日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

2017年10月7日(土) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PA39] 3つの「わかる」で評価する授業分析法の提案

藤田敦 (大分大学)

キーワード:授業分析, 学力の3要素

問題と目的
 学力向上は現代の主要な教育課題であり,教育科学の領域においても,「確かな学力」を高める効果的な授業法の開発や改善が求められている。この「確かな学力」は,①基礎的知識・技能を確実に獲得する習得型学力,②新たな知識や解を自ら能動的に発見・検証する探求型学力,③既習の知識を多様な課題場面に応用する活用型学力の3要素によって構成されている。
 ところで学校における授業の第1の目的は,児童生徒が学習内容を「わかる」ことにある。藤田(2016)は,「わかる」の漢字表記に,「判る」,「解る」,「分(か)る」という3つのパターンがあることに着目し,その意味の違いを手がかりとして各々の「わかる」を先の学力の3要素と関連づけながら概念整理を試みた(Figure1)。基礎的な知識・技能の習得(習得型学力)には,どのような問題に対してどの知識が適用できるかを正確に判断できる(判る)ことが求められる。また,課題発見や仮説検証の能力(探究型学力)を身に付けるには,なぜと問い続け,物事の背後にある因果関係を解釈する(解る)力が必要となろう。さらには,探究・習得した知識・技能を積極的に利用するためには,それらの知識の価値や活用することで生じる利点を,社会や他者と分かち合っている(分る)ことが条件となろう。このように,学力と「わかる」の間には,「習得するために必要な“判る”」,「探究することで到達する“解る”」,「積極的な活用を生み出す“分る”」といった関係があることが想定できる。
 そこで本研究は,3つの「わかる」という観点から授業中の活動を分類し,授業において成立する学習と,そこに関与している教授活動の関係を明らかにしていくための授業分析の方法を提案することを目的とする。
方   法
 小学校の授業実践記録を分析し,どのような「わかる」が達成されたか(可能性があるか)を推定し,授業中の個々の教授学習活動を分類する。
結果と考察
事例1【4年生算数『面積』】判る:面積概念の定義や面積の表し方の決まりを確認したり,練習問題によって公式を使えるようになる。解る:面積の表し方や求積の方法を工夫して求める探究的な活動を行う。分る:広さを決められた方法で表すことの意味・利点(広さ比べや日常生活における有用性)を確認・共有する。
事例2【5年生国語『大造じいさんとガン』】判る:通読,新出漢字調べ,登場人物の特徴やあら筋の整理を行う。解る:大造の心情の読み取りや行動の理由を考え説明する。分る:感想の共有や作者椋鳩十が伝えたかったことを推測する。
事例3【6年生社会『室町文化』】判る:時期,場所,文化的建造物・作品の名称・作者等の情報を整理する。解る:室町文化が生まれた理由を時代背景や他の文化との比較から推測する。分る:(時代を超えた)民衆にとっての文化の意味や現代(自分たち)の生活との共通点・相違点について考える。
 以上のように,授業における学習活動は,3つの「わかる」のいずれかに分類可能である。「わかる」という観点から授業を特徴付けることで,個々の授業が,どのような学力の育成に寄与するか(あるいは不足しているか)を評価していくことができると予想される。