16:00 〜 18:00
[PF75] 清掃活動におけるコーチングが子どもの主体性を高める可能性
キーワード:コーチング, 主体性, 動機づけ
問題と目的
生きる力を育むことを提唱している文部科学省が作成する学習指導要領には,随所に「主体」という言葉が使われ,「生きる力とは,すなわち主体性である」(井上・林,2003)と指摘している。その生きる力の育成に大きく関係している教育活動である特別活動の学習指導要領に,「清掃」という言葉が明記されるようになった。このことは,生きる力を育むための特別活動として,清掃活動を計画的・積極的に取り入れることが国の施策として推奨されていることを意味していよう。生きる力を育成するために主体性を高めることを目的として清掃活動をするのであれば,まず清掃活動に主体性を持たせること,また,「学校生活における集団活動の発達的な特質を踏まえた指導」(特別活動編,2008)から,高学年では,自己決定による目標設定と振り返りを通して自分作りを進めていくことが大切であると考える。そこで,本研究では,清掃活動を振り返る場を導入し,意思決定能力を促進できるコーチングの手法を用いた実践介入を行うものとする。この実践介入効果を客観的なデータで表すため,子どもの主体性を測定する尺度を実践前後で比較し,その変化を検討する。また,主体性が育まれるプロセスにおいては,清掃活動に対する動機づけも自律性の高い水準へと移行していくと考えられるため,清掃活動に対する動機づけ尺度も実施する。さらに,清掃活動を通して主体性や動機づけが大きく変化した児童と変わらなかった児童に注目して,振り返りの記述や目標設定にどのような違いがあるのかについても,質的な検討を行うものとする。
方 法
実践期間と対象者:X年4月~7月,同一の地区にある公立小学校3校の5,6年生児童を対象とした。3校のうち実践校が1校4学級,統制校が2校5学級であった。なお,質問紙の有効回答数は251名であった。
質問紙の構成:主体性の測定には浅海(1999)の主体性尺度を用いた。また,清掃活動に対する動機づけ尺度は,速水(1997)と安藤ら(2008)の「小学生用の授業に対する動機づけ尺度」を参考にして作成した。
実践内容:実践校では,4月中旬に事前の質問紙調査を行った後,清掃活動が自分作りの場となることを理解させるために3回の授業を実施。その後,2学級では各自で掃除における「目標」を立て,振り返りを毎日記録。実践者は,振り返りノートを確認し,コーチングの手法の「傾聴」「承認」「質問」を元にしてコメント記入(振り返りノートのみ介入群)。残りの2学級では,振り返りノートに加えて実践者とともに話し合いを行い,コーチングの手法を用いた直接の言葉かけも行った(フル介入群)。さらに,フル介入群の教室掃除の様子を録画記録。7月中旬にまとめの授業と事後の質問紙調査を実施。なお,統制群は,4月と7月の同時期に,質問紙調査のみを実施した。
結果と考察
尺度の因子分析:主因子法・プロマックス回転による因子分析の結果,動機づけ尺度では『義務型低自律外発的動機づけ』『高自律外発的動機づけ』『内発的動機づけ』『賞賛型低自律外発的動機づけ』と命名される4因子が抽出され,主体性尺度からは『好奇心積極性』『表現力』『自己決定力』と命名される3因子が抽出された。『自己決定力』はα係数が若干低かったが,先行研究でも同一の因子が抽出されていること,主体性の因子として重要であることから,後の分析でも用いることとした。
実践介入の効果の量的な分析結果と考察:動機づけ尺度では『義務型低自律的外発動機づけ』因子と『高自律外発的動機づけ』因子において,4月は3群の得点に差がなかったが,7月には振り返りノートのみ介入群とフル介入群は統制群よりも有意に高得点となった。またフル介入群では4月より7月で有意に得点が上昇した。さらに,主体性尺度でも『自己決定力』因子において,4月には3群間の得点差がなかったのに対し,7月には統制群よりも,振り返りノートのみ介入群とフル介入群は有意に高得点となった(Figure1)。これらの結果,介入によって掃除に対する動機づけが自律性の高い水準へと移行し,主体性の中の自己決定力も高まったといえる。
質的な検討結果と考察:量的な分析において介入の効果が確認された3因子がすべて高まった子ども(以降「向上群」)と下がった子ども(以降「非向上群」)に注目し,質的な検討を行った。向上群は,毎日の振り返りにおいてほぼ90%以上の日で「目標を意識できた」と振り返っており,「(目標通りに)できた」と振り返った日が多く,自己評価得点の平均値も高かった。「100点」と満点評価することもあった。また,「できなかった」と振り返った翌日は必ず「がんばれた」になっていた。それに対し,非向上群は,「できた」と振り返った日は半分以下で,自己評価得点の平均値は向上群よりも低い水準にあり,「できた」と振り返った日でも「100点」の満点評価ができていなかった。また,「今日もできなかった」と振り返る日が連続することもあった。目標を意識できた割合も向上群と比べて低い結果となった。これらのことから,非向上群は,成果を自身の目標ではなく他者と比べてしまう,自己評価が低く満足感や達成感が味わいにくい,最初の目標立てが十分でなくコーチングが有効な状態になかった,等が考えられた。
振り返りの内容分析においては,向上群は,何か理由があって目標が達成できなかった日でも,精一杯がんばれたことに満足を感じる振り返りがしばしば見られた。一方,非向上群は,目標が達成できた日でも満足感や達成感を味わえていないことが確認され,振り返りノートを見返していないことも推測された。さらに,向上群では具体的な目標を立てられた日が多く,非向上群は単純に「がんばる」のような具体性のない目標が多かった。また,字の乱雑さから,非向上群は,振り返りの際に十分思考できていなかったことが推測された。
生きる力を育むことを提唱している文部科学省が作成する学習指導要領には,随所に「主体」という言葉が使われ,「生きる力とは,すなわち主体性である」(井上・林,2003)と指摘している。その生きる力の育成に大きく関係している教育活動である特別活動の学習指導要領に,「清掃」という言葉が明記されるようになった。このことは,生きる力を育むための特別活動として,清掃活動を計画的・積極的に取り入れることが国の施策として推奨されていることを意味していよう。生きる力を育成するために主体性を高めることを目的として清掃活動をするのであれば,まず清掃活動に主体性を持たせること,また,「学校生活における集団活動の発達的な特質を踏まえた指導」(特別活動編,2008)から,高学年では,自己決定による目標設定と振り返りを通して自分作りを進めていくことが大切であると考える。そこで,本研究では,清掃活動を振り返る場を導入し,意思決定能力を促進できるコーチングの手法を用いた実践介入を行うものとする。この実践介入効果を客観的なデータで表すため,子どもの主体性を測定する尺度を実践前後で比較し,その変化を検討する。また,主体性が育まれるプロセスにおいては,清掃活動に対する動機づけも自律性の高い水準へと移行していくと考えられるため,清掃活動に対する動機づけ尺度も実施する。さらに,清掃活動を通して主体性や動機づけが大きく変化した児童と変わらなかった児童に注目して,振り返りの記述や目標設定にどのような違いがあるのかについても,質的な検討を行うものとする。
方 法
実践期間と対象者:X年4月~7月,同一の地区にある公立小学校3校の5,6年生児童を対象とした。3校のうち実践校が1校4学級,統制校が2校5学級であった。なお,質問紙の有効回答数は251名であった。
質問紙の構成:主体性の測定には浅海(1999)の主体性尺度を用いた。また,清掃活動に対する動機づけ尺度は,速水(1997)と安藤ら(2008)の「小学生用の授業に対する動機づけ尺度」を参考にして作成した。
実践内容:実践校では,4月中旬に事前の質問紙調査を行った後,清掃活動が自分作りの場となることを理解させるために3回の授業を実施。その後,2学級では各自で掃除における「目標」を立て,振り返りを毎日記録。実践者は,振り返りノートを確認し,コーチングの手法の「傾聴」「承認」「質問」を元にしてコメント記入(振り返りノートのみ介入群)。残りの2学級では,振り返りノートに加えて実践者とともに話し合いを行い,コーチングの手法を用いた直接の言葉かけも行った(フル介入群)。さらに,フル介入群の教室掃除の様子を録画記録。7月中旬にまとめの授業と事後の質問紙調査を実施。なお,統制群は,4月と7月の同時期に,質問紙調査のみを実施した。
結果と考察
尺度の因子分析:主因子法・プロマックス回転による因子分析の結果,動機づけ尺度では『義務型低自律外発的動機づけ』『高自律外発的動機づけ』『内発的動機づけ』『賞賛型低自律外発的動機づけ』と命名される4因子が抽出され,主体性尺度からは『好奇心積極性』『表現力』『自己決定力』と命名される3因子が抽出された。『自己決定力』はα係数が若干低かったが,先行研究でも同一の因子が抽出されていること,主体性の因子として重要であることから,後の分析でも用いることとした。
実践介入の効果の量的な分析結果と考察:動機づけ尺度では『義務型低自律的外発動機づけ』因子と『高自律外発的動機づけ』因子において,4月は3群の得点に差がなかったが,7月には振り返りノートのみ介入群とフル介入群は統制群よりも有意に高得点となった。またフル介入群では4月より7月で有意に得点が上昇した。さらに,主体性尺度でも『自己決定力』因子において,4月には3群間の得点差がなかったのに対し,7月には統制群よりも,振り返りノートのみ介入群とフル介入群は有意に高得点となった(Figure1)。これらの結果,介入によって掃除に対する動機づけが自律性の高い水準へと移行し,主体性の中の自己決定力も高まったといえる。
質的な検討結果と考察:量的な分析において介入の効果が確認された3因子がすべて高まった子ども(以降「向上群」)と下がった子ども(以降「非向上群」)に注目し,質的な検討を行った。向上群は,毎日の振り返りにおいてほぼ90%以上の日で「目標を意識できた」と振り返っており,「(目標通りに)できた」と振り返った日が多く,自己評価得点の平均値も高かった。「100点」と満点評価することもあった。また,「できなかった」と振り返った翌日は必ず「がんばれた」になっていた。それに対し,非向上群は,「できた」と振り返った日は半分以下で,自己評価得点の平均値は向上群よりも低い水準にあり,「できた」と振り返った日でも「100点」の満点評価ができていなかった。また,「今日もできなかった」と振り返る日が連続することもあった。目標を意識できた割合も向上群と比べて低い結果となった。これらのことから,非向上群は,成果を自身の目標ではなく他者と比べてしまう,自己評価が低く満足感や達成感が味わいにくい,最初の目標立てが十分でなくコーチングが有効な状態になかった,等が考えられた。
振り返りの内容分析においては,向上群は,何か理由があって目標が達成できなかった日でも,精一杯がんばれたことに満足を感じる振り返りがしばしば見られた。一方,非向上群は,目標が達成できた日でも満足感や達成感を味わえていないことが確認され,振り返りノートを見返していないことも推測された。さらに,向上群では具体的な目標を立てられた日が多く,非向上群は単純に「がんばる」のような具体性のない目標が多かった。また,字の乱雑さから,非向上群は,振り返りの際に十分思考できていなかったことが推測された。