日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

2017年10月7日(土) 15:30 〜 17:30 白鳥ホールB (4号館1階)

15:30 〜 17:30

[PC50] 女子大学生の教育実習にまつわる不安(3)

不安軽減を図る心理的介入

吉村麻奈美1, 高垣マユミ2 (1.津田塾大学, 2.津田塾大学)

キーワード:教育実習, 不安要因, 心理的介入

問題と目的
 教育実習を経験することで不安を抱き,進路決定に悩む学生は少なくないため,その対応はさまざまに検討されてきている(若松,2012;吉村・高垣, 2015など)。本研究では女子大学生を対象とし,教育実習に関わる不安要因を明らかにし,その不安を軽減させる効果的な心理的介入プログラムを検討することを目的とする。
方   法
対象者 高等学校において英語科の教育実習を経験している大学4年生の女性8名(A~H)。
質問紙 教育実習の前後に質問紙調査を実施した。認知面・心理面(平岡,2012), 教育実習ストレッサー尺度(坂田ら,1999),SHRF-SCL(今津ら,2006)を使用した。また,それぞれの得点変化の理由についての考察を自由記述で求めた。
心理的介入 A~Hの8名に対し,インフォームドコンセントを書面で取り,教育実習不安に関する心理的介入(約60分×1回)を行った。
結果と考察
Aさんへの介入プロセスについて以下に記述する。自由記述欄を参照しつつ,①肯定的項目のうち得点上昇がみられなかったもの,②否定的項目のうち得点減少が見られなかったものについて確認と質問を行った。また,③質問紙で拾えていない不安事項,④より全般的な教職に関する現時点での不安事項について話し合い,認知行動的介入を行った。①~④の中から最も不安な事項を協同で特定したところ,「現場の教員との関係性」が選ばれた。やりとりの抜粋を以下に示す。
介入者:「認知Q2「特性不安」のところ,「先生と接するときはどうしても緊張はしてしまう」と書かれていますね。」A:「どこまで話していいんだろう」という気持ちは,三週間ずっとありました。」
介入者「心理Q9「信頼できる」の自由記述で,「指導教員にどこまで頼っていいのかわからなかったが助けてもらえた」とありますが,「どこまで頼っていいのかわからない」と思われたことは今はどういう風に感じていますか?」A:「「頼りにくさ」はもともとあって,最近気づいたんです。指導教員は褒めてくれましたが,ポジティブなことしか言わなかった。「よく考えたね。でも,○○でしょうね。」と言われてしまうと,頼りにくかったです。実習生間のいじめもあったのですが,それも言えなかった。(介入者「それは指導教員との関係性も影響すると思いますか?」)あると思います。」 
 次に「現場の教員との関係性」をターゲットとし,教育実習中に最も否定的感情が高まった具体的な出来事,および,そのときの思考を同定した。すると,「最終の授業をACT教員との共同で行うように一週間前に言われた/授業はうまくできなかった」が出来事として,「不安感」「疑問」「不信感」「怒り」が感情として挙げられ,主観的な不安得点は70点であった。出来事に付随する思考として,「打ち合わせが不十分」「(授業は)できていない」「(指導教員から)嫌われているのでは?」等も挙げられ,それらが感情に影響していることも示された。
 これらの認知に対し,代替的思考を共同で考案した。すると「(授業ができないのではなく)できると思ったから提案してくれたのかもしれない」,「(指導教員は自分を)成長させてくれようとしたのかもしれない」という肯定的な認知を考え出すことができた。ここまでの認知修正を経,Aさんに同じ出来事に対する感情を確認したところ,主観的不安得点は40点に減少し,新たに「もうちょっと教えてくださいと言えたかもしれない」「次は頑張って(指導教員と)話をしよう」という気持ちが生じたことが報告された。
 同様にB~Hの7名に対しても心理的介入を行った結果,全員において不安を生み出す出来事についての認知の変化を認めることができ,主観的不安得点は低下していた(介入前60~70点,介入後40~50点)。
 質問紙を併用することで,不安事項のより客観的かつ丁寧な検討が可能となると考えられる。以上から,質問紙実施とその結果を併用した不安事項同定,認知修正というこの一連の介入は,教育実習不安に対する一定の効果を認めたといえよう。今後は,介入時期等も考慮しながら,介入プログラムをより洗練させていきたい。