日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PF(01-81)

ポスター発表 PF(01-81)

2017年10月8日(日) 16:00 〜 18:00 白鳥ホールB (4号館1階)

16:00 〜 18:00

[PF42] 言語能力と言語不安が外国語副作用に及ぼす影響

楊嘉寧 (広島大学)

キーワード:言語能力, 言語不安, 外国語副作用

問題・目的
 言語処理と論理的思考を同時遂行するとき,処理言語が外国語である場合は母語である場合よりも思考への干渉率が高く,この干渉率の差は外国語副作用と呼ばれている(Takano & Noda, 1993)。
 外国語副作用は,二重課題実験で検証されているが,外国語副作用の高低に影響を及ぼす要因に関する検討は十分とは言い難い。外国語副作用は,不慣れな外国語の使用時に思考力が一時的に低下する現象であるため,外国語の習熟度が外国語副作用に影響を及ぼすと予測される。一方,多くの先行研究では,不安が外国語の入力・処理・出力に影響を及ぼすことが指摘されていることから,外国語副作用に不安も影響を与えると考えられる。
 そこで,本研究では,日本語の習熟度を表す日本語能力試験N1点数と第二言語不安,さらに異文化適応感の程度,が外国語副作用との関係を明らかにすることを目的とする。
方   法
 参加者 中国人大学院留学生26名(男性9名女性17名,N1レベル)。
 外国語副作用 Takanoら(1993)の二重課題実験に基づき,日本語条件と中国語条件の2条件で干渉率を測定した。
 質問紙 ①第二言語不安:元田(2005)により開発された日本語不安尺度のうち,教室内不安,教室外不安因子それぞれから,因子負荷が高い11項目と10項目を用いた。回答は「全く当てはまらない(1点)」から「非常によくあてはまる(6点)」までの6件法で求めた。②異文化適応尺度:異文化適応尺度(田中ら,1990)を基に「学習・研究」因子3項目,「日本語・日本文化」因子5項目,「健康・人間関係」因子5項目を選出し,用いた。回答は「かなり良くない(1点)」から「かなり良い(4点)」までの4件法で求めた。
結   果
 日本語条件と中国語条件での干渉率を比較したところ,日本語条件での干渉率がより大きかったことから(t(25)=4.47, p<.001),日本語の場合も中国語の場合も,外国語副作用が生起することを確認した。次に,日本語能力試験N1点数,日本語不安,異文化適応感を独立変数,外国語副作用を従属変数とする重回帰分析(ステップワイズ法)を行った結果,日本語能力試験N1点数が日本語副作用に有意な負の影響(β=-.31, p<.05),日本語の教室外不安(β=.63, p<.01)が外国語副作用に有意な正の影響を及ぼしていた。なお,適応感の日本語・日本文化因子(β=.28, p<.10)は日本語副作用に正の影響力を持っている傾向が見られた。
考   察
 以上の結果から,日本語を使用する際に思考力の発揮を妨害する外国語副作用の低減には,日本語能力試験N1得点が示す日本語能力そのものを高めることが不可欠であると同時に,不安感の低減に力を入れることも有効だと考えられる。また,有意傾向であったが,日本語・日本文化に適応しているという思い込みが,かえって外国語副作用の低減を阻害する可能性が示唆された。