日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PE(65-88)

ポスター発表 PE(65-88)

2016年10月9日(日) 13:30 〜 15:30 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PE67] 指を使用した計算方法に関する一考察

「上原式ゆび計算」を中心に

池田康子 (早稲田大学大学院)

キーワード:算数, 指計算, 知的障害

はじめに
 指を使った計算として池田・上原(2007)の「上原式ゆび計算」がある。これまで,知的障害のある子どもや知的にボーダーである子どもが活用し,自力でできる計算を増やし,指導の成果をあげてきた。「上原式ゆび計算」とは,池田(2016)によると,約20年前に,特別支援学級担任である上原淑枝によって作られた指による足し算,引き算の方法である。両手の指を順に出す,折ることにより0から20まで数を指で表すように作られている。20までの足し算や引き算が可能となり,暗算することが難しい子どもの手助けとなっている。日本で通常使われる指の出し方を用いるため,無理のない自然な方法だとも言える。足し算は数え足しをするのだが,10になると,両手を合わせ,パチンと手を打つことで繰り上がりを意識させる。1から順に数え,20になると,ゴールであることを意識付けることやお楽しみとして握った両手を合わせて,好きなキャラクター名やキャラクターのポーズを取りながら台詞を言うなどする。答えが20を超える足し算は,筆算を使い,一の位から順に位ごとに計算をする。
目的・方法
 「上原式ゆび計算」は,成果の報告があるものの,これまで発達の観点からみられることはなかった。そこで,子どもが指を使って計算をするときの発達と照らし合わせると,「上原式ゆび計算」がどのように位置づけられるのかを明らかにする。
対象となる子どもの多くが知的障害を伴い,幼児期から児童期の発達段階にあることからも研究の意義があると考える。数を数えたり計算したりする際の子どもの発達に関する文献を収集し,その内容と上原式ゆび計算を比較し,考察を行う。
内   容
 浅川・杉村 (2009) によると,Fusonは,指利用の計算の発達について,指を見ながら1つずつ数える最初の段階を含めて4つの段階を想定している。上原式ゆび計算では,指の出し方練習で「最初の段階」を十分に体験させ,その後被加数に加数を足す方法を学ばせる。各々の動作を正確に行うことを優先し,次にスピードアップを狙う。そのために実際の計算の前に,数を言いながら順に指を出すこと,指の形から数を当てること,指導者が言った数を指で出してみせることといった指の出し方の練習を行う。そのため,被加数と加数の両方を見える形で残している。
考   察
 比較する中で,上原式ゆび計算の習得過程の中で,ミスの要因を取り除きながら,発達の順を追っていることがわかる。
 浅川・杉村 (2009) によると,計算能力が低い子どもはそもそも指の使い方をどのように使ってよいかわからず,指をほとんど利用できないと思われている。上原式ゆび計算を学ぶ子どもは,指を使うことで数を学ぶことができるようになったとも言えるであろう。記憶できない部分をカバーするとともに,指という具体物を数えることで抽象的な数を学んでいると思われるのである。
 上原式ゆび計算では,誤学習や失敗経験をしないように,指計算のやり方を教えている。目で追う,頭で数えるといったミスを引き起こしがちな方略を使うことはない。そのため,どのような発達段階でもミスが起きにくくなっている。誤学習に関しては,廣瀬(2007)は,計算・書字の能力に向上が見られた指導では,誤学習の防止を徹底することを行っている。修正に時間と労力,子どもの心的負担も大きいので,特に知的障害児に対しては避けたい。算数の学習に集中できるようにするためには,積極的に取り入れたい方法である。
文   献
浅川淳司・杉村伸一郎(2009).幼児における足し算時の指の利用方略,幼年教育研究年報, 第31巻, 103-111
池田康子(2016).Teaching Addition using the Uehara Finger Calculation Method to children with Math difficulty. British Dyslexia Association 10th International Conference. UK: Short Run Press
池田康子・上原淑枝(2007).特別支援教育手軽にすぐに使える教材・教具集. 東京:学事出版
廣瀬 潤 (2007). 生活・学習面で特別な教育的支援を要する児童へのより良い支援方法の研究 www.kochinet.ed.jp/center/research_paper/h19.../07_seikatugakushusienho.pdf (2016年5月入手)