[PC61] 大学生の被虐待経験が児童虐待意識と実行可能性に及ぼす影響
“しつけのつもり”で虐待をするのか?
Keywords:児童虐待
問題・目的
児童虐待が発生する一因として,幼少期の被虐待経験が親になった時の虐待可能性を高める,いわゆる“虐待の世代間連鎖”が挙げられる。そのメカニズムは,例えば曾田・大河原(2014)によると,被虐待経験により,被害的認知,育児不安,自尊感情の低下といった負情動が喚起され,その結果,虐待しやすい状況になるとされている。
一方で,児童虐待の加害動機として,“しつけのつもり”が多く挙げられている(厚生労働省,2015)。この場合,加害者の負情動ではなく,虐待という自覚がなく虐待をしている可能性が考えられる。このことから,被虐待経験により,虐待に対する意識が低下することで,虐待の実行可能性が高まるという仮説が成り立つ。
そこで本研究では,大学生を対象に,被虐待経験が児童虐待に対する意識と実行可能性に及ぼす影響について検討することを目的とする。
方 法
調査対象者 A県内の私立大学大学生90名(1年生32名,2年生57名,不明1名)。全調査対象者には,事前にa)調査結果を本研究以外で使用しないこと,b)個人が特定されることは絶対にないこと,c)回答は自由意思であることを伝えた。
調査内容 1)被虐待経験:児童虐待防止法により,児童虐待とされている身体的虐待,心理的虐待,ネグレクトの行動,および児童虐待ではないが不適切な養育行動(各2項目)の全8項目について,幼稚園・小学校時代の経験を3件法(「何度も経験がある」「経験がある」「経験がない」,順に3~1点)で尋ねた。2)児童虐待に対する意識(以下,虐待意識):上記1)の8項目について,しつけの範囲を超えているかどうかを4件法(「超えている」「どちらかといえば超えている」「どちらかといえば超えていない」「超えていない」,順に4~1点)で尋ねた。3)虐待の実行可能性:上記1)の8項目について,将来親になった時にその行動をとると思うかを4件法(「そう思う」「ややそう思う」「あまりそう思わない」「そう思わない」,順に4~1点)で尋ねた。
調査期間 2015年11月中旬。
結果・考察
因子分析および信頼性の検討 虐待意識について,探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行った結果,2因子解が抽出された。それぞれ虐待(「殴ったり蹴ったりする」「暴言を言う」など4項目,α=.83),過度なしつけ(「過剰な干渉をする」「行き過ぎた期待をする」の2項目,α=.83)と命名した。
分析前の手続き 調査内容1)2)3)の各因子の加算平均を下位尺度得点とした。調査内容2)3)について,被虐待経験の有無別に因子ごとの平均得点と標準偏差(Table中の括弧)をTableに示す。なお,本研究では被虐待経験について検討するため,以降の分析では虐待因子のみを用いる。
被虐待経験と虐待意識および虐待の実行可能性との関連 被虐待経験が虐待意識を介して,あるいは直接虐待の実行可能性に影響を与えるというモデルによる共分散構造分析を行った。その結果,Figureに示すモデルが得られた。まず,被虐待経験が虐待意識に負の影響を与えるが,虐待意識が虐待の実行可能性に影響を与えないことが示された。次に,被虐待経験から虐待への実行可能性への正の影響が示された。
以上のことから,被虐待経験により虐待意識が低下することは指示されたが,虐待意識の低下が虐待の実行可能性を高めるという仮説は支持されなかった。つまり,本研究においては“しつけのつもり”で虐待をしてしまう可能性は低いと考えられる。虐待の世代間連鎖のメカニズムについてのさらなる検討が今後の課題となる。
引用文献
會田理沙・大河原美以 (2014). 児童虐待の背景にある被害的認知と世代間連鎖―実母からの負情動・身体感覚否定経験が子育て困難に及ぼす影響― 東京学芸大学紀要,65(1),87-96.
厚生労働省 (2015). 子ども虐待による死亡事例等の検証結果ついて(第11次報告)
児童虐待が発生する一因として,幼少期の被虐待経験が親になった時の虐待可能性を高める,いわゆる“虐待の世代間連鎖”が挙げられる。そのメカニズムは,例えば曾田・大河原(2014)によると,被虐待経験により,被害的認知,育児不安,自尊感情の低下といった負情動が喚起され,その結果,虐待しやすい状況になるとされている。
一方で,児童虐待の加害動機として,“しつけのつもり”が多く挙げられている(厚生労働省,2015)。この場合,加害者の負情動ではなく,虐待という自覚がなく虐待をしている可能性が考えられる。このことから,被虐待経験により,虐待に対する意識が低下することで,虐待の実行可能性が高まるという仮説が成り立つ。
そこで本研究では,大学生を対象に,被虐待経験が児童虐待に対する意識と実行可能性に及ぼす影響について検討することを目的とする。
方 法
調査対象者 A県内の私立大学大学生90名(1年生32名,2年生57名,不明1名)。全調査対象者には,事前にa)調査結果を本研究以外で使用しないこと,b)個人が特定されることは絶対にないこと,c)回答は自由意思であることを伝えた。
調査内容 1)被虐待経験:児童虐待防止法により,児童虐待とされている身体的虐待,心理的虐待,ネグレクトの行動,および児童虐待ではないが不適切な養育行動(各2項目)の全8項目について,幼稚園・小学校時代の経験を3件法(「何度も経験がある」「経験がある」「経験がない」,順に3~1点)で尋ねた。2)児童虐待に対する意識(以下,虐待意識):上記1)の8項目について,しつけの範囲を超えているかどうかを4件法(「超えている」「どちらかといえば超えている」「どちらかといえば超えていない」「超えていない」,順に4~1点)で尋ねた。3)虐待の実行可能性:上記1)の8項目について,将来親になった時にその行動をとると思うかを4件法(「そう思う」「ややそう思う」「あまりそう思わない」「そう思わない」,順に4~1点)で尋ねた。
調査期間 2015年11月中旬。
結果・考察
因子分析および信頼性の検討 虐待意識について,探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行った結果,2因子解が抽出された。それぞれ虐待(「殴ったり蹴ったりする」「暴言を言う」など4項目,α=.83),過度なしつけ(「過剰な干渉をする」「行き過ぎた期待をする」の2項目,α=.83)と命名した。
分析前の手続き 調査内容1)2)3)の各因子の加算平均を下位尺度得点とした。調査内容2)3)について,被虐待経験の有無別に因子ごとの平均得点と標準偏差(Table中の括弧)をTableに示す。なお,本研究では被虐待経験について検討するため,以降の分析では虐待因子のみを用いる。
被虐待経験と虐待意識および虐待の実行可能性との関連 被虐待経験が虐待意識を介して,あるいは直接虐待の実行可能性に影響を与えるというモデルによる共分散構造分析を行った。その結果,Figureに示すモデルが得られた。まず,被虐待経験が虐待意識に負の影響を与えるが,虐待意識が虐待の実行可能性に影響を与えないことが示された。次に,被虐待経験から虐待への実行可能性への正の影響が示された。
以上のことから,被虐待経験により虐待意識が低下することは指示されたが,虐待意識の低下が虐待の実行可能性を高めるという仮説は支持されなかった。つまり,本研究においては“しつけのつもり”で虐待をしてしまう可能性は低いと考えられる。虐待の世代間連鎖のメカニズムについてのさらなる検討が今後の課題となる。
引用文献
會田理沙・大河原美以 (2014). 児童虐待の背景にある被害的認知と世代間連鎖―実母からの負情動・身体感覚否定経験が子育て困難に及ぼす影響― 東京学芸大学紀要,65(1),87-96.
厚生労働省 (2015). 子ども虐待による死亡事例等の検証結果ついて(第11次報告)