日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-80)

ポスター発表 PE(01-80)

2017年10月8日(日) 13:30 〜 15:30 白鳥ホールB (4号館1階)

13:30 〜 15:30

[PE59] 親切や感謝の記録が中学生の精神的健康に及ぼす影響

前原由喜夫 (長崎大学)

キーワード:親切, 感謝, 精神的健康

 他者に親切にすることが,行為主体の心身の健康に良い影響を及ぼすという実証的証拠が近年数多く蓄積されている(Brown et al., 2012; Post, 2007)。例えば,寄付をしている人ほど幸福感が高い(Aknin et al., 2013),高校生のボランティア活動への参加は高い学業成績,良好な人間関係,健康維持行動の多さと関連している(Benson et al., 2007; Jessor et al., 1998),配偶者に情動的サポートを与えている高齢者ほど長生きする(Brown et al., 2003)といったことが示されてきた。親切があればそこには感謝が生じる。他者に感謝することもまた精神的健康に良い影響を与えることが実証されてきた(Wood et al., 2010)。質問紙によって測定された感謝特性が高い人ほど,ポジティブ感情や人生に対する満足度が高く,ネガティブ感情や不安や抑うつが低い(McCullough et al., 2002; Watkins et al., 2003)。しかしながら,親切と感謝のどちらのほうが心身の健康により大きな影響を与えるのかはほとんど検討されていない。さらに,親切や感謝がどのように心身の健康を改善するのか,そのメカニズムも明らかにはなっていない。本研究では中学生を対象に,自分の日々の親切あるいは感謝を記録することが精神的健康に及ぼす影響を実験的に検討した。

方   法
 参加者:長崎市内のN中学校第1学年133名。計10日間の記録のうち8日未満しか記述のなかった生徒や質問紙に未実施や欠損値のあった生徒を除き,最終的に120名を分析対象とした。
 第1回目質問紙:4月中旬に自己効力感尺度(23項目4件法;成田ら, 1995),状態不安尺度(20項目3件法;曽我, 1983),抑うつ状態尺度(18項目3件法;村田ら, 1996)を実施した。
 親切/感謝の記録(日記課題):第1回目の質問紙から約1か月後の5月中旬の平日5日間×2週間に計10日間行った。生徒には初日に,親切条件か感謝条件どちらか一方の説明用紙が入っている封筒が配られ,生徒たちは無作為にどちらか一方の条件に割り当てられた。また,全員に10日分の記述欄が設けてある出来事記述用のB4サイズの専用プリントが配布され,その日に自分が行った親切あるいは感謝を1個以上記述して,次の登校日に毎回担任へ提出するよう言われた。
 第2回目質問紙:日記課題が終了した約2か月後の7月下旬,夏休みの直前に2回目の質問紙調査を行った。4月に行った3つの尺度に加え,「あなたはどの程度,中学校での生活に満足していますか?」(学校生活満足度質問)および「あなたは最近,どのくらい幸せを感じていますか?」(幸福感質問)にそれぞれ10段階で回答を求めた。

結果と考察
 各尺度の合計点の変化率(=(7月-4月)/4月)に対してt検定を行った結果,自己効力感のみ有意差が見られた(t (118) = 2.12, p = .036)。
 続いて,自己効力感の増加が不安や抑うつの減少に寄与し,それが学校生活満足度や幸福感にどのような影響を及ぼすかをパス解析によって分析した。その結果,自己効力感の増大は不安の低減には影響しなかったが,抑うつの低減には影響したことが示唆された。さらに,抑うつの減少が直接的あるいは生活満足度を介して間接的に幸福感の増大に影響を与えていることも示唆された。
 以上より,中学生に約2週間自分の親切に注目させると,自己効力感が高まり,精神的健康の改善に有効である可能性が示唆された。