日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

2017年10月7日(土) 15:30 〜 17:30 白鳥ホールB (4号館1階)

15:30 〜 17:30

[PC27] 教育に関する信念と批判的思考態度

教職課程履修者における検討

平山るみ (大阪音楽大学短期大学部)

キーワード:批判的思考態度, 熟慮性, 信念

目   的
 教職課程を履修している学生のうち,特に初学者を対象に,教育に関する信念を調査する。そして,それらの信念と,批判的思考態度,熟慮性,科学リテラシーとの関係を検討する。
 教員を目指す学生が,はじめに教育に関してどのような信念をもっているかを検討することは,教職課程での教育の充実を考えたうえで重要である。また,それらの信念は批判的思考態度や熟慮性などとどのように関連しているか検討し,信念の修正に関わる要因を検討する。
方   法
参加者 芸術系私立大学で教職課程を履修している学生70名(男性14名,女性56名,平均年齢19.1歳)であった。
材料 (1)教育に関する信念尺度 学生の自由記述より抽出した教育に関する信念より,5項目を用いた(「学習は,何を学んだかよりも,どのように学んだかが重要である」,「最も伝えたいことを子どもたちに分かりやすく伝えることができるならば,作り話も事実であるかのように伝えても良い」,「子どもたちには,現象だけではなく,なぜそうなるのかを理解させることが大切である」,「思いが強ければ,必ず相手にその思いを伝えることができる」,「子どもたちが,なるべく良い成績を取れるような評価方法を選ぶべきである」)。これらの項目について,「1:反対」から「5:賛成」の5段階で評定させた。(2)科学リテラシー尺度 科学的な情報の見方に関する項目(例:「データ数(調べた人数や動物の数)が十分多いことが重要である」)6項目を用いた。各項目について,「知っていましたか」 という問いに対し「知らなかった」,「知っていた」のいずれかで回答を求めた。(3)批判的思考態度尺度 平山・楠見(2004)の改訂版を使用した。「論理的思考の自覚」,「探求心」,「客観性」,「証拠の重視」の4因子各3項目,合計12項目で構成された。(4)認知的熟慮性-衝動性尺度(滝聞・坂元,1991) ある判断をするのに,より多くの情報を収集し,じっくり考えて慎重に結論を下す人かどうかの認知傾向を測定するものであり,10項目で構成された。(3)(4)の各尺度の項目について,「1:あてはまらない」から「5:あてはまる」の5段階で評定させた。
手続き 教職課程履修登録後の第1週目の講義中に質問紙を配布し,調査を実施した。回答時間は,15分であった。
結果と考察
 まず,教育に関する信念に対する評定の分布をみてみる(Table 1)。「作り話」については,賛成より反対と評定した者の方が多かったが,「どちらともいえない」も40%であり,事実であることを重視すべきか否か,まだ考えが定まっていない者が多いといえる。また,他者に考えを伝えるためには,思いの強さだけではなく,適切なコミュニケーションが必要であるが,「思いで伝わる」は,賛成が28%であった。「良い成績」については,「どちらともいえない」が49%と最も多く,評価について未学習のため,判断がつかなかったと考えられる。次いで「賛成」が28%であり,子どもに対して「良い」フィードバックを行うべきという信念があると考えられる。「理解が大切」「どのように学んだかが重要」では,賛成が多く,学びのプロセスを重視する者が多いといえる。
 信念と他尺度との相関をみると(Table 1),「思いで伝わる」は科学リテラシーと負の相関がみられ,科学リテラシーが高い者は,コミュニケーションは思いの強さで成り立つのではないと考える傾向があるといえる。また,「どのように学んだかが重要」は熟慮性と,「理解が大切」は熟慮性および批判的思考態度と正の相関がみられ,これらが高い者ほどプロセスを重視すると考えられる。「良い成績」は熟慮性と正の相関がみられ,熟慮性が高いほど,良いフィードバックが重要と考える傾向がみられた。今後,これらの信念が,教職課程の学びの過程でどのように変化するか検討する必要がある。