日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PF(01-81)

ポスター発表 PF(01-81)

2017年10月8日(日) 16:00 〜 18:00 白鳥ホールB (4号館1階)

16:00 〜 18:00

[PF57] 大学生におけるセルフコンパッションとキャリア形成意欲の関連

飯島有哉1, 中村実央#2, 桂川泰典3 (1.早稲田大学大学院, 2.山崎製パン株式会社, 3.早稲田大学)

キーワード:キャリア形成意欲, セルフコンパッション, 自己効力感

問題と目的
 近年,若者の学校から社会・職業への移行が円滑に行われていない状況が問題視されており (中央審議会, 2011),大学生の職業未決定の要因として,自分自身のキャリア形成を意欲的・積極的に行う姿勢である「キャリア形成意欲」の未成熟が指摘されている (石橋他, 2015)。キャリア形成意欲に影響するものとしては,これまで自尊感情が取り上げられてきた (遠藤, 1999)。しかし,有光 (2014) は,自尊感情の向上は他者からの肯定的評価に依存することが多く,常に高い自尊感情を持ち続けることは困難であると述べている。
 そこで近年では,自尊感情に代わる概念としてセルフコンパッションが注目されている。セルフコンパションとは,精神的につらい状況において,苦痛をありのままに受け入れ,その苦痛を緩和させるような,思いやりに溢れた自己との関わり方であるとされている (Neff, 2009)。自己に対する肯定的認識という点では自尊感情と共通しているが,他者からの称賛の如何に関わらず,ありのままの自分を受け入れることができ,他者評価へ依存しないために不安定さが少ない点で異なる。
 セルフコンパッションは自己効力感との関連が示唆されている (Kwan, et al., 2009)。また,自己効力感は未来の行動遂行の確信度を意味するため,将来の展望を思い描く際に必要なものとなる (富安, 1997)。したがって,セルフコンパッションは自己効力感を媒介することでキャリア形成意欲を高めると考えられる。
 本研究では,不安定さが少なく訓練によって高めることができるセルフコンパションとキャリア形成意欲の関連性を検討することで,今後のキャリア教育支援活動の一助とすることを目的とする。

方   法
調査対象:大学生に対して質問紙調査を行い,有効回答者155名(男性70名,女性84名,未記入1名, 平均年齢20.36歳, SD=1.63)を分析対象とした。調査時期:2016年10月下旬。
倫理的配慮:本調査は,調査対象者の自由意志による同意を得た上で実施された。
調査材料:①セルフコンパッション反応尺度 (SCRI: 谷川・谷口, 2016),②成人キャリア成熟尺度 (ACMS: 坂柳, 1999),③特性的自己効力感尺度 (SE: 成田他, 1995)。

結   果
 セルフコンパッションおよび自己効力感がキャリア形成意欲に対して与える影響を検討するため,ACMS得点を従属変数とする階層的重回帰分析を行った。なお,第1ステップでSCRI得点を投入し,第2ステップでSE得点を投入した (Table 1)。その結果,第1ステップにおいて有意な値であったSCRIの標準偏回帰係数は (β=.31, p<.001),第2ステップでは有意な値とならなかった (β=.-11, n.s.)。一方で,第2ステップで投入したSEの標準偏回帰係数は有意であった (β=.65, p<.001)。SCRIとSEの間には中程度の相関が認められたが (r=.50, p<.001),多重共線性は認められなかった (VIF=1.34)。したがって,セルフコンパッションはキャリア形成意欲に対して自己効力感を経由した間接効果を持つことが確認された (Figure 1)。

考   察
 本研究の結果から,セルフコンパッションは自己効力感の向上を経由することで,キャリア形成意欲を高めることが示唆された。セルフコンパッションが直接的にキャリア形成意欲に結びつかなかった理由として,楽観主義との関連が挙げられる (Smeets, et al., 2014)。自己への慈しみは方向性を見誤れば妥協や甘えにつながる危険性があるだろう。今後セルフコンパッションを高める介入を行う際には,その危険性を排除し,自己効力感との結びつきを強めていくことで,キャリア形成意欲の向上へとつながる有効な介入方略となると考えられる。