日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-80)

ポスター発表 PE(01-80)

2017年10月8日(日) 13:30 〜 15:30 白鳥ホールB (4号館1階)

13:30 〜 15:30

[PE23] 臨床実技の録画を見る自己評価が行動の振り返りに与える効果の検討

自己評価が教員による評価より高い学生と低い学生の違い

西片裕1, 石田信彦#2 (1.多摩リハビリテーション学院, 2.多摩リハビリテーション学院)

キーワード:自己評価, ルーブリック, 他者評価

目   的
 リハビリテーション教育では検査や治療の手技に加え,セラピストとして適切な行動の習得も大切である。水口(2012)や梶谷ら(2013)は,学習効果を高めるために,実技試験の様子を録画し,自己評価する授業を行っている。奥村・熊野(2016)は,発表の様子の録画を見ることで,自分の声の大きさなどに振り返させる効果があったとしている。今回,実技試験の録画を見て自己評価し,教員による評価(以下,教員評価)と比較しながら振り返る授業を実施した。本研究の目的は,録画を見て自己評価することが行動を振り返ることに有効なのかについて検討することである。
方   法
対象 リハビリテーション専門学校1年生30名(男性20名,女性10名),平均年齢30.4歳(標準偏差5.91)。
授業デザイン 「スクリーニング検査」を学ぶ授業を対象とした。1)検査法の実技試験に使用するルーブリックの評価観点と評価基準を学生が考えた。評価観点は行動4項目(表情・雰囲気づくり・言葉使い・気遣い),手技4項目(話し方・教示・正確さ・スムーズさ)となった。2)学生同士で相互に検査練習を行い,患者役がルーブリックで検査者役を評価することを2回以上行った。3)実技試験(患者役は筆者)を録画し,学生は録画を見て自己評価し,筆者が教員評価した。4)自己評価と教員評価を比べながら筆者と学生で振り返りを行った。5)後日,単位認定実技試験(SLTA)を実施し,行動4項目は変更せずに手技項目を一部変更したルーブリックを使用した。
質問紙調査 ルーブリックに対する評価(加藤・藤田,2016),達成目標志向性尺度(光浪,2010),認知的方略尺度(外山,2015)を実技試験後に7件法で実施した。
結果と考察
ルーブリックに対する評価
自己評価と教員評価の相関(全体)
自己評価と教員評価の得点差によるクラスター分析 自己評価と教員評価の得点差(自己評価得点-教員評価得点)によってクラスター分析(ユークリッド距離・Ward法)したところ,自己評価が教員評価より高い群10名(自己評価(高)群),自己評価と教員評価の得点差が少ない群12名(自己評価(同)群),自己評価が教員評価より低い群8名(自己評価(低)群)に分けられた。
考察1 評価観点などを考え,相互評価したことで,学生はルーブリックの内容に納得し,見やすく感じていたといえる(Table1)。また,自己評価と教員評価に正の相関があり(Table2),学生はルーブリックを適切に用いて採点したと考えられる。しかし,自己評価と教員評価の得点は必ずしも一致しておらず3群に分けることができた。
自己評価と教員評価の得点差による3群間比較 多重比較(Steel-Dwass法)の結果,行動得点で,自己評価(同)群と自己評価(低)群の間には有意差がなかったが,自己評価(高)群は他2群より有意に得点差が大きかった。
教員評価の得点による3群間比較 多重比較(Steel-Dwass法)の結果,行動得点で,自己評価(同)群と自己評価(低)群の間には有意差がなかったが,自己評価(高)群は他2群より教員評価の得点が有意に低かった。
達成目標志向性尺度と認知的方略尺度による3群間比較 両尺度ともに,3群間に有意差がなかった。
考察2 自己評価(高)群は,教員評価の行動得点が他2群より有意に低いにもかかわらず,教員評価より高く自己評価しており,その教員評価と自己評価のズレ(得点差)の程度が他2群よりも有意に大きかった。これは,自己評価(高)群は映像を見ても行動の問題に気づき難く,「できているつもり」だからではなかろうか。達成目標と認知的方略には3群間に有意差がみられず,自己評価(高)群が気づき難い要因についてはわからなかった。
実技試験(教員評価)と単位認定実技試験の比較
考察3 後日実施した単位認定実技試験の行動得点は,自己評価(高)群で有意に向上していた(Tabel3)。このことから,自己評価が教員評価より高い学生は,録画を見て自己評価するだけでは自分の行動を振り返ることはできず,教員評価と自己評価のズレを教員が指摘し,適時映像を見てお互いの評価について話し合うといった教員と行う振り返りが大切であることが示唆された。