日本教育心理学会第61回総会

講演情報

自主企画シンポジウム

[JF01] JF01
学校での対人関係や組織動態をどのように捉えるか?

生態学的状況に埋め込まれた多層システムとしての観点を対話の中から探る

2019年9月15日(日) 16:00 〜 18:00 3号館 2階 (3203)

企画・司会:吉田光成(専修大学大学院)
話題提供:館野峻#(東京都公立小学校)
話題提供:菊島勝也#(日本大学)
話題提供:大山宏#(元板橋区社会教育指導員)
指定討論:下斗米淳(専修大学)
指定討論:箕口雅博#(立教大学)
指定討論:萩原建次郎#(駒澤大学)

[JF01] 学校での対人関係や組織動態をどのように捉えるか?

生態学的状況に埋め込まれた多層システムとしての観点を対話の中から探る

吉田光成1, 館野峻#2, 菊島勝也#3, 大山宏#4, 下斗米淳5, 箕口雅博#6, 萩原建次郎#7 (1.専修大学大学院, 2.東京都公立小学校, 3.日本大学, 4.元板橋区社会教育指導員, 5.専修大学, 6.立教大学, 7.駒澤大学)

キーワード:学校組織、他職種連携・協働、組織力動

企画趣旨
吉田光成
 近年の学校組織は,成員の多様化(熊丸, 2016)と他職種,他機関連携,そしてコミュニティ・スクールなど広範囲に“開かれた”学校組織が求められている。これらの関係性は類似・異質性を基底とした各成員や集団間の関係性だといえるだろう。このような学校組織内外の対人関係や組織間関係が機能的に構築されるためには,多様な各成員や組織が相互に十分な己の独自性(異質性)を発揮しながら,同時に子どもを取り巻く教育を担う人的社会的資源としてなどの高次の類似性で収斂していることが重要であると考えられる(e.g., 下斗米, 2003)。例えばスクールカウンセラー(以下,SC)がSCとして立場や専門性に基づいて子どもに向き合うからこそ,教師は教師としての立場や専門性を発揮して機能的に子どもに向き合うことができるのではなかろうか。同様に,地域の居場所が居場所として機能し子どもたちの中に根付くことで,学校も学校としてその機能を発揮できるのではないかと考えられよう。このような関係性が機能的な連携・協働といった対人,集団間関係を形成しているではなかろうか。また,この種の類似・異質性に基づく対人,集団間関係過程では,己とは異なる他者を意識することや関わることで,既存自己や組織のあり方の明確化,それとは異なる新たな自己や組織の側面の発見といった自己(組織)形成や生成が生じていることも想定できる(e.g., 下斗米, 1999;鯨岡, 1998)。これら異なるレベルの現象は,生態学的状況に埋め込まれた形で相互にシステムとして連関し合っているであろう。つまり,学校組織は,類似・異質性を基盤とした成員の自己過程,対人関係,集団力動を連続的な相互作用過程として捉える必要が推察される。
 この視点から学校組織を捉えることで,その個人・集団の力動的変化とその適応的機能を吟味することができるであろう。対人親密化過程では,当座の段階での関係性の中で要請される共通課題に取り組むためのシステム機序として,各段階での類似・異質性認知の変化が確認されている(下斗米, 1990)。つまり,類似・異質性に基づく機能を当座の段階で要請される課題性解決のために力動的に変容させることが関係性進展の機序であると推察される。これはシステム機序という観点から,集団システムにも援用可能であろう。即ち,集団の自閉的・開放的挙動の背景として,集団が内包する課題性と集団間関係の変容過程を検討することで,その挙動の適応的機能及び力動的変容の機序が明らかになると考えられよう。
 本企画の目的は,このような複数レベルのダイナミックな事象と考えられる学校組織内外の対人関係および集団間関係をどのように捉えていくのか,その実践的・理論的枠組みや勘所を多様な立場,専門性を持つ参加者との議論の中で深めることである。この目的に対し,(1)教育領域の実践経験が豊富な立場や専門性を異にする話題提供者による互いの実践や組織間の関係などについての自由なディスカッション,(2)話題提供者間のディスカッションに触発されたフロア全体でのディスカッション,の2つのディスカッションを通して迫っていく。そして実践・理論共に幅広い見識を持つ専門性が異なる指定討論者の先生方から,各ディスカッションでの理論的な補足や意味付け,論点の方向付けや明確化などのご指摘を適宜いただき,議論のさらなる深化と枠組みの精緻化を図る。
 本企画のディスカッション内では,単純な意見交換に留まらない参加者間の創発的な気付きや変化が生じる可能性が十分に期待できるであろう。これはまさに実践場面で生じている心的現象であり,そのリアルな現象の生起プロセスを目の当たりにし,体感することができるかもしれない点が本企画の重要な意義であると考える。

地域とともに学ぶ,これからの学校や教職員の在り方
館野 峻
 私はコミュニティ・スクールに勤務すると共に,教職大学院にて,地域とともに子供たちだけでなく,保護者や教職員なども含め,学校を核として成長し続ける「学びのコミュニティ」を形成していくためのプロセスデザインを研究し考えてきた(館野, 2019)。
 「ミライかいぎ」という対話の場を勤務校で2回開催し,参加者に対する質問紙調査の結果を多重コレスポンデンス分析と計量テキスト分析で解析した。研究成果として,地域と学校が協働的に問題解決をしていく環境づくりのため,立場を越えて膝を突き合わせて話し合い,ビジョンの共有を行っていくことで地域とともに教職員が「学びのコミュニティ」を形成していく可能性があることが示唆された。また,コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)が学校にもたらす影響が,学校長のマネジメントやリーダーシップに依るところが大きく,ツールとしてどのように学校運営に生かすのかという部分が大きな課題である。
 コミュニティ・スクールの制度は教育行政として必要感をもって推進されていることは確かだが,現場の教職員の中には「コミュニティ・スクールって何なの?」と疑問をもっている方も少なくない。地域コミュニティに育てられた経験の無い教職員が,数年で異動をする勤務校の地域コミュニティの一員として,エージェンシーを発揮していくことはかなり難しい。日々の教育活動で精一杯で,地域との連携・協働に対する,教職員の優先順位はこのままでは上がっていかないようにも感じている。まずは,地域学校協働活動を通して,子供たちや地域・保護者の方々,そして教職員がコミュニティ意識を高めていくプロセスをデザインしていくことが大切であると考えている。

スクールカウンセラー,巡回相談員の立場から
菊島勝也
 SCと巡回相談員について,私自身の活動を紹介する。まずSCについては,私が20代の頃に公立高校でのスクールカウンセリングを行なっていた。SCとしては珍しく週3日勤務であったので,非常に多様な生徒達と多くの教員の先生方とかかわることができた。次に30代の頃には,公立中学校でもスクールカウンセリングを週1日担当していた。中学校でも,不登校や発達障害を持つ生徒,非行の生徒等多様な生徒達とかかわっていた。特に中学校では,不登校の生徒に対して家庭訪問による相談をよく行っており,その際には多くの教員の先生方とも連携を行っていた。
 その後40〜50代にかけて,巡回相談を行なっている。巡回相談とは,教育相談担当の教員の先生,特別支援学校の教員の先生と,カウンセリングの専門職として私でチームを作り,相談希望の出された公立幼稚園,小・中学校に訪問し,授業観察を行ったり,ケース理解や今後どのように指導してゆけばよいかについて,学級担任等の先生方と検討を行ったりするものである。相談の対象となる児童生徒の問題としては,発達障害や愛着障害といった問題を持つ子どもが対象となることが多い。この他,教育領域では,教育委員会が運営する教育相談室での心理相談員や,特別支援学校での外部専門家としての活動も行なってきている。
 最近は,教育領域の心理職においてもますます他職種協働が求められている。しかし,その在り方は状況,役割,担当ケースによって変わるため,その都度オーダーメードで作る必要があり,その中で,自分自身の専門性をどう活かすのか,相手の立場をどう受け入れるのか,そこに難しさがあると思われる。

子ども・若者の日常に寄り添うユースワークの取り組み
大山 宏
 日本ではまだユースワークは確立された領域とは言い難いが,ここでは子ども・若者の日常に寄り添い,彼らが本当の意味で自由に過ごせるよう支援する取り組みをユースワークとして論じていく。また,子ども・若者が日常生活を営んでいるのは多くの場合生活圏としての地域の中であり,その意味でユースワークは地域社会における子ども・若者支援として位置づけることもできる。
 東京都板橋区では2016年秋から,教育委員会が所管する生涯学習センターの内部に中学生から39歳までの子ども・若者のためのスペースが設けられ,彼らが自由に来館し多様な活動を行うことができるようになっている。報告者はこのセンターで社会教育指導員として勤務し,子ども・若者支援を行うユースワーカーとして彼らに対応し,何をしても・しなくても良いこうした場があることによって,学校や家庭での出来事を彼らなりに相対化し,飲み込もうとしていたことを感じてきた。利用者の中には学校にうまく適応できずにいた子どももいたが,そうした子どもたちもセンターに何度も通う中で少しずつ学校や家庭での出来事を語り,ときに痛烈に批判もしながら,次第に自分なりに折り合いをつけていった。
 近年は家庭・学校に続く「第三の場所」が着目されるようになってきているが,この議論はまさに第三の場所の意義を問うものでもある。世田谷区にある同様の施設において,関わる若者自身によって「家にも学校にもないものを。」という標語が採用されたことが象徴するように,こうした場は家や学校の代替の場ではなく,子ども・若者自身にとって固有の意味を持っているはずである。また,だからこそ逆に,家や学校とどのように向き合うかが問われているのであり,必要に応じた連携や情報交換の可能性について,ぜひご検討いただきたい。

指定討論
 指定討論者は,教育社会心理学・集団力動の立場から下斗米淳教授,コミュニティ心理学の立場から箕口雅博名誉教授,社会教育学および居場所論の立場から萩原建次郎教授のお三方である。諸先生方は研究者として多様な専門性へ深い造形を持つと共に,教育・臨床実践に関する知見と経験も豊富である。諸先生方の指摘や問題提起から,コミュニティや社会・文化といった学校組織が埋め込まれている生態的状況を捉え,包括的な視点から理論化することの示唆を得られるであろう。

引用文献
鯨岡(著)(1998).両義性の発達心理学
熊丸(2016).教育学研究紀要(中国四国教育学会),62(2)
下斗米(1990).研究年報(学習院大学),37
下斗米(1999).性格心理学研究,8(1)
下斗米(2003).山岡(編著) なかよくしようぜ!!
館野(2019).平成30年度課題研究成果報告書(東京学芸大学教職大学院)