[PB48] 社会的排除としてのいじめの類型化
社会的欲求の阻害と社会的痛みからの理解
キーワード:社会的排除, 社会的痛み, いじめ
社会的排除(social exclusion)は,人の基本的な社会的欲求の充足を阻害する(e.g., Williams & Zadro, 2005)ため,心身両面で社会的痛み(social pain)を生じさせる(Eisenberger, et al, 2003; MacDonald & Leary, 2005)ことが示されてきた。いじめはこの社会的排除の1つのエピソードと捉えられる(Leary, 2005)が,いじめ事態において阻害を受ける社会的欲求の違いにより,いじめ様態と社会的痛みは一様であるとは考えられない。そこで本研究では,いじめについて,社会的欲求の阻害状態から事態を類型化し,それぞれの事態のいじめ様態と社会的痛みの特徴を探索することが目的であった。
方 法
調査委対象者 東京,神奈川,埼玉,福島,石川,兵庫の計8校の大学生431名に回答依頼し,いじめ事態を想定した207名(男性63名,女性144名,順に平均年齢19.54歳,19.58歳)を分析対象とした。
質問紙構成 1.フェース・シート:性別や年齢等を尋ねた。2.教示と排除場面の想定:Leary(2005)に従い,低い関係性評価(relational evaluation)を受けた実際の経験1つについて自由記述を求めた。3.経験時期:経験した時期を尋ねた。4.排除エピソード:排除,排斥,いじめ,裏切り等9エピソードそれぞれについて,想定場面が当てはまる程度を“全く当てはまらない”(+1)から“極めて当てはまる”(+7)までの7件法で尋ねた。5.PANAS-X(情緒):Watson and Clark(1994)からGeneral Negative Affect6次元及びSurprise次元の32項目に“気持ちが傷つけられた”“ショックな”等7項目の計39項目について,“全く当てはまらない”(+1)から“極めて当てはまる”(+7)までの7件法で尋ねた。6.社会的欲求充足(欲求充足):Jamieson, et al(2010)による所属(belonging),存在有意味さ(meaningful existence),自尊感情(self-esteem),統制(control)の20項目と,アイデンティティとサポート各6項目の計32項目について,当てはまる程度を“全く当てはまらない”(+1)から“極めて当てはまる”(+7)までの7件法で尋ねた。なお,他に質問が設定されていたが,本研究の目的に照らし報告を割愛する。
結 果
合成得点の算出 情緒7次元及び欲求充足6種について平均評定値を各尺度得点とした。
いじめ事態類型 欲求充足得点をもとにサンプルクラスタ分析(Ward法)を行い,明確な特徴をもつ6クラスタを析出した。その上で,各欲求充足得点をZ得点に変換した後,6クラスタの社欲求充足得点に対して多要因分散分析を行った。Box検定は有意(M=238.49,p<.01)であったため社会的欲求得点毎,クラスタ1要因分散分析を行った。Table 1よりクラスタ(CL)1は,所属など社会的カテゴリの喪失が窺われることから「社会性喪失型」と解釈した。CL2は,サポート以外は阻害されていることから「自律性喪失型」,CL3については,アイデンティティは充足されているものの,所属や自尊,統制が強く阻害されているため自己の孤立化を意識せざるを得ない事態として「孤立アイデンティティ型」と命名した。CL4は全てに強く阻害,逆にCL5はいずれも影響がないかむしろ充足され続けていることから,順に「重度型」「軽度型」と解した。CL6は,統制と自尊のみに阻害があり,道具性/機能性が脅威にさらされている「効力感喪失型」と考えられた。
Table 2には,類型毎に,想定場面を経験した時期についての内訳を示す。
いじめ様態と社会的痛み 類型毎に,いじめ/社会的痛みが,他の排除エピソード/情緒のいずれにより,より良く説明されるかを検討するため,「いじめ」評定値/「気持ちが傷つけられた」評定値を目的変数,8エピソードの評定値/7情緒得点を説明変数とする重回帰分析(強制投入法)を行った。その結果,有意な標準化偏回帰係数を示したエピソード及び情緒はTable 3の通りであった。
考 察
本研究結果からは,社会的欲求の阻害状況によって,多様ないじめ類型が見出された。また特に,捨てられや裏切りを伴ういじめや,排斥とともに汚名・恥辱を与えるいじめは,自尊感情や統制に加えて自身の存在意味をも見失わせかねない重大な事態を引き起こす可能性も窺われた。類型に応じた介入と援助の方策を検討する必要性があろう。
今後,排除場面の構造(e.g., Leary, 2005)といじめ様態及び阻害欲求との規定性を詳細に検討していくことが,いじめによる一次的・二次的障害を理解する上の検討課題とされよう。
方 法
調査委対象者 東京,神奈川,埼玉,福島,石川,兵庫の計8校の大学生431名に回答依頼し,いじめ事態を想定した207名(男性63名,女性144名,順に平均年齢19.54歳,19.58歳)を分析対象とした。
質問紙構成 1.フェース・シート:性別や年齢等を尋ねた。2.教示と排除場面の想定:Leary(2005)に従い,低い関係性評価(relational evaluation)を受けた実際の経験1つについて自由記述を求めた。3.経験時期:経験した時期を尋ねた。4.排除エピソード:排除,排斥,いじめ,裏切り等9エピソードそれぞれについて,想定場面が当てはまる程度を“全く当てはまらない”(+1)から“極めて当てはまる”(+7)までの7件法で尋ねた。5.PANAS-X(情緒):Watson and Clark(1994)からGeneral Negative Affect6次元及びSurprise次元の32項目に“気持ちが傷つけられた”“ショックな”等7項目の計39項目について,“全く当てはまらない”(+1)から“極めて当てはまる”(+7)までの7件法で尋ねた。6.社会的欲求充足(欲求充足):Jamieson, et al(2010)による所属(belonging),存在有意味さ(meaningful existence),自尊感情(self-esteem),統制(control)の20項目と,アイデンティティとサポート各6項目の計32項目について,当てはまる程度を“全く当てはまらない”(+1)から“極めて当てはまる”(+7)までの7件法で尋ねた。なお,他に質問が設定されていたが,本研究の目的に照らし報告を割愛する。
結 果
合成得点の算出 情緒7次元及び欲求充足6種について平均評定値を各尺度得点とした。
いじめ事態類型 欲求充足得点をもとにサンプルクラスタ分析(Ward法)を行い,明確な特徴をもつ6クラスタを析出した。その上で,各欲求充足得点をZ得点に変換した後,6クラスタの社欲求充足得点に対して多要因分散分析を行った。Box検定は有意(M=238.49,p<.01)であったため社会的欲求得点毎,クラスタ1要因分散分析を行った。Table 1よりクラスタ(CL)1は,所属など社会的カテゴリの喪失が窺われることから「社会性喪失型」と解釈した。CL2は,サポート以外は阻害されていることから「自律性喪失型」,CL3については,アイデンティティは充足されているものの,所属や自尊,統制が強く阻害されているため自己の孤立化を意識せざるを得ない事態として「孤立アイデンティティ型」と命名した。CL4は全てに強く阻害,逆にCL5はいずれも影響がないかむしろ充足され続けていることから,順に「重度型」「軽度型」と解した。CL6は,統制と自尊のみに阻害があり,道具性/機能性が脅威にさらされている「効力感喪失型」と考えられた。
Table 2には,類型毎に,想定場面を経験した時期についての内訳を示す。
いじめ様態と社会的痛み 類型毎に,いじめ/社会的痛みが,他の排除エピソード/情緒のいずれにより,より良く説明されるかを検討するため,「いじめ」評定値/「気持ちが傷つけられた」評定値を目的変数,8エピソードの評定値/7情緒得点を説明変数とする重回帰分析(強制投入法)を行った。その結果,有意な標準化偏回帰係数を示したエピソード及び情緒はTable 3の通りであった。
考 察
本研究結果からは,社会的欲求の阻害状況によって,多様ないじめ類型が見出された。また特に,捨てられや裏切りを伴ういじめや,排斥とともに汚名・恥辱を与えるいじめは,自尊感情や統制に加えて自身の存在意味をも見失わせかねない重大な事態を引き起こす可能性も窺われた。類型に応じた介入と援助の方策を検討する必要性があろう。
今後,排除場面の構造(e.g., Leary, 2005)といじめ様態及び阻害欲求との規定性を詳細に検討していくことが,いじめによる一次的・二次的障害を理解する上の検討課題とされよう。