10:00 〜 12:00
[PG67] 「精神的充足・社会的適応力」評価尺度による心理的柔軟性の育成
評価尺度の反復実施による検討
キーワード:精神的充足, 社会的適応力, 心理的柔軟性
今日の学校教育では,これからの社会を見据え新しい学力や能力を育成することが求められている。基礎基本となる知識や教科横断的な技能とともに,豊かな人間性としての「自らを律しつつ,他人とともに協調し,他人を思いやる心」を育んでいく必要がある。学校でも様々な教育活動を通して,自律性,協調性,思いやりの心の育成が図られている。しかし,児童生徒自身が自らの心の育成に対して,メタ認知的な省察を行いつつ,自覚的・主体的に取り組む機会が多いとは言えない。
「精神的充足・社会適応力」評価尺度(菅野・綿井,2002)は,自己アセスメント型心理教材(KJQ-M)として構成されており,回答した児童生徒には回答結果シートとワークブックが返却され,自らの心の状態や行動を振り返ることを求める仕組みになっている。本尺度の活用が学級経営や生徒指導に有効であることを明らかにした先行研究(綿井ら,2015)を踏まえ,心理教材として本尺度を継続的に実施することが「自律的に取り組む態度」の基礎となる自己価値の形成や「他人とともに協調し,他人を思いやる心」の育成に寄与するのかを中学生を対象に検討することを本研究の目的とする。
方 法
[対象] 首都圏にある公立中学校の1年生168名。
[尺度・調査の実施] 「精神的充足・社会的適応力」評価尺度,自立性や協調性を測定する質問紙調査を9月下旬と3月初旬の2回実施した。評価尺度の結果は回答の数週間後に担任教員を通して,生徒に結果シートおよびワークシートを返却した。
自己価値や協調性を測定する質問紙調査は,自己価値の随伴性,レジリエンス・非柔軟性を測定する尺度(大谷ら,2010;平野,2010;Ishizuら,2014)を参考にして項目を構成した。
[担任団との検討会]
回答結果を分析した内容について担任団に説明し,担任教員らの生徒理解の様子との一致・不一致,および生徒の回答状況に関する具体的な情報交換を行った。
結果と考察
(1)自己価値・協調性の測定結果 生徒の回答結果をもとに,因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行って下位構造を確認した。その結果,自己価値の随伴性に関する項目は「運動能力」「友人関係」「学業能力」の3領域に,レジリエンス・非柔軟性は,「問題解決志向的レジリエンス」,「他者心理の理解的レジリエンス」「非柔軟性:否定的状況受容」の3領域に分類できることを確認した。
(2)評価尺度の結果に基づく生徒の分類 「精神的充足・社会適応力」評価尺度への回答を1・2回目で比較し,両方の領域(精神・社会)ともに得点が一定以上上昇した生徒を上昇群,ともに下降した生徒を下降群,それ以外の生徒(得点がほぼ変化しない生徒など)を同一群として分類した。
(3)評価尺度による心の状態の変化と自己価値・協調性の変化との関連分析 自己価値や協調性の変化は,学校生活全般を通して形成されたものであり,評価尺度の結果を確認した体験が強く影響したと想定することは難しい。しかし,生徒が自らの「精神的充足」や「社会的適応力」をどう把握し回答したのかと,自己価値・協調性の変化とは一定の関連がみられると考える。両者の変化の関係を検討するために,(2)で述べた生徒の3群の間で,(1)の各領域の得点変化(2回目と1回目の得点差)を集計し,1要因分散分析により比較した。その結果,「問題解決」と「他者理解」において主効果が有意となり,下位検定から両領域得点ともに,評価尺度の2領域とも上昇した生徒の方が,下降した生徒よりも高くなっていた。
以上から2つの変化が関連していることは示されたと考えられる。しかし,心理教材として評価尺度に回答しその結果を確認することが生徒自身への省察を促し,その体験が自己価値や協調性・思いやりの心の向上に対してどのように影響したのかは,より詳細な分析を行う必要がある。
「精神的充足・社会適応力」評価尺度(菅野・綿井,2002)は,自己アセスメント型心理教材(KJQ-M)として構成されており,回答した児童生徒には回答結果シートとワークブックが返却され,自らの心の状態や行動を振り返ることを求める仕組みになっている。本尺度の活用が学級経営や生徒指導に有効であることを明らかにした先行研究(綿井ら,2015)を踏まえ,心理教材として本尺度を継続的に実施することが「自律的に取り組む態度」の基礎となる自己価値の形成や「他人とともに協調し,他人を思いやる心」の育成に寄与するのかを中学生を対象に検討することを本研究の目的とする。
方 法
[対象] 首都圏にある公立中学校の1年生168名。
[尺度・調査の実施] 「精神的充足・社会的適応力」評価尺度,自立性や協調性を測定する質問紙調査を9月下旬と3月初旬の2回実施した。評価尺度の結果は回答の数週間後に担任教員を通して,生徒に結果シートおよびワークシートを返却した。
自己価値や協調性を測定する質問紙調査は,自己価値の随伴性,レジリエンス・非柔軟性を測定する尺度(大谷ら,2010;平野,2010;Ishizuら,2014)を参考にして項目を構成した。
[担任団との検討会]
回答結果を分析した内容について担任団に説明し,担任教員らの生徒理解の様子との一致・不一致,および生徒の回答状況に関する具体的な情報交換を行った。
結果と考察
(1)自己価値・協調性の測定結果 生徒の回答結果をもとに,因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行って下位構造を確認した。その結果,自己価値の随伴性に関する項目は「運動能力」「友人関係」「学業能力」の3領域に,レジリエンス・非柔軟性は,「問題解決志向的レジリエンス」,「他者心理の理解的レジリエンス」「非柔軟性:否定的状況受容」の3領域に分類できることを確認した。
(2)評価尺度の結果に基づく生徒の分類 「精神的充足・社会適応力」評価尺度への回答を1・2回目で比較し,両方の領域(精神・社会)ともに得点が一定以上上昇した生徒を上昇群,ともに下降した生徒を下降群,それ以外の生徒(得点がほぼ変化しない生徒など)を同一群として分類した。
(3)評価尺度による心の状態の変化と自己価値・協調性の変化との関連分析 自己価値や協調性の変化は,学校生活全般を通して形成されたものであり,評価尺度の結果を確認した体験が強く影響したと想定することは難しい。しかし,生徒が自らの「精神的充足」や「社会的適応力」をどう把握し回答したのかと,自己価値・協調性の変化とは一定の関連がみられると考える。両者の変化の関係を検討するために,(2)で述べた生徒の3群の間で,(1)の各領域の得点変化(2回目と1回目の得点差)を集計し,1要因分散分析により比較した。その結果,「問題解決」と「他者理解」において主効果が有意となり,下位検定から両領域得点ともに,評価尺度の2領域とも上昇した生徒の方が,下降した生徒よりも高くなっていた。
以上から2つの変化が関連していることは示されたと考えられる。しかし,心理教材として評価尺度に回答しその結果を確認することが生徒自身への省察を促し,その体験が自己価値や協調性・思いやりの心の向上に対してどのように影響したのかは,より詳細な分析を行う必要がある。