[JA03] スクールカウンセリングで生かせる3Cとは?
-よりよい方法・技法のあり方を模索する-
キーワード:カウンセリング、コンサルテーション、コラボレーション
企画趣旨
例えば東京都では,スクールカウンセラーに求める職務として,(1)児童及び生徒へのカウンセリング,(2)カウンセリング等に関する教職員及び保護者に対する助言及び援助,(3)児童及び生徒のカウンセリング等に関する情報収集,(4)児童及び生徒のカウンセリング等に関し,配置校の校長及び配置校を所管する教育委員会が必要と認める事項をあげている。
スクールカウンセラーたちは,自身の経験と知識を総動員させて職務に携わっている。彼らのほとんどが多忙を極め,何を持って自身の活動が「スクールカウンセリングである」のかを定義したり振り返って構築することは大変困難であると推測される。特に,カウンセリング(Counseling)・コンサルテーション(Consultation)・コラボレーション(Collaboration)の3Cは,スクールカウンセリングでは重要なキーワードであるが,質的・量的にその概念が未だ整理・概念化されてはおらず,スクールカウンセラー個人の技量や力量に左右されてしまうと考えられている。この3Cの定義や技法が明確化され,学校現場において包括的かつ有機的に生かされることが緊要の課題である。
そこで,本シンポジウムでは,学校臨床において実践と研究の双方向からアプローチしている若手専門家たちに話題を提供してもらい,教育心理学や学校心理学といった学問にて紐付けされている教育相談領域で取り上げられる3Cのよりよい方法・技法を模索し,その展望について議論していく。
なお,本シンポジウムは,特に若手のスクールカウンセラーや,スクールカウンセラーを志望する大学院生等の積極的な参加を期待する。
話題提供1
SCがとらえる保護者と教師間の協働
平田祐太朗
学校教育相談において,SCはその職務として,児童生徒のみならずその周囲の教職員や保護者に対する助言及び援助が求められている。これは,子どもへの理解を軸として,コンサルテーションや保護者面接を行い,多面的かつ統合的に個々の事例へ関わることが学校教育相談においては特に重要であり,また実際にこのような形でSC活動が展開されていることを示していると考えられる。
これまでの学校心理学や教育心理学,臨床心理学におけるSC活動に関する研究では,援助チーム(石隈,1999),ネットワーキングの見立て・心理アセスメント(心理診断)とネットワーキングによる援助のための働きかけ(田嶌,2009),つなぎ役(湊,2000),橋渡し機能(福丸,2005)など用語は異なるものの,家庭と学校が協働して子どもを支える有用性,そしてそれを支えるSCの働きかけの支援上の意味について,数多く報告されてきている。
しかし,このような教職員及び保護者に対する助言や援助のあり方についての検討は, SC活動の常勤化や配置形態の変化,またチーム学校等の考え方を含む教育現場の変化など時代の流れと共に,そのあり方は変わっていくことが推察され,今後もさらなる検討が必要といえるだろう。
以上の背景を踏まえ,今回は,SCが保護者と担任教師の協働を捉える際の視点について紹介を行いたい。具体的には,SCが,発達障害児童生徒の保護者と担任教師をめぐる協働を捉え,または支える際の視点に関する研究について紹介することを通して,「協働」について考察する一助となればと考えている。また併せてSC自身が,教師や保護者とよりよい協働を行っていくための方法について,これまでの知見も踏まえて紹介を行いたい。
話題提供2
担任教師はスクールカウンセラーの活動をどう役立てているか
山本 渉
現行のスクールカウンセラー(以下,SCと略記)事業においては,SCのより良い活動とは何かについて,利用者の立場から詳細に包括的に検討すること,そして,それをSC自身が把握し,相談活動の中で効果的・戦略的に用いていくことが今後の課題となっていると考える。特にわが国においては,SCとともに働く教育の専門家であるとともに,サポートを受ける重要な利用者の一人として担任教師がおり,SCの活動のあり方を彼らにとっていかに使いやすくサポーティブなものにしていくかということが極めて重要な課題であると言える。
これまでの質問紙調査の知見(例えば,伊藤,2000;伊藤・生島,2003)からは,SCのもつ教師とは異なる専門的な視点が教師に安心感をもたらし,そこに教師が満足感を感じる傾向があることが示唆されている。しかし,質問紙調査である分,どのような状況や支援のプロセスを経てSCの活動が担任教師の役に立ったか窺い知ることができないという限界がある。担任教師の主観的意味付けを知るためには質的な研究法の適用が望ましいが,これまでのインタビュー調査(例えば,青木,2003)や担任教師自身の手による事例研究(例えば,本間・羽間,2004)にも,そもそも研究の数自体が少ないことに加え,一事例または少数事例を検討したものであるため,統合的なモデル提示に至っていないという限界がある。
今後,SCのより良いあり方を模索していくためには,担任教師がSCにどんな期待をして協働に臨んでいるかということや,彼らがそこで何を得ているかということについて,複数の担任教師に共通する体験を質的に明らかにしていく必要があるだろう。
そこで,本話題提供では,筆者がこれまでに実施してきた担任教師へのインタビュー調査から,彼らがSCの活動をどのように役立て,何を得ているかについての知見をご紹介できればと思う。
話題提供3
予防的援助を促進するための3C
佐藤修哉
本シンポジウムでは「学校臨床における予防的援助」という観点から3Cを考えたい。カウンセリングにつながってほしい生徒がいるにもかかわらず,なかなかつながらないというジレンマを感じることは多いのではないだろうか。そこにはさまざまな要因があると考えられる。例えば,周囲にどう思われるか心配だという考えや,相談することは自分が弱い人間だということを認めることになってしまうのではないかなどのスティグマの問題や,そもそも心の健康に関する知識や考え方に触れる機会がなかったというリテラシーの問題もある。他にも,どこに行けば相談できるのか分からない,誰に相談すればいいのか分からないなどのアクセシビリティの問題もあるだろう。
発表者はこれまで,援助要請(被援助志向性)を促進し,問題が重症化する前に早期発見・早期対応を可能にするための実践と研究を行ってきた。具体的にはメンタルヘルスリテラシーの向上を目指す取り組みを行ってきた。
発表では,メンタルヘルスリテラシーと援助要請の関連,さらに,近年発表者が関心を寄せているコンパッションと援助要請についても取り上げたい。
話題提供4
援助要請の心理に配慮したスクールカウンセリング
本田真大
援助要請(help-seeking)とは援助を求めたり相談したりする際の心理のことである。援助要請研究では相談の困難さを過少性(相談しない,できない,ためらう),過剰性(相談しすぎる),非機能性(相談がうまくない)という3点からとらえ,研究と実践が行われている。特に過少性は自殺総合対策大綱の「SOSの出し方に関する教育」(厚生労働省,2017)とも関連するなど,学校において重要な課題と言えよう。
スクールカウンセリングにおいて援助要請の概念が有用な状況として,悩みを抱える対象者(子ども,保護者,教師)が自ら援助(カウンセリング,コンサルテーション)を求めないときや,スクールカウンセラーや外部専門機関との連携に消極的であるときが挙げられる。これらの状況を「関係者間のどこかに援助要請の困難さ(特に過少性)がある状況」と捉えることで援助要請の研究知見を活かした実践の余地が生まれる。
本田・水野(2017)はこれまでの援助要請に関する集団対象の介入研究や個別事例における実践を「援助要請に焦点を当てたカウンセリング」として整理している。本話題提供ではスクールカウンセリングを取り巻く問題状況を援助要請の点から検討した実態調査や研究を紹介した上で,「援助要請に焦点を当てたカウンセリング」の実践例として,援助要請の心理状態のアセスメント(本田,2015)に基づいた具体的な支援方法を紹介する。さらに,援助要請研究の最近の話題である過剰性も取り上げる。
引用文献
本田真大 (2015). 援助要請のカウンセリング―「助けて」と言えない子どもと親の理解と援助 金子書房
本田真大・水野治久 (2017). 援助要請に焦点を当てたカウンセリングに関する理論的検討 カウンセリング研究, 50, 23-31.
厚生労働省 (2017). 自殺総合対策大綱―誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指してRetrieved from http://www.mhlw.go.jp/file/ 06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000172329.pdf (2017年9月7日)
付 記
本話題提供は基盤研究(C)(JSPS16K04336)の助成を得て行われた。
例えば東京都では,スクールカウンセラーに求める職務として,(1)児童及び生徒へのカウンセリング,(2)カウンセリング等に関する教職員及び保護者に対する助言及び援助,(3)児童及び生徒のカウンセリング等に関する情報収集,(4)児童及び生徒のカウンセリング等に関し,配置校の校長及び配置校を所管する教育委員会が必要と認める事項をあげている。
スクールカウンセラーたちは,自身の経験と知識を総動員させて職務に携わっている。彼らのほとんどが多忙を極め,何を持って自身の活動が「スクールカウンセリングである」のかを定義したり振り返って構築することは大変困難であると推測される。特に,カウンセリング(Counseling)・コンサルテーション(Consultation)・コラボレーション(Collaboration)の3Cは,スクールカウンセリングでは重要なキーワードであるが,質的・量的にその概念が未だ整理・概念化されてはおらず,スクールカウンセラー個人の技量や力量に左右されてしまうと考えられている。この3Cの定義や技法が明確化され,学校現場において包括的かつ有機的に生かされることが緊要の課題である。
そこで,本シンポジウムでは,学校臨床において実践と研究の双方向からアプローチしている若手専門家たちに話題を提供してもらい,教育心理学や学校心理学といった学問にて紐付けされている教育相談領域で取り上げられる3Cのよりよい方法・技法を模索し,その展望について議論していく。
なお,本シンポジウムは,特に若手のスクールカウンセラーや,スクールカウンセラーを志望する大学院生等の積極的な参加を期待する。
話題提供1
SCがとらえる保護者と教師間の協働
平田祐太朗
学校教育相談において,SCはその職務として,児童生徒のみならずその周囲の教職員や保護者に対する助言及び援助が求められている。これは,子どもへの理解を軸として,コンサルテーションや保護者面接を行い,多面的かつ統合的に個々の事例へ関わることが学校教育相談においては特に重要であり,また実際にこのような形でSC活動が展開されていることを示していると考えられる。
これまでの学校心理学や教育心理学,臨床心理学におけるSC活動に関する研究では,援助チーム(石隈,1999),ネットワーキングの見立て・心理アセスメント(心理診断)とネットワーキングによる援助のための働きかけ(田嶌,2009),つなぎ役(湊,2000),橋渡し機能(福丸,2005)など用語は異なるものの,家庭と学校が協働して子どもを支える有用性,そしてそれを支えるSCの働きかけの支援上の意味について,数多く報告されてきている。
しかし,このような教職員及び保護者に対する助言や援助のあり方についての検討は, SC活動の常勤化や配置形態の変化,またチーム学校等の考え方を含む教育現場の変化など時代の流れと共に,そのあり方は変わっていくことが推察され,今後もさらなる検討が必要といえるだろう。
以上の背景を踏まえ,今回は,SCが保護者と担任教師の協働を捉える際の視点について紹介を行いたい。具体的には,SCが,発達障害児童生徒の保護者と担任教師をめぐる協働を捉え,または支える際の視点に関する研究について紹介することを通して,「協働」について考察する一助となればと考えている。また併せてSC自身が,教師や保護者とよりよい協働を行っていくための方法について,これまでの知見も踏まえて紹介を行いたい。
話題提供2
担任教師はスクールカウンセラーの活動をどう役立てているか
山本 渉
現行のスクールカウンセラー(以下,SCと略記)事業においては,SCのより良い活動とは何かについて,利用者の立場から詳細に包括的に検討すること,そして,それをSC自身が把握し,相談活動の中で効果的・戦略的に用いていくことが今後の課題となっていると考える。特にわが国においては,SCとともに働く教育の専門家であるとともに,サポートを受ける重要な利用者の一人として担任教師がおり,SCの活動のあり方を彼らにとっていかに使いやすくサポーティブなものにしていくかということが極めて重要な課題であると言える。
これまでの質問紙調査の知見(例えば,伊藤,2000;伊藤・生島,2003)からは,SCのもつ教師とは異なる専門的な視点が教師に安心感をもたらし,そこに教師が満足感を感じる傾向があることが示唆されている。しかし,質問紙調査である分,どのような状況や支援のプロセスを経てSCの活動が担任教師の役に立ったか窺い知ることができないという限界がある。担任教師の主観的意味付けを知るためには質的な研究法の適用が望ましいが,これまでのインタビュー調査(例えば,青木,2003)や担任教師自身の手による事例研究(例えば,本間・羽間,2004)にも,そもそも研究の数自体が少ないことに加え,一事例または少数事例を検討したものであるため,統合的なモデル提示に至っていないという限界がある。
今後,SCのより良いあり方を模索していくためには,担任教師がSCにどんな期待をして協働に臨んでいるかということや,彼らがそこで何を得ているかということについて,複数の担任教師に共通する体験を質的に明らかにしていく必要があるだろう。
そこで,本話題提供では,筆者がこれまでに実施してきた担任教師へのインタビュー調査から,彼らがSCの活動をどのように役立て,何を得ているかについての知見をご紹介できればと思う。
話題提供3
予防的援助を促進するための3C
佐藤修哉
本シンポジウムでは「学校臨床における予防的援助」という観点から3Cを考えたい。カウンセリングにつながってほしい生徒がいるにもかかわらず,なかなかつながらないというジレンマを感じることは多いのではないだろうか。そこにはさまざまな要因があると考えられる。例えば,周囲にどう思われるか心配だという考えや,相談することは自分が弱い人間だということを認めることになってしまうのではないかなどのスティグマの問題や,そもそも心の健康に関する知識や考え方に触れる機会がなかったというリテラシーの問題もある。他にも,どこに行けば相談できるのか分からない,誰に相談すればいいのか分からないなどのアクセシビリティの問題もあるだろう。
発表者はこれまで,援助要請(被援助志向性)を促進し,問題が重症化する前に早期発見・早期対応を可能にするための実践と研究を行ってきた。具体的にはメンタルヘルスリテラシーの向上を目指す取り組みを行ってきた。
発表では,メンタルヘルスリテラシーと援助要請の関連,さらに,近年発表者が関心を寄せているコンパッションと援助要請についても取り上げたい。
話題提供4
援助要請の心理に配慮したスクールカウンセリング
本田真大
援助要請(help-seeking)とは援助を求めたり相談したりする際の心理のことである。援助要請研究では相談の困難さを過少性(相談しない,できない,ためらう),過剰性(相談しすぎる),非機能性(相談がうまくない)という3点からとらえ,研究と実践が行われている。特に過少性は自殺総合対策大綱の「SOSの出し方に関する教育」(厚生労働省,2017)とも関連するなど,学校において重要な課題と言えよう。
スクールカウンセリングにおいて援助要請の概念が有用な状況として,悩みを抱える対象者(子ども,保護者,教師)が自ら援助(カウンセリング,コンサルテーション)を求めないときや,スクールカウンセラーや外部専門機関との連携に消極的であるときが挙げられる。これらの状況を「関係者間のどこかに援助要請の困難さ(特に過少性)がある状況」と捉えることで援助要請の研究知見を活かした実践の余地が生まれる。
本田・水野(2017)はこれまでの援助要請に関する集団対象の介入研究や個別事例における実践を「援助要請に焦点を当てたカウンセリング」として整理している。本話題提供ではスクールカウンセリングを取り巻く問題状況を援助要請の点から検討した実態調査や研究を紹介した上で,「援助要請に焦点を当てたカウンセリング」の実践例として,援助要請の心理状態のアセスメント(本田,2015)に基づいた具体的な支援方法を紹介する。さらに,援助要請研究の最近の話題である過剰性も取り上げる。
引用文献
本田真大 (2015). 援助要請のカウンセリング―「助けて」と言えない子どもと親の理解と援助 金子書房
本田真大・水野治久 (2017). 援助要請に焦点を当てたカウンセリングに関する理論的検討 カウンセリング研究, 50, 23-31.
厚生労働省 (2017). 自殺総合対策大綱―誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指してRetrieved from http://www.mhlw.go.jp/file/ 06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000172329.pdf (2017年9月7日)
付 記
本話題提供は基盤研究(C)(JSPS16K04336)の助成を得て行われた。