日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PB45] 教員養成課程におけるワークショップ型授業の実践力の育成

ワークショップの学びの理解を目指したプログラムの開発

城間祥子 (上越教育大学)

キーワード:教員養成, ワークショップ型授業, 学習観

問題と目的
 ワークショップは「講義など一方的な知識伝達のスタイルではなく,参加者が自ら参加・体験して共同で何かを学びあったり,創り出したりする学びと創造のスタイル」(中野,2001)と定義される。1990年代以降,社会教育,演劇,美術,まちづくり,企業研修など多様な分野で急速に広まってきた。学校教育でも,人権教育,国際理解教育,メディアリテラシー教育,演劇教育,コミュニケーション教育などの領域を中心にワークショップ型授業の実践が行われている。
 ワークショップには「先生」は存在しない。正解のない問題に対して参加者全員で答えを作り出していくプロセスそのものがワークショップの学びである。学校教育にワークショップを導入する場合,教師が社会構成主義的な学習観を受容し,ワークショップにおける学びの特徴を十分に理解しておく必要がある。
 本研究では,教員養成課程の学生を対象に,ワークショップに対する関心を高め,ワークショップの学びについて理解を深めることを目的とした入門レベルのプログラムを開発し評価を行う。
方   法
 教員養成系大学の学部専門科目で授業の一部として実施した。受講生は2年生6名であった。全員が前年度にワークショップ型の表現科目を履修しており,ワークショップの経験があった。また,受講生の中には,地域の子どもを対象にレクリエーションや野外活動,工作,運動などの活動を学生自らが企画実施する,大学の正課外活動に参加している者もいた。
 プログラム内容は,①インプロゲームによるアイスブレイク,②ワークショップに関する講義,③グループワーク「ワークショップ型授業を考えよう」,④発表,⑤振り返りから構成され,所要時間は90分であった。講義部分ではワークショップの定義,広がり,学びの特徴を教員が説明した。その後,2グループに分かれ,小学校の授業を想定してワークショップ型授業のプランを作成した。プログラムの前後での学生の変化を把握するため,講義の前と振り返りのタイミングで,ワークシートに記入する時間を設けた。通常授業を行う講義室とは異なる,図書館のアクティブラーニングスペースで実施した。
結   果
(1) プログラム実施前の知識
 講義の前にワークショップについて知っていることを書き出してもらったところ,4名が「体験」「参加」「集団」「協働」「みんなで」などワークショップの特徴に関する何らかのキーワードを挙げた。例えば,学生Aは「集団で話し合いや体験の中で学びあうこと」と記述しており,すでにワークショップについて一定の知識を持っていたことがわかる。一方,学生Bは「学校の知らないところを見つけようみたいなのをやった」と記述し,経験はあるものの知識は十分ではない。
(2) ワークショップへの関心度
 授業前及び授業後に,ワークショップに参加してみたいかを「1.まったく参加したくない」から「5.とても参加したい」の5段階で評価してもらった。評価の中央値は,授業前3.5,授業後4.0であった。サイン検定を行ったところp=0.06(両側検定)であり,関心は高まったといえる。
(3) ワークショップに対する理解の深まり
 授業後の記述を分析したところ,6名全員が「自分の考えを深める」「子どもの成長」などワークショップの学びの側面に着目していた。また,5名が「楽しさ」に言及しており,「楽しく学べる」というイメージが形成されたと考えられる。さらに,学校の授業でワークショップを行うことを想定して,「教師の役割」「授業で全員が参加しなければならない場合の動機づけ」「進度の差が生じたときの対応」など具体的な疑問が出された。
まとめと今後の課題
 90分のプログラムを通して,ワークショップに対する関心が高まり,学校教育でも児童生徒の学びを促すために活用できるという認識を持たせることができた。ただし,本研究では参加者が限られていたため,より多くの教員志望の学生に対してプログラムを実施し,効果を検証する必要がある。また,ワークショップに関心をもった学生に向け,実践的なスキルを身に付けることができる上位プログラムの開発が課題である。
引用文献
中野民夫 (2001). ワークショップ―新しい学びと創造の場― 岩波新書