16:00 〜 18:00
[PF38] 児童の課題解決への取り組みを支える教師の支援
算数の授業場面から
キーワード:課題解決, 教師の支援, 概念的理解
問題と目的
藤村(2013)は,日本の子どもは,解法が一つに決まるような定型的な問題に対して,一定の手続きを適用して正答を導きだす定型的な手続き的知識やスキルを適用する力,いわゆる「できる学力」においては高い正答率を示すことを指摘している。一方で,解法や解釈が多様であり,概念的理解を要し,様々な知識を関連づけて考えることが必要な「わかる学力」の問題では,全く答えを書かない者の割合が高いことは日本の子どもの特徴とされる。このような概念的理解を要する課題に子どもたちが取り組めるようになるには,授業の中でその経験を重ねることが重要であると考えられる。本研究では,小学校の担任教師から「おとなしく発言が少ないが,課題解決にしっかりと取り組む」と評価されている児童の算数の授業での課題への取り組み方を追い,そこで教師や周囲の児童とどのようなやりとりを行っているのかを合わせて分析する。このことにより,授業の中で概念的理解を要する課題に児童が十分に取り組むための環境の設定や教師の支援について検討する。
方 法
〈対象〉関東地方の公立小学校の5年生 ともみさん(女児,仮名)。担任は教職18年目の北川教諭(男性,仮名)。北川教諭はともみさんのことを「おとなしく発言が少ないが,課題解決にしっかりと取り組む子である」と評価している。
〈観察方法〉201X+1年11月から12月まで,週2日程度算数を中心に参与観察を行い,授業後,メモと記録映像からフィールドノーツを作成した。
〈分析方法〉本研究では,算数の授業中に自力で課題解決に取り組む25の場面を取り上げ,対象児の言動に着目してエピソードの書き起こしを行った。各エピソードは,Hiebert&Lefevre(1986)や藤村(2012)の記述を参考に,(1)計算問題など,一定の手続き(公式,定義,性質)を適用して正答を導く課題の場合:16エピソード,(2)四角形に対角線を引いて内角の和を求めるなど,概念理解を要し様々な知識を関連づけて考える必要がある課題の場合:9エピソードに分類し,ともみさんの課題への取り組み方について検討を行った。
結果と考察
教師の発問が終わってから,ともみさんが課題解決に向けてノートに記述を始めるまでの時間を「課題にとりかかるまでの時間」として,この時間のともみさんの様子を中心にエピソードの分析を行った。公式や例題の数値を変えるなど一定の手続きを適用すれば正答を導ける課題(以下,手続き適用課題)の場合では,教師の発問が終わるとすぐに課題にとりかかる様子が見られ,最も時間がかかった課題でも発問から25秒後にはとりかかっている。一方,概念的理解を要し知識を関連付けて考える課題(以下,概念的理解課題)の場合は,ノートや教科書を見返したり,教師に質問をしたりした後,課題にとりかかっており,最も早かった課題でも発問から74秒かかっている。「概念的理解課題」のエピソードの1つを以下に示す。
<エピソード8>(課題にとりかかるまでの時間154秒)北川教諭から「ストローで正方形を横につなげた形をつくるときの,正方形の数とストローの本数の関係を考えよう」という課題が出される。ともみさんは,2分間黒板をじっとみている。北川教諭が近づくと「問題の意味が分かりません」と質問。教師は「正方形が1つだとストローが4本だよね。2つになると7本になる。3つになると10本。このときに,正方形が増えると,ストローの数がどう増えていくのか,その関係を考えるんだよ」と板書を指さし助言する。その後,ともみさんは課題をノートに書き始めた。
その後,1分程度ノートを見ながら思考し,「正方形が1つ増えるとストローが3本増える」という解答を記述した。
概念理解課題では手続き適用課題と比べて,教師への質問や他児と対話することで,課題解決に結びつけようとしている姿が多く,さらに,教科書を確認するなど課題解決のための手がかりを得ようとしている。ともみさんは様々な知識を結びつけて考えることの必要性を認識しているといえる。
総合考察
概念的理解を要する課題に児童が十分に取り組むためには,自分の席で個別に作業に取り組むだけでなく,教師や周囲の児童と話をしながら課題に取り組むことも必要な活動として保障されるべきであると考えられる。その際,教科書,自分や友達のノート,板書などを見比べながら様々な知識を入手する時間を確保することも重要である。授業中の子どもの活動が柔軟なものとなるような配慮や,すぐに解答できることよりじっくりと考えることを価値づけるような教師の態度が必要であるといえる。
藤村(2013)は,日本の子どもは,解法が一つに決まるような定型的な問題に対して,一定の手続きを適用して正答を導きだす定型的な手続き的知識やスキルを適用する力,いわゆる「できる学力」においては高い正答率を示すことを指摘している。一方で,解法や解釈が多様であり,概念的理解を要し,様々な知識を関連づけて考えることが必要な「わかる学力」の問題では,全く答えを書かない者の割合が高いことは日本の子どもの特徴とされる。このような概念的理解を要する課題に子どもたちが取り組めるようになるには,授業の中でその経験を重ねることが重要であると考えられる。本研究では,小学校の担任教師から「おとなしく発言が少ないが,課題解決にしっかりと取り組む」と評価されている児童の算数の授業での課題への取り組み方を追い,そこで教師や周囲の児童とどのようなやりとりを行っているのかを合わせて分析する。このことにより,授業の中で概念的理解を要する課題に児童が十分に取り組むための環境の設定や教師の支援について検討する。
方 法
〈対象〉関東地方の公立小学校の5年生 ともみさん(女児,仮名)。担任は教職18年目の北川教諭(男性,仮名)。北川教諭はともみさんのことを「おとなしく発言が少ないが,課題解決にしっかりと取り組む子である」と評価している。
〈観察方法〉201X+1年11月から12月まで,週2日程度算数を中心に参与観察を行い,授業後,メモと記録映像からフィールドノーツを作成した。
〈分析方法〉本研究では,算数の授業中に自力で課題解決に取り組む25の場面を取り上げ,対象児の言動に着目してエピソードの書き起こしを行った。各エピソードは,Hiebert&Lefevre(1986)や藤村(2012)の記述を参考に,(1)計算問題など,一定の手続き(公式,定義,性質)を適用して正答を導く課題の場合:16エピソード,(2)四角形に対角線を引いて内角の和を求めるなど,概念理解を要し様々な知識を関連づけて考える必要がある課題の場合:9エピソードに分類し,ともみさんの課題への取り組み方について検討を行った。
結果と考察
教師の発問が終わってから,ともみさんが課題解決に向けてノートに記述を始めるまでの時間を「課題にとりかかるまでの時間」として,この時間のともみさんの様子を中心にエピソードの分析を行った。公式や例題の数値を変えるなど一定の手続きを適用すれば正答を導ける課題(以下,手続き適用課題)の場合では,教師の発問が終わるとすぐに課題にとりかかる様子が見られ,最も時間がかかった課題でも発問から25秒後にはとりかかっている。一方,概念的理解を要し知識を関連付けて考える課題(以下,概念的理解課題)の場合は,ノートや教科書を見返したり,教師に質問をしたりした後,課題にとりかかっており,最も早かった課題でも発問から74秒かかっている。「概念的理解課題」のエピソードの1つを以下に示す。
<エピソード8>(課題にとりかかるまでの時間154秒)北川教諭から「ストローで正方形を横につなげた形をつくるときの,正方形の数とストローの本数の関係を考えよう」という課題が出される。ともみさんは,2分間黒板をじっとみている。北川教諭が近づくと「問題の意味が分かりません」と質問。教師は「正方形が1つだとストローが4本だよね。2つになると7本になる。3つになると10本。このときに,正方形が増えると,ストローの数がどう増えていくのか,その関係を考えるんだよ」と板書を指さし助言する。その後,ともみさんは課題をノートに書き始めた。
その後,1分程度ノートを見ながら思考し,「正方形が1つ増えるとストローが3本増える」という解答を記述した。
概念理解課題では手続き適用課題と比べて,教師への質問や他児と対話することで,課題解決に結びつけようとしている姿が多く,さらに,教科書を確認するなど課題解決のための手がかりを得ようとしている。ともみさんは様々な知識を結びつけて考えることの必要性を認識しているといえる。
総合考察
概念的理解を要する課題に児童が十分に取り組むためには,自分の席で個別に作業に取り組むだけでなく,教師や周囲の児童と話をしながら課題に取り組むことも必要な活動として保障されるべきであると考えられる。その際,教科書,自分や友達のノート,板書などを見比べながら様々な知識を入手する時間を確保することも重要である。授業中の子どもの活動が柔軟なものとなるような配慮や,すぐに解答できることよりじっくりと考えることを価値づけるような教師の態度が必要であるといえる。