[JA04] 学校におけるいじめ予防の取り組み
児童生徒,教師・スクールカウンセラー,保護者に焦点を当てて
キーワード:いじめ予防、援助者、学校心理学
企画の主旨
学校現場におけるいじめの問題は,依然として深刻な状況にある。学校により認知されたいじめは,平成29年度で414,378件となり,ここ数年で急増している(文部科学省初等中等教育局児童生徒課, 2018)。また,校種別に見ると,小学校で急増しており,中学校ではゆるやかな増加を示している。学校でのいじめ認知件数の増加については,教師がこれまで以上にいじめの早期発見に力を入れ積極的に対応しているために,認知件数があがるということも言われており,いじめの認知件数の増加が必ずしもいじめをとりまく状況が悪化しているとは言えないが,少なくともいじめの問題が減少している兆しは見られず,依然として深刻な状況が続いている。
このような背景から,平成25年,いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進することを目的として,いじめ防止対策推進法が施行された(文部科学省, 2013)。いじめ防止対策推進法が施行されたことにより,「学校におけるいじめの防止」「いじめの早期発見のための措置」「関係機関等との連携等」「いじめの防止等のための対策に従事する人材の確保及び資質の向上」「インターネットを通じて行われるいじめに対する対策の推進」「いじめの防止等のための対策の調査研究の推進等」「啓発活動」という基本的施策が打ち出され,予防や啓発活動に力をいれることが強調されている。発表者らは,いじめに関して,予防や啓発活動に焦点を当てた研究や実践を行っている。今回のシンポジウムでは,これまでのそうした研究や実践を紹介する。まず,児童生徒を対象とした傍観者に焦点を当てたメディア教材を活用した予防プログラムを紹介する(青山)。次に,いじめに最前線で対応する教師と学校のいじめに対して専門的な立場から関わることが求められているスクールカウンセラー(以下,SC)のいじめ対応効力感に関する研究を紹介する(飯田)。最後に,いじめ防止対策推進法において,一定の役割が言及されている保護者に対するいじめの心理教育という視点から,保護者を対象とした調査結果を紹介する(杉本)。これらの話題提供を踏まえ,学級風土やいじめに関する研究や実践を行っている伊藤亜矢子先生より指定討論をしていただく。フロアーも交えて,今後のいじめ対策に関するポイントや留意点について考えていきたい。
話題提供
脱・傍観者の視点を取り入れたいじめ防止授業プログラムの効果検証
青山郁子
これまでに実践されているいじめ予防プログラムにはSSTの要素を組み込んだプログラムの実践(渡辺他, 2009; 飯田2008など)や、傍観者のいじめ介入スキルにフォーカスしたプログラム(中村・越川, 2014)などが報告されている。一方,児童生徒の学校生活では深刻な問題には発展しないまでも「いじめの芽」となりうる様々なトラブルを日常的に経験していることが明らかにされている(青山他, 2017)。 そこで本研究では,「いじめの芽」の段階において脱・傍観者の視点を取り入れたいじめ防止授業プログラムの効果を学級風土の視点から明らかにすることを目的とした(実践対象は, 関東圏内の3市中学校43校の中学1年生, 6,462名)。学級風土尺度の8つの下位尺度毎の得点からクラスタ分析を行い, プログラム実施前後の傍観者の行動選択の差をクラスタ間で比較した。本プログラムは,「クラスの雰囲気がいじめ発生に関係する」という調査結果に基づいて開発されたが, プログラム実施の前後で良好な結果が得られたのはもともとの学級内での人間関係がよい学級群と統制感の高い学級群であったため,効果は限定的であった。1回50分のプログラム実施だけで全ての生徒の行動や意識の変化をもたらすことは実質的に困難であるため,課題が残った。
教師・スクールカウンセラーのいじめ対応効力感といじめ対応の現状に関する研究
飯田順子
いじめ対応効力感とは,いじめに対応する自信であり,人が持っている知識やスキルと実際の行動を媒介するものとされており(Bandura,1996),いじめに積極的に関与していくために欠かせないものとされている。海外の先行研究(Nicholaides et al., 2002; Sela-Shayonvits, 2009)を参考に,筆者らは教員315名,スクールカウンセラー(SC)131名を対象に質問紙調査を実施し,教員とSCのいじめ対応効力感を測定している。t検定を用いて両者の得点を比較した結果,「傍観者の児童生徒に自らの責任について話をする」など傍観者に働きかけるもの,「加害児童にいじめをやめさせる」「LINEなどのソーシャルメディア上で起こっているいじめに対応する」などのいじめ対応については,教員の自信の方が高かった。一方,「被害児童生徒をサポートする」「被害児童生徒の保護者と一緒に取り組むことができる」「加害児童生徒を責めることなく彼らと話をする」といった個を対象としたサポートに関する項目はSCの自信の方が高かった。また,教員を対象とした自由記述の結果からは,いじめ対応に関する知識や技術を学ぶ機会が少ないことが示された。SCを対象とした自由記述の結果からは,SCの経験年数によっていじめ対応に関わる頻度が異なること,SCとして教員をサポートすること,保護者と協働することに留意して関わっていることが示された。これらの結果を踏まえ,教員のいじめ対応効力感を高める研修についての提案や,いじめにおける教師とSCの連携の在り方について検討する。
いじめ予防における保護者の役割―保護者への心理教育の可能性
杉本希映
2013年にいじめ防止対策推進法が公布された。その中では,保護者の責務も明記され,いじめを行うことのないよう,規範意識を養うための指導その他の必要な指導を行うこと,いじめを受けた場合には,適切に保護すること,学校が講ずるいじめの防止等のための措置に協力することが定められた。しかし,これらの責務を守るために実際にどのようにすればよいのかを理解している保護者はどの程度いるのだろうか。保護者の協力が重要ということは理解していても,どのようなメッセージを発信してよいのか具体的な方法論を持っている学校はどの程度あるのだろうか。
そこで本発表では,保護者及び教師・スクールカウンセラーを対象とした2つの調査の結果を提示する。1つの調査は,いじめ予防における前提として保護者と教師の信頼関係に着目し,保護者による教師の信頼性認知尺度を開発し,保護者が教師に援助を求めることとの関連を検討した。もう1つの調査は,いじめ予防・対応において教師とスクールカウンセラーが保護者に知っておいてほしいこと,保護者が保護者として知っておきたいことについて自由記述で収集したデータを分析した。これらを基に,いじめ予防における保護者への心理教育の可能性について考察したい。
学校現場におけるいじめの問題は,依然として深刻な状況にある。学校により認知されたいじめは,平成29年度で414,378件となり,ここ数年で急増している(文部科学省初等中等教育局児童生徒課, 2018)。また,校種別に見ると,小学校で急増しており,中学校ではゆるやかな増加を示している。学校でのいじめ認知件数の増加については,教師がこれまで以上にいじめの早期発見に力を入れ積極的に対応しているために,認知件数があがるということも言われており,いじめの認知件数の増加が必ずしもいじめをとりまく状況が悪化しているとは言えないが,少なくともいじめの問題が減少している兆しは見られず,依然として深刻な状況が続いている。
このような背景から,平成25年,いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進することを目的として,いじめ防止対策推進法が施行された(文部科学省, 2013)。いじめ防止対策推進法が施行されたことにより,「学校におけるいじめの防止」「いじめの早期発見のための措置」「関係機関等との連携等」「いじめの防止等のための対策に従事する人材の確保及び資質の向上」「インターネットを通じて行われるいじめに対する対策の推進」「いじめの防止等のための対策の調査研究の推進等」「啓発活動」という基本的施策が打ち出され,予防や啓発活動に力をいれることが強調されている。発表者らは,いじめに関して,予防や啓発活動に焦点を当てた研究や実践を行っている。今回のシンポジウムでは,これまでのそうした研究や実践を紹介する。まず,児童生徒を対象とした傍観者に焦点を当てたメディア教材を活用した予防プログラムを紹介する(青山)。次に,いじめに最前線で対応する教師と学校のいじめに対して専門的な立場から関わることが求められているスクールカウンセラー(以下,SC)のいじめ対応効力感に関する研究を紹介する(飯田)。最後に,いじめ防止対策推進法において,一定の役割が言及されている保護者に対するいじめの心理教育という視点から,保護者を対象とした調査結果を紹介する(杉本)。これらの話題提供を踏まえ,学級風土やいじめに関する研究や実践を行っている伊藤亜矢子先生より指定討論をしていただく。フロアーも交えて,今後のいじめ対策に関するポイントや留意点について考えていきたい。
話題提供
脱・傍観者の視点を取り入れたいじめ防止授業プログラムの効果検証
青山郁子
これまでに実践されているいじめ予防プログラムにはSSTの要素を組み込んだプログラムの実践(渡辺他, 2009; 飯田2008など)や、傍観者のいじめ介入スキルにフォーカスしたプログラム(中村・越川, 2014)などが報告されている。一方,児童生徒の学校生活では深刻な問題には発展しないまでも「いじめの芽」となりうる様々なトラブルを日常的に経験していることが明らかにされている(青山他, 2017)。 そこで本研究では,「いじめの芽」の段階において脱・傍観者の視点を取り入れたいじめ防止授業プログラムの効果を学級風土の視点から明らかにすることを目的とした(実践対象は, 関東圏内の3市中学校43校の中学1年生, 6,462名)。学級風土尺度の8つの下位尺度毎の得点からクラスタ分析を行い, プログラム実施前後の傍観者の行動選択の差をクラスタ間で比較した。本プログラムは,「クラスの雰囲気がいじめ発生に関係する」という調査結果に基づいて開発されたが, プログラム実施の前後で良好な結果が得られたのはもともとの学級内での人間関係がよい学級群と統制感の高い学級群であったため,効果は限定的であった。1回50分のプログラム実施だけで全ての生徒の行動や意識の変化をもたらすことは実質的に困難であるため,課題が残った。
教師・スクールカウンセラーのいじめ対応効力感といじめ対応の現状に関する研究
飯田順子
いじめ対応効力感とは,いじめに対応する自信であり,人が持っている知識やスキルと実際の行動を媒介するものとされており(Bandura,1996),いじめに積極的に関与していくために欠かせないものとされている。海外の先行研究(Nicholaides et al., 2002; Sela-Shayonvits, 2009)を参考に,筆者らは教員315名,スクールカウンセラー(SC)131名を対象に質問紙調査を実施し,教員とSCのいじめ対応効力感を測定している。t検定を用いて両者の得点を比較した結果,「傍観者の児童生徒に自らの責任について話をする」など傍観者に働きかけるもの,「加害児童にいじめをやめさせる」「LINEなどのソーシャルメディア上で起こっているいじめに対応する」などのいじめ対応については,教員の自信の方が高かった。一方,「被害児童生徒をサポートする」「被害児童生徒の保護者と一緒に取り組むことができる」「加害児童生徒を責めることなく彼らと話をする」といった個を対象としたサポートに関する項目はSCの自信の方が高かった。また,教員を対象とした自由記述の結果からは,いじめ対応に関する知識や技術を学ぶ機会が少ないことが示された。SCを対象とした自由記述の結果からは,SCの経験年数によっていじめ対応に関わる頻度が異なること,SCとして教員をサポートすること,保護者と協働することに留意して関わっていることが示された。これらの結果を踏まえ,教員のいじめ対応効力感を高める研修についての提案や,いじめにおける教師とSCの連携の在り方について検討する。
いじめ予防における保護者の役割―保護者への心理教育の可能性
杉本希映
2013年にいじめ防止対策推進法が公布された。その中では,保護者の責務も明記され,いじめを行うことのないよう,規範意識を養うための指導その他の必要な指導を行うこと,いじめを受けた場合には,適切に保護すること,学校が講ずるいじめの防止等のための措置に協力することが定められた。しかし,これらの責務を守るために実際にどのようにすればよいのかを理解している保護者はどの程度いるのだろうか。保護者の協力が重要ということは理解していても,どのようなメッセージを発信してよいのか具体的な方法論を持っている学校はどの程度あるのだろうか。
そこで本発表では,保護者及び教師・スクールカウンセラーを対象とした2つの調査の結果を提示する。1つの調査は,いじめ予防における前提として保護者と教師の信頼関係に着目し,保護者による教師の信頼性認知尺度を開発し,保護者が教師に援助を求めることとの関連を検討した。もう1つの調査は,いじめ予防・対応において教師とスクールカウンセラーが保護者に知っておいてほしいこと,保護者が保護者として知っておきたいことについて自由記述で収集したデータを分析した。これらを基に,いじめ予防における保護者への心理教育の可能性について考察したい。