日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PG(01-81)

ポスター発表 PG(01-81)

2017年10月9日(月) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PG43] 高等教育における学びのユニバーサルデザイン(UDL)の実践の試み

知識・技能の修得を目的とした授業における導入

藤井厚紀1, 石橋慶一#2, 上村英男#3 (1.福岡工業大学短期大学部, 2.福岡工業大学短期大学部, 3.福岡工業大学短期大学部)

キーワード:学びのユニバーサルデザイン, 学修方法, 高等教育

問題と目的
 Rose & Meyer (2002)が提唱したUniversal Design for Learning (以下:UDL)は,Ronald Maceが提唱したユニバーサルデザインを基にして,学修者の多様性に対応した教育の枠組みをまとめたものである。我が国におけるUDLに関するいくつかの研究(例えば,千々和・納富,2012)を概観すると,UDLは現在,わが国の初等・中等教育における通常学級への導入を中心に広まりつつあると考えられる。しかしながら,大学や短大においてUDLを導入した事例はまだ少なく(西井,2013),学修者の多様化の進む高等教育において,UDLが適用可能であるかについての検討が必要と考えられた。
 そこで本研究では,UDLの原則にある「取り組みのための多様な方法の提供」のガイドラインに沿って,授業内で取り組む学修方法を学修者自身が自由に選択できる授業デザインを導入した。学修方法の選好に関する学生アンケートの結果から,本授業デザインの有用性について考察した。
方   法
授業デザイン 本研究では,UDLの原則にある「取り組みのための多様な方法の提供」のガイドラインに沿って,授業における学修の取り組み方として「教員に質問(以下:教員)」,「任意の友人グループで相談(以下:友人)」,「自分自身で調べ学修(以下:自分)」の3つの方法を学修者が自由に選択できる方式を導入した(以下:学修方法自由選択方式)。
対 象 本授業デザインを導入した授業科目は,A短期大学の専門教育科目である「ビジネス情報演習」とした。当該科目の主な学修目標は,簿記会計と表計算ソフトウェアに関する知識・技能の修得であった。開講時期は2年次前期であり,選択必修科目(2単位)であり,担当教員は2名であった。本授業デザインの導入および調査年度は2015年度であった。当該年度における履修人数は56名であり,男子・女子ともに28名であった。
アンケートと分析方法 第15回目授業において,履修した学生全員に対して学修方法の選好に関するアンケートを実施した。学修内容を理解するために「教員」,「友人」,「自分」および「自由選択方式」のうち,どの方法を常に選択することが自分にとって最も適切であるかについて回答しても らった上で,その理由について自由記述により回答してもらった。 成績と学修方法の関係を表すクロス集計表を作成し,学修方法選好の構成比を求め比較を行った。
結果と考察
 「ビジネス情報演習」の学修内容を理解するために最も適している学修方法についてアンケートを実施した結果をFigure 1に示す。学生全体でみた場合,「自由選択方式」を選んだ学生は約53%と他に比べ最も高く,次いで「友人」を選んだ学生は,約35%の割合であった。ここで,学修目標をよく達成した成績「優」の学生(N=27)について同様に求めると,「自由選択方式」が約67%と全体で見た場合に比べ高かった。一方,「友人」の割合は約26%と全体に比べ低いことが認められた(Figure 1)。「自由選択方式」を選んだ学生の意見(そのまま記述)は「単元によっては教えあいが良かったり,個人で調べる方が良かったりと単元ごとに差があるから」,「基本的に自分で取り組んで,わからないところがあれば友達に聞く。それでもわからなければ教員に聞くというやり方が1番やりやすいと思った」など,その場の状況にあわせた方法を自ら選択する方が学びやすいという回答が得られた。これらの結果は,本授業デザインによって学修方法の自己選択を支援することが可能であることを示唆している。
引用文献
Rose, D.H., & Meyer, A. (2002). Teaching every student in the digital age: Universal Design for Learning. Alexandria, Virginia: Assn for Supervision & Curriculum.