日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-64)

ポスター発表 PA(01-64)

2016年10月8日(土) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PA46] 教科の担当教員が考える担当教科の特徴とその教科の全人教育への寄与度

人間学図による分析

吉岡亮衛 (国立教育政策研究所)

キーワード:教員の意識, 教科の特徴, 全人教育

問題と目的
 教育基本法には,「教育は,人格の完成を目指し,平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を 備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」と書かれている。これを受け高等学校学習指導要領では,「生徒の人間として調和のとれた育成を目指し,地域や学校の実態,課程や学科の特色,生徒の心身の発達の段階及び特性等を十分考慮して,適切な教育課程を編成する」として,共通する教科として10教科,57科目が定められている。
 そこで本研究では,各教科が全人教育に果たしうる範囲について,教科を担当する教員に対して担当する教科の特徴をたずねた結果について報告する。この研究は日独共同研究の形で行っており結果は日独比較の形で示す。
方   法
調査対象 日独の高校で教科を担当する教員に対し,担当する教科についてたずねる。回答者は日本114名,ドイツ115名であった。
課題内容 ドイツ科学・医学者協会(GDNÄ)が提案する人の持つ28の特性(動物に共通する14の特性と人間を特徴づける14の特性)に当てはめて,担当する教科を4段階(ほとんど寄与しない,わずかに寄与する,明らかにはっきりとした寄与をする,特性に対して大きな寄与)で評価する。加えて,その教科の社会的な貢献のポイント,教科が有効な日常場面,若者の人格形成への貢献の仕方の3点について記述式で問うた。
結   果
教科の特性 日独の教師の描く教科の特性を図1(動物に共通する特性)と図2(人間を特徴づける特性)に示す。図1からドイツはdormiens, respirans, nutriens, movensなどの自律神経系の特性の寄与を低く評価していることがわかる。このことは教科の寄与については精神的な特性への寄与を高く評価していることの裏返しである。日本においても相対的には精神的な特性の方が評価は高くなっている。動物に共通する特性と人間を特徴づける特性では,両国とも人間を特徴づける特性を高く評価しており,当然の結果が得られた。図2からは明らかにsapiens, loquensの特性を高く評価しており,言語を介した認知への寄与度が最も大きいことがわかる。
記述回答 日本については,課題2は,文化や歴史の理解と自らの能力の涵養に資する点についての指摘が多く,課題3については,異文化交流,社会への参加,身の回りの理解といったポイントがあげられており,課題4については各教科とも自己実現への貢献の指摘が多かった。
考   察
 調査の結果から,少なくとも教師による教科の評価からは学校教育は全体として全人教育に寄与している様子がうかがえた。ただし,すべての特性の習熟に満遍なく寄与しているようには見えない。教科毎の結果からはそれぞれの教科の強み,弱みを見て取ることができるので,今後何教科がどの特性に寄与度が高いのかを理由とともに明らかにする必要があると考える。
文   献
Gerhard Schaefer,Faszination Bildung-Vorbild Natur?, Naturwissenschaftliche Rundschau, 68, 2015.

本研究は,科研費基盤研究(B)研究課題番号:26282042(平成26~28年度)代表 吉岡亮衛による研究の一部である。