日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

2017年10月9日(月) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PH41] 教室という弁証法(1)

学級での教師の価値づけに着目して

関原良平1, 有元典文2 (1.横浜国立大学大学院, 2.横浜国立大学)

キーワード:価値づけ, 価値共有, 学校教育

問題と目的
 教育現場では,教師による「価値づけ」が日常的に行われている。関原・有元(2016)は,「価値づけ」を「自分(達)の言動や行動に対する評価だと児童(達)に受け止められた,言葉や態度を含めた教師の児童に対するふるまい」と定義し,帰りの会の実践で「教師のふるまいによって教師の価値観が児童個人や学級に反映され,児童の発言や行動が変わる可能性」を示した。
 授業の学習場面を対象とした「価値づけ」が効果的だと示した先行研究は,解良ら(2016)や梅本(2015)などが報告されている。関原・有元(2017)は,小学校の授業内で教師の大切にしている価値が,児童に影響を及ぼし,学級内の価値として共有される可能性についても述べている。しかし,学級内で教師と児童の価値がどのように共有されるかを報告している研究は数少ない。
 ここから本研究では,関原・有元(2016)の「価値づけ」の定義を用いて,教師と児童や児童同士のやりとりが行われる学級内で価値が共有される過程について検証することを目的とした。
方   法
 2016年11~12月,関東圏内の公立小学校2年生1学級の担任教師1名(X教諭)と児童33名(男16名,女17名)を対象とした。はじめに,X教諭に指導場面や学級内で大切にしている価値,日頃の指導の様子,これまでの学級の様子について半構造化のインタビューを実施した。インタビュー内容はICレコーダーで録音をした。次に,対象学級の全10時間分(国語,算数,音楽,図工)の授業実践を1台のビデオカメラで撮影した。
 分析にあたって,録音したインタビューデータと撮影したビデオデータからトランスクリプト(逐語の書き起こし)を作成した。そこから,教師の価値を抽出し,授業内での価値づけ場面とそれに伴う変容及び価値の共有過程の分析を行った。データの取り扱いについては,管理職の指導のもと個人情報の取り扱いに留意した。
結果と考察
 X教諭へのインタビューから, 4月当初は,指導に対して,2~3名の児童からの「反発」があったことを述べていた。その後,5月の運動会を過ぎた頃から,「学級の中で児童がどのように動いたらいいかが分かってきた様子だった。」と述べていた(Figure 1)。
 X教諭の価値づけに対して,児童の「反発」があったが,その後の児童の変容からX教諭と児童間のやりとりで価値の共有と調整が行われた可能性が示された。また,全10時間分の算数の授業内で,1名の児童がX教諭から自分の意見を板書するように求められたときに書くことを渋る場面があった。そのときに,周囲の児童から「書いて!」という声があり,その児童は立ち上がって板書を行った。この場面から,教室の価値は教師のみで創っているのではなく,児童も含めた学級全体で価値を創り出し,維持されているものが教室の価値である可能性が見いだされた。