[JB04] 不器用な子どものための心理教育的支援の可能性
学校におけるSSTと動作ピラミッド法の協働を目指して
キーワード:不器用さ、作業療法、SST
企画趣旨
発達性協調運動症(Developmental coordination disorder:以下DCD)とは,協調的運動がぎこちない,あるいは全身運動(粗大運動)や微細運動(手先の操作)がとても不器用な障害を言う。DCDのある子どもは器用さが要求される学校での諸活動で困難を覚える。DSM-5によるDCDの定義を以下に示す。
【発達性強調運動症/発達性強調運動障害】
A.協調運動技能の獲得や遂行が,その人の生活年齢や技能の学習及び使用の機会に応じて期待されるよりも明らかに劣っている,その困難さは,不器用(例,物を落とす,またはぶつかる),運動技能(例,物を掴む,はさみや刃物をつかう,書字,自転車に乗る,スポーツに参加する)の遂行における遅さと不正確さによって明らかになる。
B.診断基準Aにおける運動技能の欠如は,生活年齢にふさわしい日常生活活動(例,自己管理,自己保全)を著明及び持続的に妨げており,学業または学校での生産性,就労前及び就労後の活動,余暇,および遊びに影響を与えている。
C.この症状の始まりは発達障害早期である。
D.この運動技能の欠如は,知的能力障害(知的発達症)や視力障害によってうまく説明されず,運動に影響を与える神経疾患(例,脳性麻痺,筋ジストロフィー,変性疾患)によるものではない。
(DSM-5から引用)
5歳から11歳の子どものDCDの有病率は5%~6%であり,ADHDとほぼ同じ割合である。50~70%の子どもが青年期まで協調運動の不全感を持ち越す。ADHDと合併率は約50%にのぼる。「ナイフやフォークを握る」「服のボタンをかける」「球技を行う」「「書字をする」「運転をする」「道具を使う」などが極端に苦手であり,そのために自尊心を低下させていることも少なくない。このような運動不全はDCDのグレーゾーンの子どもにもみられる。そのため,二次障害として自尊心の低下も報告されている(斎藤,2019)。学校現場では教員の多くは様々なレベルの不器用さに遭遇するが,口頭の指導以外の対応は乏しい(斎藤,2019)。
DCDの決定的な対応法は検証段階だが,全く改善しない領域ではなく,個人差こそあれ,継続的支援により改善もみられる。本シンポジウムでは学校における不器用さへの対応として,心理学からは「身体性を重視したSST」(斎藤・吉田)を,作業療法からは「動作ピラミッド法」(笹田)を紹介し,不器用ゆえに自尊心を低下させている児童への具体的な支援方法を紹介し,指定討論者と検討したい。
話題提供①
身体性を重視したSSTによる姿勢のコントロールとボディイメージの変容
斎藤富由起・吉田梨乃
練馬区立学校教育支援センターの協力を得て,通常学級へのSSTを行う過程で「落ち着きのない不器用な子どもへの対応」が教育現場の課題の一つであることが理解された。その後,複数の検証を経て「身体性を重視したSST」を試み,姿勢制御や不器用ゆえの課題の解消を実践してきた。その結果,立ち歩きの減少や自尊心低下の予防が報告されている。
身体性の定義は「身体と環境と相互作用による新たな認識の生成」であり,動く存在としての環境との相互作用がその生成の始まりである.認識と関係性の発達の基礎には身体性があることを前提に,身体と環境との新たな認識 の生成を重視したSSTをESSTと呼ぶ(Embodied Social Skills Training: Embody based Social Skills Training; 身体性を重視したSSTまたは身体性に基づく SST).認知を重視したSSTもあれば,関係性を重視したSSTもある.しかしESSTでは、環境の中でどのような身体性でいられるかを重視し,身体性の気づきを受け取りながら,認識,行動,動作のフィードバックに反映させる構造をもつ.ESSTが特別支援や教育場面で使用される時は「参加→ルール理解→リラクセーション→振る舞いの学習」という構造をとる.
基本的にアクティビティは45分から50分の間に2回とり,ターゲットスキルはコミュニケーションスキル,感情コントロールスキル,リラクセーションスキル,発達支援スキルが代表的なものである.なお、ここで述べるリラクセーションはESSTのコアスキルであり,従来の脱力した状態のリラクセーションを含みながらも,その概念を拡大し,主動性と適応的な機能性を重視した内容となっている.ESSTのプラクティショナーはトレーナーではなく,ファシリテーターである.その意味でESSTはファシリテート論とワークショップ論を含んで成り立つ.
身体性を重視するアクティビティは動きの変化という即効性のある驚きを含んでおり,そこから主体的に授業に関与するように構成されている.その意味で,ESSTはアクティブラーニングとしての要素もある.
ESSTはワークショップの理論と実践性を含んで成り立つ総合的なスキル体系である.それは身体性を重視したスキル学習により発達上の課題や社会適 応に困難を感じるクライエントを支援する応用科学である.またESSTは学びの共同体としての居場所への参加を促す教育実践でもある本シンポジウムでは姿勢制御とボディイメージの変化,柔軟性への認知変容などのプログラムを紹介する。
話題提供②
動作ピラミッド法による書字動作,体育(なわとび)への指導の実際
笹田 哲
学習は知的な活動だが,頭の中だけで行うわけではなく,座って,手を使いながら行うことが多い。小学校の授業では,椅子に座り,鉛筆などの学用品を操作して行う。つまり身体も上手に使わなければならない。学習場面での体の動きをピラミッドで図式化してみると理解しやすい。学習動作が上手にできるためのメカニズムと,なぜそのような機能が必要なのかを,ピラミッド・ツールで説明する。
ピラミッド・ツールは4段階から構成される。第1段階は姿勢,バランスの土台の機能をさす。第2段階は,握り,つまみ,両手の操作の指先に焦点をあてている。第3段階は,おとなを見る,あるいは手元,学用品などを見る動きが含まれる。第4段階は,例えば,おとなの話に注意をむける,説明を聞いて,やり方を考える,さらに,やる気,意欲などが含まれる。これらの活動は小学校の学習の中心的な内容だが,学習場面に関わっていると,意欲,注意力などの第4段階につい目がいきがちになる。
しかし,この第4段階の能力が十分発揮されるためには,第3段階の見る力や第2段階の指先の操作力が必要であり,さらに座位姿勢の第1段階が十分備わって,はじめて学習が向上する。第4段階だけにとらわれず,第1段階から第3段階までも網羅的に捉えていく。
学習では鉛筆や消しゴムをよく使用するが鉛筆の持ち方によって,筆圧が濃くなったり,薄くなったりする。どの持ち方の特徴について考えるとともに,どういう指導を行ったらよいのか解説したい。また体育のなわとび運動を取り上げ,どういうステップで高めていけばよいのか,具体的な指導プロラムの例を紹介する。
指定討論
守谷賢二・飯島博之
本シンポジウムではスクールカウンセリングや教育相談の立場から守谷賢二が,また病院臨床の立場から飯島博之が指定討論を行う。守谷はESSTのデータと学校での実践可能性,学校のニーズと保護者のニーズ,教員のDCD理解を中心に質問を行う。また飯島は、病院や療育施設でのDCDの子どものかかわりと、動作ピラミッド法の効果と実践の可能性,保護者支援の重要性を中心に質疑を行う。
DCDはクライエントの療育的側面も重要だが,同時に不器用さに対する環境の理解の重要である。不器用さが自尊心の低下と結びつくのは周囲が不器用さをどのように認識しているかも関係するだろう。不器用さへのアプローチであると同時に,不器用さの理解へのアプローチとして本シンポジウムを企画したい。
発達性協調運動症(Developmental coordination disorder:以下DCD)とは,協調的運動がぎこちない,あるいは全身運動(粗大運動)や微細運動(手先の操作)がとても不器用な障害を言う。DCDのある子どもは器用さが要求される学校での諸活動で困難を覚える。DSM-5によるDCDの定義を以下に示す。
【発達性強調運動症/発達性強調運動障害】
A.協調運動技能の獲得や遂行が,その人の生活年齢や技能の学習及び使用の機会に応じて期待されるよりも明らかに劣っている,その困難さは,不器用(例,物を落とす,またはぶつかる),運動技能(例,物を掴む,はさみや刃物をつかう,書字,自転車に乗る,スポーツに参加する)の遂行における遅さと不正確さによって明らかになる。
B.診断基準Aにおける運動技能の欠如は,生活年齢にふさわしい日常生活活動(例,自己管理,自己保全)を著明及び持続的に妨げており,学業または学校での生産性,就労前及び就労後の活動,余暇,および遊びに影響を与えている。
C.この症状の始まりは発達障害早期である。
D.この運動技能の欠如は,知的能力障害(知的発達症)や視力障害によってうまく説明されず,運動に影響を与える神経疾患(例,脳性麻痺,筋ジストロフィー,変性疾患)によるものではない。
(DSM-5から引用)
5歳から11歳の子どものDCDの有病率は5%~6%であり,ADHDとほぼ同じ割合である。50~70%の子どもが青年期まで協調運動の不全感を持ち越す。ADHDと合併率は約50%にのぼる。「ナイフやフォークを握る」「服のボタンをかける」「球技を行う」「「書字をする」「運転をする」「道具を使う」などが極端に苦手であり,そのために自尊心を低下させていることも少なくない。このような運動不全はDCDのグレーゾーンの子どもにもみられる。そのため,二次障害として自尊心の低下も報告されている(斎藤,2019)。学校現場では教員の多くは様々なレベルの不器用さに遭遇するが,口頭の指導以外の対応は乏しい(斎藤,2019)。
DCDの決定的な対応法は検証段階だが,全く改善しない領域ではなく,個人差こそあれ,継続的支援により改善もみられる。本シンポジウムでは学校における不器用さへの対応として,心理学からは「身体性を重視したSST」(斎藤・吉田)を,作業療法からは「動作ピラミッド法」(笹田)を紹介し,不器用ゆえに自尊心を低下させている児童への具体的な支援方法を紹介し,指定討論者と検討したい。
話題提供①
身体性を重視したSSTによる姿勢のコントロールとボディイメージの変容
斎藤富由起・吉田梨乃
練馬区立学校教育支援センターの協力を得て,通常学級へのSSTを行う過程で「落ち着きのない不器用な子どもへの対応」が教育現場の課題の一つであることが理解された。その後,複数の検証を経て「身体性を重視したSST」を試み,姿勢制御や不器用ゆえの課題の解消を実践してきた。その結果,立ち歩きの減少や自尊心低下の予防が報告されている。
身体性の定義は「身体と環境と相互作用による新たな認識の生成」であり,動く存在としての環境との相互作用がその生成の始まりである.認識と関係性の発達の基礎には身体性があることを前提に,身体と環境との新たな認識 の生成を重視したSSTをESSTと呼ぶ(Embodied Social Skills Training: Embody based Social Skills Training; 身体性を重視したSSTまたは身体性に基づく SST).認知を重視したSSTもあれば,関係性を重視したSSTもある.しかしESSTでは、環境の中でどのような身体性でいられるかを重視し,身体性の気づきを受け取りながら,認識,行動,動作のフィードバックに反映させる構造をもつ.ESSTが特別支援や教育場面で使用される時は「参加→ルール理解→リラクセーション→振る舞いの学習」という構造をとる.
基本的にアクティビティは45分から50分の間に2回とり,ターゲットスキルはコミュニケーションスキル,感情コントロールスキル,リラクセーションスキル,発達支援スキルが代表的なものである.なお、ここで述べるリラクセーションはESSTのコアスキルであり,従来の脱力した状態のリラクセーションを含みながらも,その概念を拡大し,主動性と適応的な機能性を重視した内容となっている.ESSTのプラクティショナーはトレーナーではなく,ファシリテーターである.その意味でESSTはファシリテート論とワークショップ論を含んで成り立つ.
身体性を重視するアクティビティは動きの変化という即効性のある驚きを含んでおり,そこから主体的に授業に関与するように構成されている.その意味で,ESSTはアクティブラーニングとしての要素もある.
ESSTはワークショップの理論と実践性を含んで成り立つ総合的なスキル体系である.それは身体性を重視したスキル学習により発達上の課題や社会適 応に困難を感じるクライエントを支援する応用科学である.またESSTは学びの共同体としての居場所への参加を促す教育実践でもある本シンポジウムでは姿勢制御とボディイメージの変化,柔軟性への認知変容などのプログラムを紹介する。
話題提供②
動作ピラミッド法による書字動作,体育(なわとび)への指導の実際
笹田 哲
学習は知的な活動だが,頭の中だけで行うわけではなく,座って,手を使いながら行うことが多い。小学校の授業では,椅子に座り,鉛筆などの学用品を操作して行う。つまり身体も上手に使わなければならない。学習場面での体の動きをピラミッドで図式化してみると理解しやすい。学習動作が上手にできるためのメカニズムと,なぜそのような機能が必要なのかを,ピラミッド・ツールで説明する。
ピラミッド・ツールは4段階から構成される。第1段階は姿勢,バランスの土台の機能をさす。第2段階は,握り,つまみ,両手の操作の指先に焦点をあてている。第3段階は,おとなを見る,あるいは手元,学用品などを見る動きが含まれる。第4段階は,例えば,おとなの話に注意をむける,説明を聞いて,やり方を考える,さらに,やる気,意欲などが含まれる。これらの活動は小学校の学習の中心的な内容だが,学習場面に関わっていると,意欲,注意力などの第4段階につい目がいきがちになる。
しかし,この第4段階の能力が十分発揮されるためには,第3段階の見る力や第2段階の指先の操作力が必要であり,さらに座位姿勢の第1段階が十分備わって,はじめて学習が向上する。第4段階だけにとらわれず,第1段階から第3段階までも網羅的に捉えていく。
学習では鉛筆や消しゴムをよく使用するが鉛筆の持ち方によって,筆圧が濃くなったり,薄くなったりする。どの持ち方の特徴について考えるとともに,どういう指導を行ったらよいのか解説したい。また体育のなわとび運動を取り上げ,どういうステップで高めていけばよいのか,具体的な指導プロラムの例を紹介する。
指定討論
守谷賢二・飯島博之
本シンポジウムではスクールカウンセリングや教育相談の立場から守谷賢二が,また病院臨床の立場から飯島博之が指定討論を行う。守谷はESSTのデータと学校での実践可能性,学校のニーズと保護者のニーズ,教員のDCD理解を中心に質問を行う。また飯島は、病院や療育施設でのDCDの子どものかかわりと、動作ピラミッド法の効果と実践の可能性,保護者支援の重要性を中心に質疑を行う。
DCDはクライエントの療育的側面も重要だが,同時に不器用さに対する環境の理解の重要である。不器用さが自尊心の低下と結びつくのは周囲が不器用さをどのように認識しているかも関係するだろう。不器用さへのアプローチであると同時に,不器用さの理解へのアプローチとして本シンポジウムを企画したい。