日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

2017年10月9日(月) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PH03] 他者との関係に応じた幼児・児童の感情の表出制御

吉川詩織 (甲南大学大学院)

キーワード:感情, 制御, 幼児・児童

問題と目的
 幼児・児童の感情についてこれまで多くの研究がなされている。例えば,学齢と共にポジティブ・ネガティブ感情の表出は抑制される(佐藤,2006)。また,喜びと悲しみは共感してくれる相手に表出するのではないかと推察されており(塙,1999;小隅ら,2016),児童を対象とした研究では,親よりも友人に怒りをより強く表出することが示されている(塙,1999)。しかし,親以外の大人についてどのように感情制御するかを検討した研究は少なく,調査参加者の学齢の幅も狭い。そこで,本研究は幼児および児童が具体的な他者に対してどのような感情表出をするのかを明らかにすることを目的とする。他者との関係で表出制御されると考えられる喜び,悲しみ,怒り感情について,子どもたちにとって身近な親・先生・友人を具体的な他者とした場合に表出の仕方に違いがみられるかどうか検討する。
方   法
 調査参加者 A県内の保育所に通う園児23名と小学校に通う児童110名の計133名(男児70名,女児63名)を対象とした。
実験材料
 感情課題 大学生を対象とした予備調査で妥当性が得られた課題文を使用した。表情図は予備調査で有意差がみられた各感情3つ,計9つの表情図を用い,それぞれ一番評定点が低かったものをちょっとうれしい(悲しい,怒る),うれしい(悲しい,怒る),とてもうれしい(悲しい,怒る)と表現した。幼児には物語を口頭で教示し,とてもうれしい,とても悲しい,とても怒る,の3つの表情図の中から自身に当てはまる表情図の選択を求めた。さらに,もう一度課題文を教示し,先ほど選択した感情の表情3種類を提示し,どんな顔をするか選ぶよう求めた。小学校1~6年生の児童には質問紙で課題を実施した。一斉回答で行い,担任の先生に課題文を読んでもらい,調査参加者はどんな顔をするかあてはまる表情図を一つ選び,〇を付けるよう求めた。ちょっとうれしい(悲しい,怒る)は1点,うれしい(悲しい,怒る)は2点,とてもうれしい(悲しい,怒る)は3点として,課題ごとに表出得点を算出した。
結   果
 感情課題ごとに,どの感情を表出するのかを検討するためχ2検定を行った結果,全ての課題で有意差がみられた。喜び,悲しみ課題では,他者に拘わらず,正答感情が有意に多く選択されることが示された。怒り課題では,他者に拘わらず喜びを選ぶ人数は有意に少なかったが,先生に対して怒りと悲しみの選択人数に差がみられなかった。
 正答感情を選んだ調査参加者を対象に,感情ごとに他者×学齢の2要因分散分析を行った結果,他者・学齢の主効果と交互作用がみられた(Table 1)。多重比較を行った結果,喜び課題において,喜びは先生よりも親・友人により強く表出することが示された。学齢ごとにみると,喜びと悲しみは小学3年生以外の他の学齢と比べて,小学6年生は有意に弱く表出することが示された。怒りは年中児が小学3年生以上と比べてより強く表出すること,年長児・小学1年生,小学2年生は小学6年生より強く表出することが示された。
 正答感情を選んだ調査参加者を対象に月齢と各感情の表出得点との相関分析と月齢を統制した偏相関分析を行った。その結果,月齢と共に全体的に感情の表出が弱まることが示唆された。喜び課題は教師と友人の間で相関がみられるものの,親と教師,親と友人の間に有意な相関はみられず,他者によって表出の度合いが異なることが示唆された。悲しみ課題は他者の間で相関がみられ,他者によって表出の度合いが変わらないことが示された。怒り課題は友人と親・教師の間に相関がみられるものの,親と教師の間では有意な相関がみられず,親と教師では表出の度合いが異なることが示唆された。
考   察
 先生に対して怒りが喚起される場面で悲しみと怒りの混同がみられた。幼児・児童期に悲しみと怒り感情が混同する結果は先行研究でもみられており,他者によって混同の様子が違うことが示唆された。今後は調査人数を増やしたり,家庭環境などの変数を統制したりすることで,感情制御についてより適切に解明することができ,子どもたちの支援に繋げることができるだろう。