を踏み出せるよう支援している。
子どもや保護者の個別相談,電話相談において,傾聴し受容するだけでなく,ある程度意欲が明確なケースや保護者に対しては,積極的に必要な情報提供を行い,具体的な助言を行う。学校との関係が困難な場合には,学校関係者と面談を持ち,関係調整をすることもある。
また,もう一つの主な業務である学校支援においては,学校という組織全体が支援を依頼できる外部の相談機関として,子どもたちが過ごしやすい環境づくりを学校・保護者と連携しながら整えられるよう努めている。
本セッションの機会に,様々な不登校支援の実際に触れ,公立教育相談室の意義や課題について考えていきたい。
対人関係のあり方を揺さぶる
―適応指導教室での不登校対応
(石本雄真)
適応指導教室(教育支援センター)は,各自治体の教育委員会等が設置する不登校児童生徒のための公的な“居場所”である。各適応指導教室の運営方針やそこで行われる支援内容については各自治体にゆだねられているため教室によって様々であり,一般的な適応指導教室としての考え方やあり方を示すことは難しい。このため,本話題提供の内容は話題提供者が勤務した2つの適応指導教室から考えるものである。
①不登校は様々な要因が重なって生じるものであるが,その背景として現代青年の友人関係のあり方があると考えられる。現代青年の友人関係は互いの内面を開示せず,表面的に円滑な関係をとるものであるとされる(土井,2008;岡田,2002など)。そこでは,空気を読み,本音は隠し,場に応じたキャラを演じる友人関係が求められる。このような関係は,居場所欠乏感をもたらし(石本・西中,2012),心理的適応の低下につながる。さらに,家庭も心休まる場所になっていないなどの事態が重なると不登校に至ることがある。
②公式には再登校が目標となるが,実際には本人の心理的適応の向上が第一の目標となる。
③そのために,上記のような窮屈なものではない対人関係を経験する場の提供が,適応指導教室の一つの役割であると考えられる。
④また,在籍校に環境調整課題があることは少なくないが,現状の人員では多くの場合そこまでの対応を行うことは難しい。
学校教員とは異なり,適応指導教室における指導員やメンタルフレンドの学生は,お兄さん,お姉さん,友人のような立場で子どもと関わる。つまらないことを言ってみたり,大人げないことをしてみたり,苦手なことがあったり,失敗したり…。その姿を見て子どもたちは,そんなあり方でもいいんだということに気づき,窮屈なものではない対人関係のあり方を学んでいく。
本話題提供では,両適応指導教室の事例をもとに適応指導教室からみた不登校像を示し,対応のあり方の議論につなげたい。
ノンプレッシャーで過ごす
―和光大学適応支援室「いぐお~る」での実践
(髙坂康雅)
話題提供者は2013年4月より和光大学内に適応支援室「いぐお~る」を開室し,不登校児童生徒に大学まで来てもらい,大学生らと交流する活動を行っている。「いぐお~る」のモットーは“何も強制しないこと”である。子どもたちは学校に行っても,家庭にいても,「○○をしなければならない」,「××をしてはいけない」というプレッシャー (強制) の中で生活をしている。多くの子どもたちは,そのようなプレッシャーをストレスに感じながらも,なんとか日々を過ごしているが,不登校の子どもたちは,プレッシャーに耐えられなかったり,プレッシャーに反抗したりして,学校に行かないという選択をしている。しかし,学校の代替選択肢である適応指導教室(教育支援センター)やフリースクールにも,やはり時間割をはじめとする「○○しなければならない」があり,子どもたちは再びプレッシャーに晒されることになる。そのため,「いぐお~る」では,これらのプレッシャーを排除し,自由に過ごす場所と時間を提供している。通室生からの申し出がない限り,勉強を教えることもしないし,カウンセリングもしない。通室生には選択肢だけを提供し,本人が決めた過ごし方で,1日を過ごしている。そのため,ただおしゃべりしていただけ,ゲームをしていただけ,で終わることも少なくない。
現代の子どもたちは非常に多忙である。多くのプレッシャーに晒され,時間や課題に追われ,しかし,その先の明るい未来はなかなか見えてこない。そのような中で,学校に行かないという選択をした子どもたちに,さらにプレッシャーを与えることは,決してプラスには働かない。むしろ,プレッシャーのない中でこそ,子どもたちは自ら考え,判断し,選んでいき,そして成長していく。「いぐお~る」では,そんな子どもたちの姿をみることができる。
本話題提供では,適応支援室「いぐお~る」での活動を紹介するともに,「何も強制しない」時間の重要性を論じ,議論を深めていきたい。
不登校に対する相談・支援機関は,学校内あるスクールカウンセラーが勤務する相談室,公立の教育相談室や適応指導教室,あるいは民間のフリースクールなど多数存在しており,それぞれで行われている不登校児童生徒に対する相談,支援も多様である。たとえば,学校生活の中にある不登校の原因を除去するために直接的な環境調整をすることもあれば,不登校の原因となっている子どもや家族の心理的問題の解決を目指すこともある。一方で,相談や支援を求める不登校児童生徒や保護者の中には機関や担当するカウンセラーによって,相談の仕方やアドバイスの内容が異なり,混乱を来す場合もある。いずれの機関やカウンセラーも不登校児童生徒に対して相談や支援を行っていることに違いはないが,それぞれで不登校をどのように捉え,どこに解決目標をおいているかは必ずしも一致しているとはいえない。このことは,不登校児童生徒,保護者,あるいは関係教員がどこに行けば,どのようなサービスを受けられるかを見えにくくしているとも言える。
そこで本セッションでは,こうした機関を利用する不登校児童生徒,保護者,教員の視点に立ち,各機関では,①どのように不登校を捉え,②どのようなサービスを提供し,③どこに解決目標をおいているのか,④もし当該学校に何らかの環境調整課題があった場合はどのように対応あるいは連携するのかについて話題提供をしてもらい,これらについて議論していきたい。
スクールカウンセラーとして実践
(則定百合子)
学校における不登校に対する捉え方は,児童生徒の表出する反応や教職員の理解度によって多様であるが,一般的に,友人関係上のトラブルや心身症を併発している場合には,「学校に行きたくても行けない」という児童生徒の葛藤に対する教職員の共通理解が得られやすい一方,非行や怠学等の言動が目立つ児童生徒の場合には,そういった理解が得られにくく,依然として問題の原因を本人や家庭に帰属されることが少なくない。
話題提供者が勤務する地域では,不登校児童生徒のための別室が充実しており,開室日数に制限はあるものの,守られた教室が学校内にあり,教員免許を有するサポーターが配属されている。こうした別室とともに,相談室や保健室,図書室等の活用を含め,学校内で様々な登校形態を段階的に選択することが可能な体制作りは整備され,僅かながらも学校と繋がりを持てる児童生徒にとっては,教室復帰を目標に掲げつつ,そこに至るまでの選択の自由度が大きいという点において意義があるものと考えられる。
一方,学校との繋がりを持つことが難しい場合,外部機関をいかに活用するかが課題となるが,信頼関係が十分に確立されていない状態で,学校が外部機関を紹介することによって,児童生徒や保護者が,学校から見捨てられたという思いを抱く危険性もある。したがって,信頼関係の構築を大前提として,目標を共通理解し,学校と外部機関との連携体制をいかに提示することができるか,また,その伝え方が問われている。
近年の不登校児童生徒の一つの特徴として,生きるための活力が枯渇しているケースが多いように思われる。学校に行くか行かないかといった現実レベルの議論に固執するのではなく,日々の生活の中で,弾むように心が動く瞬間があること,また,その積み重ねによって生きる活力を取り戻していくことが,その先の長い人生の礎になることを,周囲の大人がどれだけ信じ,共通理解し,待つことができるかが重要ではないかと思われる。
公立教育相談室での実践
(中植満美子)
話題提供者は公立教育相談室に,平成25年度までカウンセラーとして勤務し,その後現在まで保護者対象の講演会・相談会実施の際の相談員や,教職員の課題研修の講師,そして,困難事例を抱える学校に対して,医師・臨床心理士等の専門家による助言・指導を実施する事例検討会の委員として関わっている。
本相談室が拠り所としている考え方は,「育てる教育相談」である。そこで目標とされているのは,子どもの人間関係形成力,コミュニケーション力,課題に直面した際の適応力の向上,そして学校においては居場所としての受容的な温かい学級集団作り,いじめ・不登校等不適応行動の予防や児童生徒の自己成長を可能にする環境作りである。つまり,本相談では,不登校の子どもは,課題を抱えた発達途上の成長しつつある対象として見なされているといえるだろう。
最近の個別面接相談者の65%が不登校であり,それも学校自体に抵抗を感じているために学内に勤務するスクールカウンセラーに繋がることが困難な事例が大半である。だからこそ,一歩でも学校の門をくぐりそこに滞在できることは,相談者にとって大きな喜びとなる。学校や関係機関内に居場所ができること,また,登校が困難であっても,新たな目標として,将来の進学先である高校や大学,就職等,未来への一歩を踏み出せるよう支援している。
子どもや保護者の個別相談,電話相談において,傾聴し受容するだけでなく,ある程度意欲が明確なケースや保護者に対しては,積極的に必要な情報提供を行い,具体的な助言を行う。学校との関係が困難な場合には,学校関係者と面談を持ち,関係調整をすることもある。
また,もう一つの主な業務である学校支援においては,学校という組織全体が支援を依頼できる外部の相談機関として,子どもたちが過ごしやすい環境づくりを学校・保護者と連携しながら整えられるよう努めている。
本セッションの機会に,様々な不登校支援の実際に触れ,公立教育相談室の意義や課題について考えていきたい。
対人関係のあり方を揺さぶる
―適応指導教室での不登校対応
(石本雄真)
適応指導教室(教育支援センター)は,各自治体の教育委員会等が設置する不登校児童生徒のための公的な“居場所”である。各適応指導教室の運営方針やそこで行われる支援内容については各自治体にゆだねられているため教室によって様々であり,一般的な適応指導教室としての考え方やあり方を示すことは難しい。このため,本話題提供の内容は話題提供者が勤務した2つの適応指導教室から考えるものである。
①不登校は様々な要因が重なって生じるものであるが,その背景として現代青年の友人関係のあり方があると考えられる。現代青年の友人関係は互いの内面を開示せず,表面的に円滑な関係をとるものであるとされる(土井,2008;岡田,2002など)。そこでは,空気を読み,本音は隠し,場に応じたキャラを演じる友人関係が求められる。このような関係は,居場所欠乏感をもたらし(石本・西中,2012),心理的適応の低下につながる。さらに,家庭も心休まる場所になっていないなどの事態が重なると不登校に至ることがある。
②公式には再登校が目標となるが,実際には本人の心理的適応の向上が第一の目標となる。
③そのために,上記のような窮屈なものではない対人関係を経験する場の提供が,適応指導教室の一つの役割であると考えられる。
④また,在籍校に環境調整課題があることは少なくないが,現状の人員では多くの場合そこまでの対応を行うことは難しい。
学校教員とは異なり,適応指導教室における指導員やメンタルフレンドの学生は,お兄さん,お姉さん,友人のような立場で子どもと関わる。つまらないことを言ってみたり,大人げないことをしてみたり,苦手なことがあったり,失敗したり…。その姿を見て子どもたちは,そんなあり方でもいいんだということに気づき,窮屈なものではない対人関係のあり方を学んでいく。
本話題提供では,両適応指導教室の事例をもとに適応指導教室からみた不登校像を示し,対応のあり方の議論につなげたい。
ノンプレッシャーで過ごす
―和光大学適応支援室「いぐお~る」での実践
(髙坂康雅)
話題提供者は2013年4月より和光大学内に適応支援室「いぐお~る」を開室し,不登校児童生徒に大学まで来てもらい,大学生らと交流する活動を行っている。「いぐお~る」のモットーは“何も強制しないこと”である。子どもたちは学校に行っても,家庭にいても,「○○をしなければならない」,「××をしてはいけない」というプレッシャー (強制) の中で生活をしている。多くの子どもたちは,そのようなプレッシャーをストレスに感じながらも,なんとか日々を過ごしているが,不登校の子どもたちは,プレッシャーに耐えられなかったり,プレッシャーに反抗したりして,学校に行かないという選択をしている。しかし,学校の代替選択肢である適応指導教室(教育支援センター)やフリースクールにも,やはり時間割をはじめとする「○○しなければならない」があり,子どもたちは再びプレッシャーに晒されることになる。そのため,「いぐお~る」では,これらのプレッシャーを排除し,自由に過ごす場所と時間を提供している。通室生からの申し出がない限り,勉強を教えることもしないし,カウンセリングもしない。通室生には選択肢だけを提供し,本人が決めた過ごし方で,1日を過ごしている。そのため,ただおしゃべりしていただけ,ゲームをしていただけ,で終わることも少なくない。
現代の子どもたちは非常に多忙である。多くのプレッシャーに晒され,時間や課題に追われ,しかし,その先の明るい未来はなかなか見えてこない。そのような中で,学校に行かないという選択をした子どもたちに,さらにプレッシャーを与えることは,決してプラスには働かない。むしろ,プレッシャーのない中でこそ,子どもたちは自ら考え,判断し,選んでいき,そして成長していく。「いぐお~る」では,そんな子どもたちの姿をみることができる。
本話題提供では,適応支援室「いぐお~る」での活動を紹介するともに,「何も強制しない」時間の重要性を論じ,議論を深めていきたい。