[PB42] ルーブリックに基づく自己採点がレポートの引用文献の記載に与える効果
認知心理学ミニレポートにおける検討
キーワード:ルーブリック, メタ認知, 引用文献
問題と目的
ルーブリックは学生らに主体的学習を促す手法の一つであり(松下, 2014),さまざまな教育効果が見込まれている。そのうちの一つとして,教員と学生とが同一の評価基準を共有することにより,より適切なメタ認知能力の向上に寄与すること(今井・加藤, 2014, 2015)が挙げられよう。
大学教育で実施されることの多いレポート課題では,自身の執筆した文章を客観視し,自分の考えや関連事項について,他者にも理解できるよう根拠を添えて説明することが必要となる。つまり,メタ認知能力の大いに寄与するところであり,またその発現が明確に文章の形で見えやすくなる。本研究では,とりわけ引用文献の記載に注目した。適切な文献の引用のためには,主観と客観,自分の意見と他者の意見との区別を初めとして,その分野における各文献の重要性や信頼性,妥当性,自分の意見に対する反証・根拠としての強さ等を理解する必要があり,それらが反映されやすいと考えたためである。
本研究では,認知心理学に関するレポートの執筆を取り上げ,評価基準を示しただけの場合(基準明示群)と示された評価基準に基づいて自己採点を行わせた場合(自己採点群)とで,文献の引用に関する学生のパフォーマンスがどのように変わるか検討を行った。
方 法
調査対象者:
基準明示群:2014年度認知心理学受講生103名。
自己採点群:2015年度認知心理学受講生72名。
手続き:いずれの群においても,認知心理学の初回と第2回目の授業において,1.毎週800字以上のテーマに沿ったミニレポートの提出が課されること,2.採点基準は,「日本語の正しさ」「字数」「テーマと内容との適切性」「内容・知識の正確さ(文献の正しい引用含む)」「論理性(説明の分かりやすさ)」「説得力」「その他(熱意・独自性等)」であり,3段階で採点されることをルーブリック形式で示し丁寧に説明し,シラバスにも簡易に示した。自己採点群にはチェックリストを渡し,ミニレポートと同時に自己採点を提出するよう求めた。ミニレポートのテーマは,「知覚」「注意」など認知心理学に関するものであり,学生が課題になんじんだと考えられる5回目「表象」をテーマとするミニレポートを分析対象とした。
結 果
基準明示群:引用文献を明記していたのは,全103レポート中34件(33.01%)であった。引用文献が示されているもののうち,引用文献が1件のみであるものが24件,2件のものが8件,3件のものが2件であった。また,文献の種類について,指定の教科書19件,WEBからの引用5件,辞典類1件,専門書7件,授業内容2件であった。
自己採点群:引用文献を明記していたのは,全72レポート中49件(68.06%)であった。引用文献が示されているもののうち,引用文献が1件のみであるものが33件,2件のものが12件,3件のものが3件,4件のものが1件であった。また,文献の種類について,指定の教科書37件,WEBからの引用8件,辞典類2件,専門書11件,一般書1件,授業内容2件,論文5件,学生が自身で集めたデータ1件であった。
各群の比較:各群における引用文献記載の有無の割合を図1に示した。図1に示された偏りについてカイ自乗検定を行ったところ,偏りは有意であり(χ2(1)=19.43, p<.01),自己採点群における引用文献の記載率が高いことが明らかとなった。
考 察
本研究の結果,基準を明示するだけでなく自己採点を求めるなど学生自身に積極的に基準の活用を求めた方が,引用文献等に対する意識がより刺激され,教育効果の高まることが示された。
注:本研究は,平成27年度北海道教育大学大学教育開発センター研究事業による支援を受けた。
ルーブリックは学生らに主体的学習を促す手法の一つであり(松下, 2014),さまざまな教育効果が見込まれている。そのうちの一つとして,教員と学生とが同一の評価基準を共有することにより,より適切なメタ認知能力の向上に寄与すること(今井・加藤, 2014, 2015)が挙げられよう。
大学教育で実施されることの多いレポート課題では,自身の執筆した文章を客観視し,自分の考えや関連事項について,他者にも理解できるよう根拠を添えて説明することが必要となる。つまり,メタ認知能力の大いに寄与するところであり,またその発現が明確に文章の形で見えやすくなる。本研究では,とりわけ引用文献の記載に注目した。適切な文献の引用のためには,主観と客観,自分の意見と他者の意見との区別を初めとして,その分野における各文献の重要性や信頼性,妥当性,自分の意見に対する反証・根拠としての強さ等を理解する必要があり,それらが反映されやすいと考えたためである。
本研究では,認知心理学に関するレポートの執筆を取り上げ,評価基準を示しただけの場合(基準明示群)と示された評価基準に基づいて自己採点を行わせた場合(自己採点群)とで,文献の引用に関する学生のパフォーマンスがどのように変わるか検討を行った。
方 法
調査対象者:
基準明示群:2014年度認知心理学受講生103名。
自己採点群:2015年度認知心理学受講生72名。
手続き:いずれの群においても,認知心理学の初回と第2回目の授業において,1.毎週800字以上のテーマに沿ったミニレポートの提出が課されること,2.採点基準は,「日本語の正しさ」「字数」「テーマと内容との適切性」「内容・知識の正確さ(文献の正しい引用含む)」「論理性(説明の分かりやすさ)」「説得力」「その他(熱意・独自性等)」であり,3段階で採点されることをルーブリック形式で示し丁寧に説明し,シラバスにも簡易に示した。自己採点群にはチェックリストを渡し,ミニレポートと同時に自己採点を提出するよう求めた。ミニレポートのテーマは,「知覚」「注意」など認知心理学に関するものであり,学生が課題になんじんだと考えられる5回目「表象」をテーマとするミニレポートを分析対象とした。
結 果
基準明示群:引用文献を明記していたのは,全103レポート中34件(33.01%)であった。引用文献が示されているもののうち,引用文献が1件のみであるものが24件,2件のものが8件,3件のものが2件であった。また,文献の種類について,指定の教科書19件,WEBからの引用5件,辞典類1件,専門書7件,授業内容2件であった。
自己採点群:引用文献を明記していたのは,全72レポート中49件(68.06%)であった。引用文献が示されているもののうち,引用文献が1件のみであるものが33件,2件のものが12件,3件のものが3件,4件のものが1件であった。また,文献の種類について,指定の教科書37件,WEBからの引用8件,辞典類2件,専門書11件,一般書1件,授業内容2件,論文5件,学生が自身で集めたデータ1件であった。
各群の比較:各群における引用文献記載の有無の割合を図1に示した。図1に示された偏りについてカイ自乗検定を行ったところ,偏りは有意であり(χ2(1)=19.43, p<.01),自己採点群における引用文献の記載率が高いことが明らかとなった。
考 察
本研究の結果,基準を明示するだけでなく自己採点を求めるなど学生自身に積極的に基準の活用を求めた方が,引用文献等に対する意識がより刺激され,教育効果の高まることが示された。
注:本研究は,平成27年度北海道教育大学大学教育開発センター研究事業による支援を受けた。