日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PD(65-89)

ポスター発表 PD(65-89)

2016年10月9日(日) 10:00 〜 12:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PD72] 子どもの将来目標に関する研究(2)

心理的適応との関連

鈴木高志1, 村上達也2, 西村多久磨3, 中山伸一4, 櫻井茂男5 (1.高知工科大学, 2.高知工科大学, 3.東京大学大学院, 4.筑波大学大学院, 5.筑波大学)

キーワード:将来目標, 目標内容理論, 児童

問題と目的
 我が国の若者の雇用問題が深刻化している。例えば,平成24年度の労働力調査(総務省統計局,2012)では,若年無業者は63万人で前年度から2万人の増加となった。現在,一人ひとりの社会・職業的自立への支援を目的とするキャリア教育の重要性は日に日に高まっており(国立教育政策研究所,2007),学校現場においても,小学生の段階から積極的にキャリア教育を充実させる教育的方針が打ち出されている(文部科学省,2011)。
 このような背景から,櫻井・西村・鈴木・村上・中山(2016)は,小学生からのキャリア教育を充実させるべく,将来目標に関する研究の必要性を説き,まずは子どもの将来目標を測定する尺度を開発した。将来目標とは,自分の人生において何を大切にしていきたいかを示す個人の価値観のことである(Deci & Ryan, 2002)。この将来目標を理論化した自己決定理論では,人生において大切にしたい価値観が二分され,それら将来目標のあり方によって,個人の心理的適応が異なることが想定されている。一つ目は,人としての成長や社会貢献を重視する内発的将来目標であり,心理的適応を導くと想定されている。二つ目は,金銭的成功や名声の獲得を重視する外発的将来目標であり,心理的適応を導かない,もしくは不適応を導くことが想定されている(Kasser & Ryan, 1993, 1996)。そこで,本研究では,子ども用将来目標尺度においても,上述した関連が確認されるか,生活満足感,抑うつ,共感的関心,将来への目標志向性,親の上昇志向,に着目して検討した。
方   法
調査時期:2015年11月―12月。
調査対象:関東地方の公立小学校3校621名。
調査内容:(1) 子ども用将来目標尺度:28項目。“各将来目標を達成することは,どのくらい大切ですか”と教示し,非常に大切だ(5点)からまったく大切ではない(1点)の5件法で尋ねた。(2) 日本語版SLSS(Students’ life satisfaction scale,吉武,2011):7項目(4件法)。(3) 子ども用抑うつ尺度(佐藤・新井,2002):16項目(3件法)。(4) 共感的関心(長谷川・堀内・鈴木・佐渡・坂元,2009):7項目(5件法)。(5) 目標志向性(白井,1994):3項目(5件法)。(6) 親の社会的上昇志向:1項目。
結   果
 得られたデータに対して相関分析を行った。その結果,内発的将来目標は生活満足感,共感的関心,目標志向性と中程度以上の正の相関関係がみられ,抑うつとは負の相関関係がみられた。外発的将来目標は,目標志向性と親の上昇志向に関して弱いながらも正の相関関係がみられた。これらの結果から,まず,内発的将来目標の心理的適応性が確認された。その一方で,親が良い大学や良い就職先を望めば望むほど,またそれを子どもに伝えるほど,子どもの外発的将来目標が高いことが示された。この結果は,子どもが将来目標を形成する上で親の影響がみられることを示唆している。