日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

2017年10月9日(月) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PH26] 教える立場にいる人の「ビリーフ」比較

コーチングの影響をめぐって

石田正寿 (三重県立桑名西高等学校)

キーワード:コーチング, 教師ビリーフ, 学習指導行動

問題と目的
 人はそれぞれに物事を意味づけながら認知し,行動をしている。その中でも「ビリーフ」(「学習観」「信念」「観念」「価値観」)が当人のあり方や言動を強く規定すると考えられ,これまで,教師のビリーフと教育実践との関わりについては様々に研究がなされてきた。梶田(1986)やGood and Brophy(2000)における,教師が学習者に対して無意識に身につけている信念が学習者の学びや教師の学習指導行動を規定するというものは,授業実践者にとって,たいへん意義深いものだと考える。
 小山・峯下・鈴木(2016)では,授業のベースにコーチングをおくことで「学びの質の変化」が起こると提言されている。ここでいうコーチングとは,コーチが傾聴・承認・質問を用いて,グループを含めたクライアント(コーチングを受ける人)を目標達成に向けて支援するものである。コーチングでは「答えはクライアントが持っている」と捉え,コーチはクライアントに対して支援的な関わりで居続ける。よって,コーチングを学ぶことが,教師のあり方やビリーフの変質を引き起こし,教育実践に大きく影響するのだろうと理解できる。また,「学習者中心」とするビリーフ形成に貢献することが予測できる。
 本研究では,教える立場にいる人が,ビリーフ形成において影響を受けたもの,およびその結果として身につけているビリーフについて検討した。なお,ビリーフはそもそも無意識的であることから,現時点で何かを教えているという感覚が重要と考えた。よって,この調査時において,日本の学校や塾あるいはセミナーで教える立場にある人を対象とした。
方   法
調査の実施方法:Webに設置した質問紙に調査対象者がアクセスし回答するWeb調査を行った。調査対象者には,指導教官・SNS・三重県北勢地区の校長会を通じ,調査への協力を依頼した。
調査対象者:幼・保・小・中・高・特支・高専・大学の教師・塾講師・セミナー講師,460名
調査時期:2017年1月30日~3月3日の33日間
使用した尺度:児童・生徒観および学習指導行動の尺度 崎濱・林・藤田(2016)を使用した。この尺度は,教師が持つ子ども(児童・生徒)や教授・学習過程に関する信念について「教師中心」か「児童中心」か,という次元で整理したものとなっている。他の項目としては,性別,経験年数,教えている対象,授業形態,児童・生徒(学習者)のとらえ方・信念「ビリーフ」について影響を受けているもの(カウンセリング,コーチング,経験,宗教,心理学,その他)のそれぞれに関するものを設けた。
結果と考察
 「ビリーフ」について影響を受けているものの回答数としては,「経験のみ」123,「カウンセリングを含む」121,「コーチングを含む」209,「経験を含む」378,となっていた。そこで,回答数が十分と考えられた「経験」「カウンセリング」「コーチング」について,児童・生徒(学習者)のとらえ方・「ビリーフ」への影響を考察する要因として取り上げることとした。
 崎濱・林・藤田(2016)に沿って,尺度構成を行い,信頼性係数を算出したところ,「学習指導性」(α=.768),「自律性」(α=.847),「自己統制性」(α=.762),「学習指導行動」(α=.852),の十分な結果を得た。そこで,「経験」「カウンセリング」「コーチング」の有無を独立変数,「学習指導性」「自律性」「自己統制性」「学習指導行動」を従属変数とした重回帰分析を行なったところ,Table1のような結果(標準偏回帰係数)が見出された。
 「コーチング」の有無は,いずれの従属変数においても正の標準偏回帰係数を示し,「経験」の有無は,いずれの従属変数においても負の標準偏回帰係数を示した。つまり,「経験(ほかの先生からの影響を含む)」からビリーフに影響を受けていると「教師中心」,「コーチング」からビリーフに影響を受けていると「児童・生徒中心」の児童・生徒観や教授・学習過程についてのビリーフを持ちやすいと言える。また,これらの理由としては,「コーチング」の支援的なあり方,そして「経験」の自由記述に「先輩の先生からの教え」という言葉があることから,旧来の教師ビリーフが「教師中心」であること,が考えられる。