日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PB32] 参勤交代に関する認識の変容を目指した社会科授業の開発

大名行列絵巻物を活用した小学6年生の授業実践を通して

吉國秀人1, 前田浩伸#2 (1.兵庫教育大学大学院, 2.和歌山市立新南小学校)

キーワード:参勤交代, 授業実践, 認識の変容

問題と目的
 学習者が事前に有する不十分な認識については,自然科学領域だけでなく,社会科など人文科学領域の学習場面においても,着目して研究が続けられている(例えば,麻柄・進藤,2008;前田,2014)。江戸時代の学習で取り上げられる参勤交代は,幕府が大名を経済的に統制する目的で行った政策という解釈と共に,経済的困窮を招いたのは参勤交代の結果としておこったことであるという解釈も歴史学では指摘されている。本研究では後者の解釈から参勤交代を捉え直し,1.参勤交代に関する児童の認識の実態を明らかにすること,2.複数の大名行列絵巻物を活用し予想活動を行う授業の効果について実践を通して調べることを目的とする。
方   法
 実践は事前調査→研究授業→事後調査の順に行われた。事前と事後の両調査に参加した22名を結果の分析対象者とした。実践時期は2016年2月。
 事前調査は,参勤交代に関する内包課題,地元の行列予想課題の2つであった。内包課題は,時代に関する1問,大名行列の特徴に関する3問,参勤交代制度に関する2問から成る正誤問題であった。有田(2006)の大名行列塗り絵を見ながら回答を求めた。次に,行列予想課題では,城下町に位置する実践校の地元で大名行列が見られたかを予想してもらった。研究授業は,クラス担任の実践協力を得ながら研究者が主導して,2授業時数行った。既習である江戸時代の参勤交代について振り返り,さらに学びを発展させる位置づけで計画された。次の3つの目標,1.江戸時代の大名は,参勤交代で江戸城にいる将軍にあいさつし,江戸を守る仕事をしたこと,2.参勤交代の結果,莫大なお金を使わなければならなかったこと,3.参勤交代の行列を,地元や江戸な人目が多い場所では,りっぱに見せようとしたことを,具体的に理解させることを目指した。授業では,7つの発問と併せて,教具として1.津山藩松平斉孝津山入国行列図,2.徳川斉順帰国行列図のコピー,3.江戸一目図屏風を活用した。最後に事後調査では,参勤交代に関する内包課題と授業の感想を尋ねた。
結果と考察
 事前調査の参勤交代に関する内包課題において,行列が江戸時代の様子であることは8割の者が理解できていた。一方,大名が2年に1度江戸へ向かう制度であったと正答した者は14名(64%)と十分とはいえなかった。また,行列の大名は1人であること,行列の棒は武器であること,行列に奥さんがいないといった,行列の特徴に関しても正答率は十分でなかった。手がかりとなる絵が提示された問題解決場面でも,参勤交代の制度や行列の特徴を正しく認識することは必ずしも容易でない実態が示唆された。次に,地元の行列予想課題では,見られたと正しく予想した者は8名(36%),見られなかったとの予想が9名(41%),わからないが5名(23%)と,予想は分かれた。
 大名行列絵巻物を活用した授業後に実施した内包課題の結果をTable 1に示す。参勤交代の制度,大名行列の特徴,いずれも正答率は7割以上だった。今回の授業によって一定の成果が見られたことが伺える結果と言えよう。また感想文でも,行列に大名がたったひとりで驚いたことや,持っている棒が武器だったことへの言及が複数見られた。授業目標と調査課題との対応関係を改善し,改めて授業実践を構築することが,今後の課題である。