[PA50] 教師のどのような対応が成功しているのか
中学校教師による対応
キーワード:教師による対応, 中学校教師, 成功例
教師たちにとって,生徒指導や学級経営,部活動の指導は,大きな困難を伴うものであろう。しかし,日々の教育実践のなかで,教師たちは,生徒指導や学級経営に成功も多く経験している。本研究は,このような教師たちの日々の実践での成功例を収集することをとおして,そこに共通するメカニズムが存在する可能性について検討する。
方 法
調査対象者と調査方法 2014年の教員免許状更新講習「教育の最新事情」を受講した教師185名を対象に,これまでの教育実践や生徒指導・学級経営,部活動の指導のなかで,「うまくいった」例を15分程度で記述紹介してもらった。対象者の年齢は33歳から55歳であり(平均44歳)。勤務先は,幼稚園,小学校,中学校,高等学校,その他であった。このうち,判読不能や具体的な対応が記されていない7名と家族関係を記述した5名を除く173名のデータを分析の対象とした。ここでは中学校教師50名による65例について報告する。
結 果
カテゴリ分類 以下が記述例である。「非行傾向のAくん。酒,たばこ,深夜徘徊などで指導を受けていた。もちろん勉強への意欲も全くなし。そのうち学校にも来なくなり,顔を見なくなりました。 そんなある日,私の授業にひょっこり顔を出したAくん。今日はどうしてきたんだろう。何があったのかなー?プリントを配って課題に取り組む様子を見て回る。Aくん何か書いていた。名前が書いてあった。丁寧に美しい文字が書いてあった。うれしかった。教室に来てくれたこと,名前を書いてくれたこと,みんなの前では照れくさいから,すごく字が上手なことを私の胸の中にしまっておきました。後日,問題行動の件で指導することになった。この間授業にひょっこり出てきたこと,すごく文字が上手なことを伝えた。そしたらAくん,涙を流してた。「おれ,習字ならってたんだ」。それから少しずつ学校に来るようになった。」(いわき市立B中学校 C先生)。
この記述を「対象」(男子生徒),「問題」(非行傾向,学業意欲のなさ,不登校傾向),「教師の対応」(授業に出てくれたこと,字の上手なことを伝えた),「結果」(不登校の解消)に分類した。
問題の種類 教師たちは,生徒の個人的な生徒指導・生活指導上の問題(不登校傾向,粗暴,学習意欲の低さ等)だけでなく,学級集団全体に関わる問題(荒れた学級,まとまりのない学級等)への対応をしていた。また,部活動に関わる問題(成績が伸びない)への対応による成功例も記述されていた。
教師の対応 生徒個人,学級,部活動といった問題の種類に関わらず,対象生徒(たち)とのコミュニケーション(話す,聞く,伝える)が全ての例で言及されており,生徒とのコミュニケーションが教師の基本的な対応であるといえよう。
特に,このコミュニケーションのなかでも,65例中26例で,教師によるコンプリメントにより生徒や学級が肯定的な変化をもたらしたことが記述されている。このコンプリメントは,生徒が保有している特徴に対して(頑張ったことを誉める,長所を誉める)だけでなく,「やれることをさせる」ことや,生徒に新たに肯定的な役割を付与することで,コンプリメントの機会を創発するような働きかけもみられている(学校の設備備品を壊していた生徒たちを集め,「〇〇(担任名)工務店」チームを結成し,学校の破損箇所の修理にあたらせた。それ以来,学校の器物が破損することがなくなったばかりか,学校がよりきれいになった)。このコンプリメントは,対象の生徒個人に対してだけでなく,他の生徒に伝える(対象生徒の長所・頑張りをクラスメイトに伝えた)ことや,学級全体をコンプリメントする(合唱コンクールに向けて,意欲も,まとまりもみられないクラスに「D組はダメなクラスなんかじゃない。D組ならできるはず」と涙ながらに訴えた)ことも含まれていた。さらには,生徒たちが他の生徒をコンプリメントする仕組みも教師によって導入されている(日直が選ぶ本日のMost Valuable Persons)。
また,少数であるが(選択肢を提示し)生徒を「追い込む」対応が成功例として記述されていた(教室に入れず,教室の隣の教材室でいつも授業を受けていた生徒に,「今日は準備室が使えないので,少しの時間でいいので,教室に行ってて」と依頼した。それ以来,教室に入れるようになった)。
考 察
中学校教師の「うまくいった例」についての分析の結果,教師は対象生徒とのコミュニケーションを対応の基本としていること,特に多くの教師がコンプリメントと生徒や学級の肯定的な変化との関連について記述していたことが示された。今後は他の学校種との比較検討も求められよう。
方 法
調査対象者と調査方法 2014年の教員免許状更新講習「教育の最新事情」を受講した教師185名を対象に,これまでの教育実践や生徒指導・学級経営,部活動の指導のなかで,「うまくいった」例を15分程度で記述紹介してもらった。対象者の年齢は33歳から55歳であり(平均44歳)。勤務先は,幼稚園,小学校,中学校,高等学校,その他であった。このうち,判読不能や具体的な対応が記されていない7名と家族関係を記述した5名を除く173名のデータを分析の対象とした。ここでは中学校教師50名による65例について報告する。
結 果
カテゴリ分類 以下が記述例である。「非行傾向のAくん。酒,たばこ,深夜徘徊などで指導を受けていた。もちろん勉強への意欲も全くなし。そのうち学校にも来なくなり,顔を見なくなりました。 そんなある日,私の授業にひょっこり顔を出したAくん。今日はどうしてきたんだろう。何があったのかなー?プリントを配って課題に取り組む様子を見て回る。Aくん何か書いていた。名前が書いてあった。丁寧に美しい文字が書いてあった。うれしかった。教室に来てくれたこと,名前を書いてくれたこと,みんなの前では照れくさいから,すごく字が上手なことを私の胸の中にしまっておきました。後日,問題行動の件で指導することになった。この間授業にひょっこり出てきたこと,すごく文字が上手なことを伝えた。そしたらAくん,涙を流してた。「おれ,習字ならってたんだ」。それから少しずつ学校に来るようになった。」(いわき市立B中学校 C先生)。
この記述を「対象」(男子生徒),「問題」(非行傾向,学業意欲のなさ,不登校傾向),「教師の対応」(授業に出てくれたこと,字の上手なことを伝えた),「結果」(不登校の解消)に分類した。
問題の種類 教師たちは,生徒の個人的な生徒指導・生活指導上の問題(不登校傾向,粗暴,学習意欲の低さ等)だけでなく,学級集団全体に関わる問題(荒れた学級,まとまりのない学級等)への対応をしていた。また,部活動に関わる問題(成績が伸びない)への対応による成功例も記述されていた。
教師の対応 生徒個人,学級,部活動といった問題の種類に関わらず,対象生徒(たち)とのコミュニケーション(話す,聞く,伝える)が全ての例で言及されており,生徒とのコミュニケーションが教師の基本的な対応であるといえよう。
特に,このコミュニケーションのなかでも,65例中26例で,教師によるコンプリメントにより生徒や学級が肯定的な変化をもたらしたことが記述されている。このコンプリメントは,生徒が保有している特徴に対して(頑張ったことを誉める,長所を誉める)だけでなく,「やれることをさせる」ことや,生徒に新たに肯定的な役割を付与することで,コンプリメントの機会を創発するような働きかけもみられている(学校の設備備品を壊していた生徒たちを集め,「〇〇(担任名)工務店」チームを結成し,学校の破損箇所の修理にあたらせた。それ以来,学校の器物が破損することがなくなったばかりか,学校がよりきれいになった)。このコンプリメントは,対象の生徒個人に対してだけでなく,他の生徒に伝える(対象生徒の長所・頑張りをクラスメイトに伝えた)ことや,学級全体をコンプリメントする(合唱コンクールに向けて,意欲も,まとまりもみられないクラスに「D組はダメなクラスなんかじゃない。D組ならできるはず」と涙ながらに訴えた)ことも含まれていた。さらには,生徒たちが他の生徒をコンプリメントする仕組みも教師によって導入されている(日直が選ぶ本日のMost Valuable Persons)。
また,少数であるが(選択肢を提示し)生徒を「追い込む」対応が成功例として記述されていた(教室に入れず,教室の隣の教材室でいつも授業を受けていた生徒に,「今日は準備室が使えないので,少しの時間でいいので,教室に行ってて」と依頼した。それ以来,教室に入れるようになった)。
考 察
中学校教師の「うまくいった例」についての分析の結果,教師は対象生徒とのコミュニケーションを対応の基本としていること,特に多くの教師がコンプリメントと生徒や学級の肯定的な変化との関連について記述していたことが示された。今後は他の学校種との比較検討も求められよう。