13:00 〜 15:00
[PB77] 高校生における情動知能と学校適応
EQSの下位概念間の関連から
キーワード:情動知能, EQS, 学校適応
問題と目的
生徒が学校にどのように適応していくか明らかにすることは,学校教育での長きにわたる重要な課題である。近年では,情動知能に焦点を当てた研究が注目され報告され始めてきている(野崎,2013)。
本邦では,情動知能尺度(EQS; Emotional Intelligence Scale)を取り上げた研究がみられる(野村他,2015)。島井他(2002)は,情動知能の下位概念として,自己の感情を理解し制御する側面である自己対応,他者の感情を理解し共感する側面である対人対応,自分自身を含む内的外的な環境の変化に対応する側面である状況対応の3つを想定した。また,この下位概念のうち,とりわけ状況対応が種々の適応や健康と関連することを明らかにした。
先行研究では,EQSの下位概念の効用を明らかにするために周辺変数との関連が検討されているが,EQSの下位概念間の相互的な関連は検討されていない。子どもの社会性の発達過程を踏まえると,個人的な対応や対人的な対応から集団への対応が順に身についていくプロセスがあることが考えられる。本研究では,EQSの下位概念間の因果関係を明らかにすることとする。
また,EQSを用いた研究は,大学生を対象としたものはあるが(大野木, 2004),学齢期を対象としたものはほとんどみられない。教育実践への応用可能性を考慮し,本研究では,高校生におけるEQSの下位概念間の関連を検討する。
方 法
調査時期 T1:2016年4月。T2:2016年10月。
調査協力者 西日本の昼間定時制高校に在籍する高校1―2年生のうち,両時点で回答が得られた172名(男子77名,女子95名)を対象とした。
質問紙 情動知能 島井他(2002)が作成した情動知能尺度(EQS; Emotional Intelligence Scale)より21項目を,高校生が理解しやすいように一部表現を修正し使用した。「自己対応(e.g., 目標のためなら,どんなつらいことでも乗り越えられる)」7項目,「対人対応(e.g., 友だちが喜んでいると自分も嬉しくなる)」7項目,「状況対応(e.g., 必要な時は,すぐに決断することができる)」7項目からなる。
結 果
まず,各時点で確認的因子分析を行い,いずれかの時点で因子負荷量が.35以下を示した3項目を削除し,再度分析を行った。その結果,両時点において適合度とω係数は許容できる値を示した。
次に,EQSの下位尺度間の因果関係を検討するために,交差遅延効果モデルによる共分散構造分析を行った(Figure 1)。異なる変数間の関連について,T1の自己対応からT2の対人対応(b*=.28, p<.01)と状況対応(b*=.24, p<.01)への正のパス,およびT1の対人対応からT2の状況対応への正のパス(b*=.13, p<.05)が有意であった。
考 察
EQSの3つの下位概念間の因果関係を検討した結果,自己対応が対人対応と状況対応に,対人対応が状況対応に影響を与えるという因果関係が明らかになった。これは,高校生の情動知能において自己のあり方をある程度コントロールできることで,他者との関係調整ができるようになり,次に集団に適応する能力が身につくという順序性を示唆している。この結果は,子どもの社会性の発達段階と整合するものである。先行研究では,精神的健康をはじめとした変数との関連から,状況対応の重要性が指摘されてきた(島井他, 2002)。本研究では,自己対応や対人対応を高めることが状況対応の向上につながる可能性が示された。教育現場において生徒の情動知能がどの段階にあるのかを考慮しながら,段階的に支援を行うことが必要といえる。
生徒が学校にどのように適応していくか明らかにすることは,学校教育での長きにわたる重要な課題である。近年では,情動知能に焦点を当てた研究が注目され報告され始めてきている(野崎,2013)。
本邦では,情動知能尺度(EQS; Emotional Intelligence Scale)を取り上げた研究がみられる(野村他,2015)。島井他(2002)は,情動知能の下位概念として,自己の感情を理解し制御する側面である自己対応,他者の感情を理解し共感する側面である対人対応,自分自身を含む内的外的な環境の変化に対応する側面である状況対応の3つを想定した。また,この下位概念のうち,とりわけ状況対応が種々の適応や健康と関連することを明らかにした。
先行研究では,EQSの下位概念の効用を明らかにするために周辺変数との関連が検討されているが,EQSの下位概念間の相互的な関連は検討されていない。子どもの社会性の発達過程を踏まえると,個人的な対応や対人的な対応から集団への対応が順に身についていくプロセスがあることが考えられる。本研究では,EQSの下位概念間の因果関係を明らかにすることとする。
また,EQSを用いた研究は,大学生を対象としたものはあるが(大野木, 2004),学齢期を対象としたものはほとんどみられない。教育実践への応用可能性を考慮し,本研究では,高校生におけるEQSの下位概念間の関連を検討する。
方 法
調査時期 T1:2016年4月。T2:2016年10月。
調査協力者 西日本の昼間定時制高校に在籍する高校1―2年生のうち,両時点で回答が得られた172名(男子77名,女子95名)を対象とした。
質問紙 情動知能 島井他(2002)が作成した情動知能尺度(EQS; Emotional Intelligence Scale)より21項目を,高校生が理解しやすいように一部表現を修正し使用した。「自己対応(e.g., 目標のためなら,どんなつらいことでも乗り越えられる)」7項目,「対人対応(e.g., 友だちが喜んでいると自分も嬉しくなる)」7項目,「状況対応(e.g., 必要な時は,すぐに決断することができる)」7項目からなる。
結 果
まず,各時点で確認的因子分析を行い,いずれかの時点で因子負荷量が.35以下を示した3項目を削除し,再度分析を行った。その結果,両時点において適合度とω係数は許容できる値を示した。
次に,EQSの下位尺度間の因果関係を検討するために,交差遅延効果モデルによる共分散構造分析を行った(Figure 1)。異なる変数間の関連について,T1の自己対応からT2の対人対応(b*=.28, p<.01)と状況対応(b*=.24, p<.01)への正のパス,およびT1の対人対応からT2の状況対応への正のパス(b*=.13, p<.05)が有意であった。
考 察
EQSの3つの下位概念間の因果関係を検討した結果,自己対応が対人対応と状況対応に,対人対応が状況対応に影響を与えるという因果関係が明らかになった。これは,高校生の情動知能において自己のあり方をある程度コントロールできることで,他者との関係調整ができるようになり,次に集団に適応する能力が身につくという順序性を示唆している。この結果は,子どもの社会性の発達段階と整合するものである。先行研究では,精神的健康をはじめとした変数との関連から,状況対応の重要性が指摘されてきた(島井他, 2002)。本研究では,自己対応や対人対応を高めることが状況対応の向上につながる可能性が示された。教育現場において生徒の情動知能がどの段階にあるのかを考慮しながら,段階的に支援を行うことが必要といえる。