日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PB28] 科学技術の社会問題に関する思考の調査(2)

大学生の思考に影響する要因の検討

坂本美紀1, 山口悦司#2 (1.神戸大学, 2.神戸大学)

キーワード:科学技術の社会問題, 意思決定, 影響する要因

問題・目的
 科学技術の社会問題(socioscientific issues; SSI)とは,道徳や倫理を含む多様な価値が関わる,よく定義されていない問題を指す。科学リテラシーや市民リテラシーの観点から,研究や実践が増加しているが,日本でのデータはまだ少ない。本研究では,Sadler & Zeidler(2005)の手続きに基づき,日本の大学生を対象に,SSIに対する思考を調査した。本稿では,2つのシナリオに焦点化し,思考に影響する要因とその差異について検討する。
方   法
参加者:大学生40名(理系専攻20名,文系専攻20名。男女半数ずつ)。
手続き:個別に半構造化面接を実施し,音声を記録した。ハンチントン病の遺伝子治療と死児のクローニングについて,各シナリオを読ませて賛否の意思決定を求めた上で,当事者の気持ちなど11の要因について,「~について考えましたか」という教示により,意思決定への影響を質問した。
結果・考察
1.SSIに対する意思決定に影響する要因
 下された意思決定の内訳は次の通り。遺伝子治療:賛成24名,反対14名,その他2名;クローニング:賛成4名,反対33名,その他3名。意思決定が即座にできたと回答した者の割合は,遺伝子治療10%,クローニング90%であり,有意差が認められた(McNemar検定)。
 当該シナリオでの意思決定の際に,各要因を考慮したと回答した者の割合を,Figure.1に示す。よく考慮された要因は,当事者の気持ちや立場であり,子どもの権利や医師の責任,技術の利用可能性はあまり考慮されなかった。シナリオ間で有意差があった要因は,親の気持ちと当事者の立場であり,クローニングで多く考慮された(McNemar検定)。考慮した要因の平均値は,遺伝子治療5.1 (SD=2.3),クローニング5.5(SD=1.9)であった。
2.専攻や性別による比較
 考慮した率に有意差(χ2検定)が見られた要因をTable.1,2に示す。遺伝子治療では,親の気持ち(理系>文系),倫理,技術的問題(ともに女>男,p<.10),クローニングでは,立場(男>女),親の権利(女>男),技術的問題(女>男),医師の責任(理系>文系,p<.10),親の責任,副作用(ともに女>男,p<.10)であった。
3.結論
 Sadler & Zeidler(2005)の分析は,思考に影響する要因のうち,倫理・道徳の回答事例を挙げたにとどまる。本研究では,より包括的に考慮された要因を解明・比較することができた。今後の課題は,各要因の重み付けや意思決定との関連など,思考のプロセスを詳細に検討することである。
附   記
 本研究は,JSPS科研費(26282038,15K12381)の助成を受けた。