日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

2017年10月7日(土) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PA51] 教育学部生の教職志望意識と自己・他者・職業への信頼

若松養亮 (滋賀大学)

キーワード:教育学部, 進路意思決定, 教職

問題と目的
 教員養成課程の学生といえども,入学後に教職に就くことを逡巡する学生は多い。彼らの最終的な志望を解明する枠組みとして内的ワーキング・モデルを援用し,自己のみならず他者,そして教職という職業に対する「信頼」を仮定した。
 本報告では,教職への意思決定を大きく左右する教育実習を終えた3年次生に対して調査を行い,その関連を分析した。
方   法
 必修の教職科目を受講する国立大学の教育学部の学生200名(うち女子は97名)を対象に,2016年11月29日に質問紙調査を行った。
 調査内容は,教育実習前と後の教職志望度を4段階で尋ねた他,自己・他者・職業への信頼および不信を尋ねる質問項目を若松(2017発心)の尺度を改訂して22項目を作成し,「5.そう思う~1.そう思わない」の5件法で回答させた。
結   果
(1) 自己・他者・職業への信頼尺度の構造
 この設問に回答した196名の回答に対して,最尤法による因子分析解にプロマックス回転を施し,以下の4因子解を採用した。
 Ⅰ.同僚への信頼(6項目;α=.760)
 Ⅱ.資質への信頼(6項目;α=.761)
 Ⅲ.教職への不信(3項目;α=.655)
 Ⅳ.子どもへの信頼(2項目;α=.493)
因子間相関は絶対値が.116~.362で弱かった。
(2) 教職志望度との関連
 教職志望度の4段階間で,先の尺度の因子得点を比較すると,因子ⅡがF(3,189)=4.19でp<.05(多重比較では「ぜひ目指そう」>「目指そうと思っていない」),因子ⅢがF(3,189)=10.13(「ぜひ」<「とりあえず目指そう」「目指そうと…ない」)で差が見られた。因子Ⅰでもp<.10の有意傾向は見られた。志望度の評定を目的変数とした重回帰分析では,有意な回帰式が得られ(調整済みR2=.132),有意な説明変数は因子Ⅲ(β=-.342, p<.001)と因子Ⅱ(β=.161, p<.05)であった。
 続いて,実習前から実習後にかけて教職志望意識が上昇した群(4のままも含む118名)と下降した群(1のままも含む65名)で同じく因子得点を比較すると,因子Ⅱでt(181)=2.80でp<.01,因子Ⅲでt(181)=-4.94でp<.001の差が見られた。
 次に,信頼の各指標の組み合わせの効果をみるために,4種の因子得点を用いてWard法によるクラスタ分析を行った。デンドログラムから適切と判断した5クラスタ解を以下に示す。
この5クラスタで実習後の教職志望度を比較すると,F(4,188)=5.54でp<.001(多重比較では中庸・信頼>不信, 信頼>自信低)の有意差が見られた。
考   察
 信頼の尺度は,因子ⅠとⅣが対他者,因子Ⅱが自己,因子Ⅲが対職業と,信頼の対象ごとに分かれた。このうち信頼感が低い方向の因子Ⅲは,クラスタ分析の結果からも,信頼する方向の他3因子と負の関連を示さないケースがある。
 次に教職志望度との関連では,Ⅲ(教職への不信)が最も関連が強かったことは,昨今強く問題視されている教員の過重な負担や世間からの厳しい目が背景と考えられる。しかし同じ現状に対しても不信感の評定が低い人もおり,また不信群のクラスタでも志望度が「ぜひ目指したい」人が34%もいることは今後,解明すべき課題である。
 また弱いが有意な関連を示したⅡ(資質への信頼)は,研究の蓄積が多い自己効力感に相当するが,あまり強い関連ではない。評定平均は他の因子の項目より低いことから,教育実習で資質に自信をもつ人の割合や程度が低いためかもしれない。
 面接調査で個々のケースを追うと,教職は民間企業と異なり数年後でも就けること,親の期待や学部での学習歴などの外的な条件に意思決定が左右されている。中庸群の志望度が高かったこともその反映かもしれない。そのことも今回取り上げた「信頼」の限界として認識しておきたい。
付   記
 本研究は科学研究費補助金(課題番号 26380880)の支援を受けています。