[PG30] マッピング法における作図作業の効果
分岐する階層構造の短期的・長期的効果
キーワード:概念地図法, 階層構造, 作図方略
問 題
学習対象をより深く定着させる手法として,学習者自らが個々の概念のつながりを図に書き起こすマッピング法が知られる。その代表的手法は概念地図法であり,学習対象の個々の概念(ラベル)を線(リンク)でつなぎ,概念の関係を表現する(Novak & Gowin,1984)。概念地図法の学習方法の分類は,学習内容(テーマ,含まれる概念等)と概念構造の自由度により整理されている(Cañas, Novak & Reiska, 2012)。学習対象の概念と構造が定まっている教科学習でマッピング法を用いる際,最も自由度が高い条件は作図に必要な概念とその関係を提示し,学習者が自由に作図する方法だと考えられる。
作図はマッピング法における中心的作業だが,時間がかかり,負荷も伴う。学習内容や概念構造によっては,文章のみで学習する方がむしろ効率が良い場合があるかもしれない。また,自由作図以外に,学習対象の概念構造のグラフィカルな特徴を捉えた,負荷が少なく効率の良い作画方略もあると考えられる。先行研究では,学習対象の特徴と作図の負荷の関係,またそれらが学習に与える影響が検討されることは比較的少ない。
本研究では,16の概念から成り,分岐する比較的複雑な階層構造の学習を前提に,作図方略 (作図を行わない場合も含め)が同系列の概念構造と異系列の概念との関係学習にどのような影響を与えるかを検討した。実験では,架空の会社の部署名,直接リンクを持つ部署との関係を述べる宣言文を素材に,自由作図と,ガイド作図(異系列間の概念の関係に注目させる),テキスト提示のみの条件により学習を行い,学習直後の事後テスト及び一週間後の定着テスト結果を比較した。
方 法
参加者:早稲田大学教育学部教育心理学専修の実験演習を履修する大学2年生男女44名(平均年齢19.7歳, SD 0.90)
材料:問題冊子, 作図用紙, 筆記用具, プロジェクタ等
要因:学習方法,事後テストの質問種類 (同系列or異系列の組織)
手続きと課題:実験演習の授業時間中に8~10人ずつ実験を行った。実験と課題概要の説明の後,実験者の指示の下,問題冊子を使用し全員同時に,同一の時間配分で事前練習,学習課題,事後テストを行った。学習課題では,自由作図群,ガイド作図群は提示文を読みながら作図を行い,テキスト提示群は文を読みながら,それぞれ部署名を覚えた。その後翌週の授業にて,定着テストを行った。
●問題冊子 1.練習課題(5分程度)…作図ルール説明,架空の大学の2学部,2学科の関係に関する作図練習,及び事後テスト。
2.課題学習(20分)…16の組織から成る架空の会社部署の関係を述べる23の宣言文。※組織図上,上位に位置する程位置が高い部署とみなす。
3.事後テスト(時間制限なし)…(1)一対の部署が同レベルにあるか否かの正誤判断, (2)部署の代表者の地位に関する正誤判断等。
●作図用紙 自由作図群は白紙,ガイド作図群は部署のレベルに注目しやすいガイド線とその使い方の説明を加えた用紙を使用した。
●定着テスト(時間制限なし)学習課題で提示した宣言文の正誤判断。
結果と考察
事後テストの主な結果と,定着テストの結果は以下の通りであった(角変換後の正答率を分析)。事後テスト(1)の平均正答率に対し2要因分散分析を行ったところ,質問種類の主効果が有意で(F(1,41)= 25.803, p<.01),学習方法に関わらず,異系列部署間のレベル判断の正答率が同系列より低かった(Figure 1, Figure 3)。異系列間の質問別平均正答率に系統的ばらつきがあったため,「どのレベルの部署同士を比較したか」により異系列の質問をさらに2つに分類(下位レベルの部署同士,それ以外の比較 Figure 3)し,部署レベルの違いと学習方法を要因に,新たに2要因分散分析を行った。その結果,交互作用が有意(F(2,41)= 4.05, p<.05)であったため単純主効果の検定を行った(Figure 2)。部署レベルの単純主効果はどの学習方法においても有意であり,下位レベルの部署同士を比較した方が,その他の比較より正答率が低かった。対して,学習方法の単純主効果は下位レベルの部署同士の比較においてのみ有意であり,多重比較の結果,自由作図の正答率がテキスト提示より低かった。欠席者,一週間後に授業が行えなかったケースを除く参加者の定着テストでは,学習方法により差があった(F(2,30)= 5.623, p<.01)。多重比較の結果,自由作図の正答率がテキスト提示より高かった(Figure 4)。
本実験の条件下では,把握が難しいと考えられる異系列の下位レベルの部署同士の関係について,学習直後は自由作図群よりテキスト提示群の方が想起しやすかった。学習課題として直接学習した内容の定着については,自由作図の方がテキストのみの学習より効果があった。ガイド作図の効果は,今回報告した分析では確認されなかった。
Novak, J. D., & Gowin, D. B. (1984). Learning how to learn. New York, NY: Cambridge University Press.
Cañas, A. J., Novak, J. D., & Reiska, P. (2012). Freedom vs. restriction of content and structure during concept mapping—possibilities and limitations for construction and assessment. Concept maps: Theory, methodology, technology. Proceedings of the Fifth International Conference on Concept Mapping.
学習対象をより深く定着させる手法として,学習者自らが個々の概念のつながりを図に書き起こすマッピング法が知られる。その代表的手法は概念地図法であり,学習対象の個々の概念(ラベル)を線(リンク)でつなぎ,概念の関係を表現する(Novak & Gowin,1984)。概念地図法の学習方法の分類は,学習内容(テーマ,含まれる概念等)と概念構造の自由度により整理されている(Cañas, Novak & Reiska, 2012)。学習対象の概念と構造が定まっている教科学習でマッピング法を用いる際,最も自由度が高い条件は作図に必要な概念とその関係を提示し,学習者が自由に作図する方法だと考えられる。
作図はマッピング法における中心的作業だが,時間がかかり,負荷も伴う。学習内容や概念構造によっては,文章のみで学習する方がむしろ効率が良い場合があるかもしれない。また,自由作図以外に,学習対象の概念構造のグラフィカルな特徴を捉えた,負荷が少なく効率の良い作画方略もあると考えられる。先行研究では,学習対象の特徴と作図の負荷の関係,またそれらが学習に与える影響が検討されることは比較的少ない。
本研究では,16の概念から成り,分岐する比較的複雑な階層構造の学習を前提に,作図方略 (作図を行わない場合も含め)が同系列の概念構造と異系列の概念との関係学習にどのような影響を与えるかを検討した。実験では,架空の会社の部署名,直接リンクを持つ部署との関係を述べる宣言文を素材に,自由作図と,ガイド作図(異系列間の概念の関係に注目させる),テキスト提示のみの条件により学習を行い,学習直後の事後テスト及び一週間後の定着テスト結果を比較した。
方 法
参加者:早稲田大学教育学部教育心理学専修の実験演習を履修する大学2年生男女44名(平均年齢19.7歳, SD 0.90)
材料:問題冊子, 作図用紙, 筆記用具, プロジェクタ等
要因:学習方法,事後テストの質問種類 (同系列or異系列の組織)
手続きと課題:実験演習の授業時間中に8~10人ずつ実験を行った。実験と課題概要の説明の後,実験者の指示の下,問題冊子を使用し全員同時に,同一の時間配分で事前練習,学習課題,事後テストを行った。学習課題では,自由作図群,ガイド作図群は提示文を読みながら作図を行い,テキスト提示群は文を読みながら,それぞれ部署名を覚えた。その後翌週の授業にて,定着テストを行った。
●問題冊子 1.練習課題(5分程度)…作図ルール説明,架空の大学の2学部,2学科の関係に関する作図練習,及び事後テスト。
2.課題学習(20分)…16の組織から成る架空の会社部署の関係を述べる23の宣言文。※組織図上,上位に位置する程位置が高い部署とみなす。
3.事後テスト(時間制限なし)…(1)一対の部署が同レベルにあるか否かの正誤判断, (2)部署の代表者の地位に関する正誤判断等。
●作図用紙 自由作図群は白紙,ガイド作図群は部署のレベルに注目しやすいガイド線とその使い方の説明を加えた用紙を使用した。
●定着テスト(時間制限なし)学習課題で提示した宣言文の正誤判断。
結果と考察
事後テストの主な結果と,定着テストの結果は以下の通りであった(角変換後の正答率を分析)。事後テスト(1)の平均正答率に対し2要因分散分析を行ったところ,質問種類の主効果が有意で(F(1,41)= 25.803, p<.01),学習方法に関わらず,異系列部署間のレベル判断の正答率が同系列より低かった(Figure 1, Figure 3)。異系列間の質問別平均正答率に系統的ばらつきがあったため,「どのレベルの部署同士を比較したか」により異系列の質問をさらに2つに分類(下位レベルの部署同士,それ以外の比較 Figure 3)し,部署レベルの違いと学習方法を要因に,新たに2要因分散分析を行った。その結果,交互作用が有意(F(2,41)= 4.05, p<.05)であったため単純主効果の検定を行った(Figure 2)。部署レベルの単純主効果はどの学習方法においても有意であり,下位レベルの部署同士を比較した方が,その他の比較より正答率が低かった。対して,学習方法の単純主効果は下位レベルの部署同士の比較においてのみ有意であり,多重比較の結果,自由作図の正答率がテキスト提示より低かった。欠席者,一週間後に授業が行えなかったケースを除く参加者の定着テストでは,学習方法により差があった(F(2,30)= 5.623, p<.01)。多重比較の結果,自由作図の正答率がテキスト提示より高かった(Figure 4)。
本実験の条件下では,把握が難しいと考えられる異系列の下位レベルの部署同士の関係について,学習直後は自由作図群よりテキスト提示群の方が想起しやすかった。学習課題として直接学習した内容の定着については,自由作図の方がテキストのみの学習より効果があった。ガイド作図の効果は,今回報告した分析では確認されなかった。
Novak, J. D., & Gowin, D. B. (1984). Learning how to learn. New York, NY: Cambridge University Press.
Cañas, A. J., Novak, J. D., & Reiska, P. (2012). Freedom vs. restriction of content and structure during concept mapping—possibilities and limitations for construction and assessment. Concept maps: Theory, methodology, technology. Proceedings of the Fifth International Conference on Concept Mapping.