日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

2017年10月7日(土) 15:30 〜 17:30 白鳥ホールB (4号館1階)

15:30 〜 17:30

[PC15] ミラーリングプログラムの効果検証

ミラーリングの増加は母子交流を促すか

井手裕子 (名古屋大学大学院)

キーワード:ミラーリングプログラム, 母子交流

目   的
 乳児の感情を映し返すミラーリングは,乳児の言語自己感の発達に有用である(Stern,1985)。井手(2016a)は,Legersteeら(2001)が示したミラーリングの定義を「実況」「代弁」「注意」「模倣」の具体的行動に再定義し,ミラーリング増加促進の目的でプログラムを79名の母親に試行し,1週間試行後のインタビューを検討した(井手,2006b)。その結果,ミラーリング頻度の増加,子どもの言葉の増加,母親自身の変化(子育ての見直し,情緒的な安定)が見出され,母親支援の可能性も示唆された。本研究では,上記のミラーリングプログラムの効果を客観的に検証するため,実験群と統制群を設け,母親インタビューをもとに作成した質問紙による差異を検討する。
方   法
 調査期間は,2016年4月から2017年3月であった。調査対象者は,A市児童館や子育て支援センターに通う8ヶ月から1歳9ヶ月の子どもを持つ母親190名であった。調査方法は,調査者が会場へ出向き,承諾を得られた調査協力者の母親に以下の詳細を説明した。実験群へは,ミラーリングの説明後,「いつも行っている実況,代弁,注意,模倣の関わりを,1週間,意識して行ってほしい。」と述べ,アンケートを,施行前(事前),1週間後,1か月後に記入するよう依頼した。一方,統制群へは,「お母様がお子様の年齢で関わりが変わるかどうかを調査したい」と述べ,実験群と同様の質問紙に同様の時期の記入を依頼した。そして,実験群,統制群を色分けした封筒での返送を依頼した。アンケートは,6場面(起床.食事,おむつ,着替え,入浴,遊び)のミラーリング(「実況」「代弁」「注意」「模倣」)の頻度を問う質問紙(井手,2014,2016)を3回分と,井手(2016)の母親インタビューをもとに作成した母と子の質問紙(1回目-言語発達や母子の関わりを問う32項目を6件法で問うもの。2,3回目-言葉やお母さんを見る回数が増えたか等の変化32項目を6件法で問うもの)を使用した。分析は,事前のミラーリング頻度得点のどれか1つでも上位25%であった者を除く114名(実験群64名,統制群50名以下実統群と記述)を,月齢小群(8~15ヶ月児の母親59名)と月齢大群(16~23ヶ月児の母親55名)ごとに群わけし,3要因(得点×実統×月齢)混合計画による分散分析を行った。また,プログラムの影響を検討するため2(3)回目得点を従属変数,1(1,2)回目,実統,月齡を独立変数とした重回帰分析を行った。
結   果
 効果:ミラーリング頻度得点―「実況」(F(2)=4.83,p<.01)「代弁」(F(2)=9.94,p<.01)「注意」(F(2)=7.20,p<.01)「模倣」(F(2)=35.97,p<.01)すべての得点の得点要因と実統要因との交互作用が有意で単純主効果を検定した。すべての得点において,2,3回目得点が統制群<実験群であり,「実況得点」,「代弁得点」は,実験群で1回目<2,3回目,「注意得点」は実験群で1回目<2回目<3回目,「模倣得点」では実験群で1回目<2,3回目,統制群で1回目<2回目<3回目で,被験者間差も実験群の主効果が認められた。「模倣得点」は月齡の効果も示された。
母と子の質問紙「変化得点」―「こども変化」は,交互作用が認められず,2回目<3回目であった。「母変化」は,得点要因と実統要因の交互作用が有意(F(1)=11.47,p<.01)で,単純主効果は2回目得点で統制群<実験群であった。「母意識」は,得点要因と実統要因(F(1)=9.39,p<.01)),得点要因と月齡要因(F(1)=7.22,p<.01)の交互作用が有意で,単純主効果は2,3回目得点で,また月齡小,大群いずれも統制群<実験群であった。その他,子どもの様子では,「指さし」,「興味」,「反応」で,母親の様子では,「母見る回数」,「母の関わり」で同様に実験群の効果が認められた。「会話」は大群2回目で統制群<実験群であった。
 影響:2回目ミラーリング得点,「子見る回数」(R2=.07),「反応」(R2=.21),「嬉しそう」(R2=.11),「母意識」(R2=.28),「母見る回数」(R2=.25),「母の関わり」(R2=.26),は,「実統」変数が有意に予測していた。「言葉増加」(R2=.10),は「月齡」が有意に予測していた。3回目は2回目得点が予測していた。
考   察
 実験群で,ミラーリング得点すべて,母の変化,母意識,母の関わり,子と母が見る回数,子の反応が増加し,ミラーリング増加で母子の交流が増す等の実験効果が示された。また、これらの得点は実統変数が予測していたことから,実験の効果が裏付けられた。