[PB23] 心理学実験の反転授業に対する学生の受け止め方II
予習課題提出期限を早めたことによるコスト感・有効性の認知への影響
Keywords:反転授業, 有効性の認知, コスト感
反転授業(flip teaching)とは,通常の授業内容を,学習者がビデオ教材により予習し,授業時にはアクティブ・ラーニングを行う形態の授業である。反転授業が効果を持つには,予習実施率を高く保つために予習したことが活きる授業展開が必須である。藤田・芳賀(2015,日心)は,ビデオ教材による予習に対して,学習者がコスト感(面倒くささ)を感じていても,授業内容の理解に役立つと有効性を認知することで,高い予習実施率を保ちうることを報告した。ただし,ビデオ教材の視聴開始および課題提出がともに提出期限の前日に集中しているという実態も明らかになった。
2015年度は反転授業の教育効果をさらに高めるために,予習課題以外の準備学習を行う余地を確保するよう,予習課題の提出期限を授業直前から,授業の2日前に前倒しした。本研究では,このことの影響を,予習実施の程度,コスト感,有効性の認知について前年度と比較し,検討する。
方 法
調査対象 法政大学文学部心理学科の2年次配当科目「演習Ⅱ」という中級実験演習の2014年度65名,2015年度70名の受講生。この科目は実質的に必修であり全15回。5名の教員が共通シラバスの下,共通の教材・授業案を用いて担当した。初回を除く全ての回で班活動が主であり,各班で実験計画・実施・成果発表をし,最後にミニ論文を執筆するというPBL形式の授業であった。ビデオ教材を用いた反転授業は,要因計画の基礎を中心とした第2-5回の授業に対してであり,第6-15回では,ビデオ教材無しの文書での予習を課した。
予習課題 藤田・芳賀(2015)と基本的に同一。授業支援システムで事前にpdf化した授業プリントを配信し,そのpdf中の設問に対して各受講生が回答を記入し,授業支援システム経由で授業開始前に提出,および印刷して授業に持参するという構成は,2-15回までの授業で共通であった。
2-5回の授業の各回で配信されたビデオ教材は2-3本であり,1本あたり10-15分程度の長さであった。授業支援システムから動画へのリンクが張られており,視聴開始時刻,予習教材pdfの参照時刻,回答の提出時刻が記録された。ビデオ教材の冒頭では授業者の上半身が写されるが,解説中はパワーポイントの画面(アニメーション機能を多用)に解説音声を同期させることを原則とした(cf. Guo, Kim,& Rubin, 2014)。
質問紙 各年度とも第2,7,15回の授業冒頭で,授業外学習に関する質問紙を実施。「教科書の予習」「それまでの授業内容の復習」「課題(宿題)に取り組む」「授業外での班活動」「ビデオ教材視聴」について,この演習IIおよび他の授業の別に「行うつもりの(行った)程度(実施)」,「効果的だと思う(有効性の認知)」,「行うのは面倒(コスト感)」について,6件法(6:非常によく当てはまる~1:まったく当てはまらない)で評定を求めた。
結果と考察
予習実施率 2-15回授業を通じての平均予習課題提出率は2014年度92.9%,2015年度90.2%。2-5回のビデオ教材を用いた反転授業回はいずれも90%以上を維持しており,平均は2014年度94.6%,2015年度92.9%。出席者に限って言えば,はほぼ全員,予習課題を提出してきていたといえる。
授業外学習質問紙 以下の分析は3回の質問紙調査すべてに同意の上回答した者,2014年度53名と2015年度56名が分析対象。ここでは「ビデオ教材視聴」の結果についてのみ報告する。
調査を行った授業回ごとの,各年度の「予習の実施」の平均値を図1に示す。2要因分散分析の結果,交互作用が有意傾向だったが主効果はいずれも有意にならなかった。有効性の認知は主効果,交互作用はいずれもn.s.で,コスト感は年度の主効果のみ有意傾向だった(2015≧2014)。これらの結果を総合すると,提出期限が早まったことにより,コスト感が高まった可能性があるが,有効性の認知が下がるわけではなく,予習の実施にはほとんど影響しなかったといえるだろう。
2015年度は反転授業の教育効果をさらに高めるために,予習課題以外の準備学習を行う余地を確保するよう,予習課題の提出期限を授業直前から,授業の2日前に前倒しした。本研究では,このことの影響を,予習実施の程度,コスト感,有効性の認知について前年度と比較し,検討する。
方 法
調査対象 法政大学文学部心理学科の2年次配当科目「演習Ⅱ」という中級実験演習の2014年度65名,2015年度70名の受講生。この科目は実質的に必修であり全15回。5名の教員が共通シラバスの下,共通の教材・授業案を用いて担当した。初回を除く全ての回で班活動が主であり,各班で実験計画・実施・成果発表をし,最後にミニ論文を執筆するというPBL形式の授業であった。ビデオ教材を用いた反転授業は,要因計画の基礎を中心とした第2-5回の授業に対してであり,第6-15回では,ビデオ教材無しの文書での予習を課した。
予習課題 藤田・芳賀(2015)と基本的に同一。授業支援システムで事前にpdf化した授業プリントを配信し,そのpdf中の設問に対して各受講生が回答を記入し,授業支援システム経由で授業開始前に提出,および印刷して授業に持参するという構成は,2-15回までの授業で共通であった。
2-5回の授業の各回で配信されたビデオ教材は2-3本であり,1本あたり10-15分程度の長さであった。授業支援システムから動画へのリンクが張られており,視聴開始時刻,予習教材pdfの参照時刻,回答の提出時刻が記録された。ビデオ教材の冒頭では授業者の上半身が写されるが,解説中はパワーポイントの画面(アニメーション機能を多用)に解説音声を同期させることを原則とした(cf. Guo, Kim,& Rubin, 2014)。
質問紙 各年度とも第2,7,15回の授業冒頭で,授業外学習に関する質問紙を実施。「教科書の予習」「それまでの授業内容の復習」「課題(宿題)に取り組む」「授業外での班活動」「ビデオ教材視聴」について,この演習IIおよび他の授業の別に「行うつもりの(行った)程度(実施)」,「効果的だと思う(有効性の認知)」,「行うのは面倒(コスト感)」について,6件法(6:非常によく当てはまる~1:まったく当てはまらない)で評定を求めた。
結果と考察
予習実施率 2-15回授業を通じての平均予習課題提出率は2014年度92.9%,2015年度90.2%。2-5回のビデオ教材を用いた反転授業回はいずれも90%以上を維持しており,平均は2014年度94.6%,2015年度92.9%。出席者に限って言えば,はほぼ全員,予習課題を提出してきていたといえる。
授業外学習質問紙 以下の分析は3回の質問紙調査すべてに同意の上回答した者,2014年度53名と2015年度56名が分析対象。ここでは「ビデオ教材視聴」の結果についてのみ報告する。
調査を行った授業回ごとの,各年度の「予習の実施」の平均値を図1に示す。2要因分散分析の結果,交互作用が有意傾向だったが主効果はいずれも有意にならなかった。有効性の認知は主効果,交互作用はいずれもn.s.で,コスト感は年度の主効果のみ有意傾向だった(2015≧2014)。これらの結果を総合すると,提出期限が早まったことにより,コスト感が高まった可能性があるが,有効性の認知が下がるわけではなく,予習の実施にはほとんど影響しなかったといえるだろう。