日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PB20] 児童の積極的授業参加に関する研究(28)

児童の性格特性(知的好奇心,情緒安定性)との関連

小平英志1, 布施光代2, 安藤史高3 (1.日本福祉大学, 2.明星大学, 3.岐阜聖徳学園大学)

キーワード:授業行動, ビッグファイブ, 児童

 授業中の児童の学習行動には,多くの要因が影響している。これまでの研究では,積極的授業参加行動の3側面(注視・傾聴,挙手・発言,準備・宿題)は,教師の指導スタイル,学級の雰囲気,クラス内の地位など,環境的要因の影響を受けつつも,児童本人の動機づけや目標,コンピテンス,そしてパーソナリティによっても規定されることが示されてきた。
 小平・安藤・布施(2013)は,児童の性格特性と積極的授業参加行動の関連をビッグファイブの枠組みから検討した。その結果,良識性(誠実性)は全ての積極的授業参加行動に対して正の効果を示し,協調性の注視・傾聴への正の効果も有意であった。また,外向性については,注視・傾聴に負の効果,挙手・発言に正の効果が認められている。本研究では,ビッグファイブの残りの2側面である知的好奇心(開放性),情緒安定性(神経症傾向)を取り上げ,積極的授業参加行動への影響を探ることとする。また,学年による効果の差異にも注目し,検討を行う。
方   法
 調査対象 東海地方の公立小学校3校に在籍する3年生(男児99名,女児114名),4年生(男児117名,女児136名),5年生(男児136名,女児137名),6年生(男児132名,女児125名,不明1名)の計997名に調査を実施した。
 調査内容 ①積極的授業参加行動尺度(布施ら,2006) 国語の授業内での行動について,23項目に対して4件法で回答を求めた。②知的好奇心・情緒安定性(村上・畑山,2010) 小学生用主要5因子性格検査の中から,知的好奇心,情緒安定性に関する質問項目から12項目を用いた。質問紙にはこの他,家族との関係等について尋ねる質問が含まれていた。
結果と考察
 相関関係 積極的授業参加行動及び知的好奇心,情緒安定性との相関係数をTable 1に示す。児童の知的好奇心,情緒安定性と積極的授業参加行動の間では,いずれも有意な正の相関係数を示していた。特に知的好奇心と挙手・発言が相対的に高い係数を示し(r=.35),情緒安定性と注視・傾聴との間にもr=.24の相関関係が見られた。
 学年による効果の差異 2種のパーソナリティから積極的授業参加行動が予測可能であるかを検討するため,共分散構造分析によるパス解析を実施した。知的好奇心,情緒安定性から3種の積極的授業参加行動へのパス,知的好奇心,情緒安定性の間の共分散,積極的授業参加行動の誤差間の共分散を仮定した。このモデルについて,学年による差異を検討するため,多母集団同時分析を実施した(CFI=1.00)。知的好奇心から挙手・発言への効果は,学年でほぼ一貫して.30~.44の正の係数が確認された。その一方で,情緒安定性から注視・傾聴へのパスについては,4~6年生で係数が.20未満となり,3年生では4年生よりも有意に高い効果が確認された。この他に学年の有意な差異は見られなかった。なお,各学年の決定係数は,注視・傾聴が.06~.14,挙手・発言が.10~.21,準備・宿題で.04~.07であった。
 これまでの挙手行動の研究では,挙手に対する自己効力感が挙手を促進する要因として注目されてきたが,パーソナリティの知的好奇心の側面もまた,学年を問わず児童の挙手行動を促進する要因であることが示された。また,注視・傾聴は,特に3年生において,情緒の安定性にかかわるパーソナリティの側面の影響を受けやすいことも明らかとなった。しっかりと席に座り前を向くという授業行動が,4年生以上では情緒的な混乱や浮き沈みなどの影響を比較的受けにくく,習慣化した行動になることを示唆していると考えられる。

※本研究はJSPS 科研費【課題番号24530838】の助成を受けた。