日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-63)

2019年9月14日(土) 10:00 〜 12:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PA60] 高等学校におけるソーシャルエモーショナルラーニングの教育効果

原田恵理子1, 渡辺弥生2 (1.東京情報大学, 2.法政大学)

キーワード:社会性、感情、ソーシャルエモーショナルラーニング

問題と目的
 近年,学校教育現場において社会性や感情の育成が注目されている。その背景には,「考え議論する」ことや「主体的・対話的で深い学び」が教育活動で重視されていることに加え,対人関係や意欲・関心,自尊感情,進路や将来の生き方にまで影響することがあげられる(CASEL,2013;渡辺,2019)。そのため,社会性と感情を育むことは教育の本質であるとし,すでに海外では積極的にSELが実践されている。子どもたちの学校生活,キャリア,人生において,スキルや態度,価値観を獲得するためには,モチベーションや耐性力,目的意識などの価値観に加えて,責任や誠実さのもとに互いの多様性を認め,困難な課題に取り組むコミュニケーション能力も必要となってくる。国内においてもクラスワイド・スクールワイドで実践は広まりを見せているが,援助ニーズが高い高校を対象とした実践はない。そこで,本研究では,ソーシャルスキルトレーニング(原田・渡辺,2011;渡辺・原田,2017)に感情の視点を加えたプログラムを作成し,社会性と感情,自尊感情における教育効果を検討をすることを目的とする。
方  法
実施時期:2018年11月
調査対象:公立高等学校(3部定時制)の1年生の生徒136名(男子64名,女子82名)を対象に実施した。手続き:総合的な学習の時間における道徳教育として位置づけ,感情に焦点化したソーシャルスキルトレーニングを2回実施した。実施者は,不登校回復委員会主任教員が行った。プログラムの実施にあたっては,主任教諭と相談して学校全体に提案し,管理職の学校運営においても実施の意義を共有し,主任教員と授業の打ち合わせを行った。特に,他教科や教育相談との関連,事後活動への接続教科、フォローアップのための環境整備などを確認した。さらに,実施の意義とSELの体験を内容とする教員研修を行った。
ターゲットスキルとプログラムの内容:①自分の感情に気づく,②自分の感情と捉え方に気づき感情と上手に付き合う,をターゲットスキルとし,感情に関する知識(感情リテラシー)と感情のコントロールを学ぶため,感情の可視化(見える化)に焦点化した。なかでも,感情が私たちの生活に与える影響,ネガティブな感情とポジティブな感情のバランスの重要性,感情の気づきと自分の感情の捉え方の傾向が重視される内容であった。
効果測定:①学習への取組意欲,学習の理解度;生徒による記録のチェック表を用いて5段階評定。②中学生用社会的スキル尺度(嶋田,1999);「向社会的スキル」「引っ込み思案行動」「攻撃行動」の3因子25項目4段階評定。③自尊感情尺度(渡辺・山本,2003);「他者の評価」「自己の価値観」「社会的場面における不安」「失敗不安」の4因子20項目2段階評定。④中学生用J-WLEIS尺度(豊田・桜井,2007);「他人の情動の評価と認識」「情動の利用」「自分の情動の調整」自分の情動の評価と表現」の4因子16項目4段階評定。評価は,SELを実施する前の11月上旬に1回目(実施前),実施終了後の同年12月上旬に2回目(実施後)を行った。
結果と考察
 「学習への取組意欲」の平均値は4.28,「学習の理解度」の平均値は4.02と高い評価であった。欠損値を除いた履修群(両方参加)41名と不完全履修群(両方参加以外)15名を対象に,授業参加前後の平均値を比較(Paired t検定)し,次に履修群と不完全履修群の得点変化(後-前)の平均値を比較(Student’s t検定)したところ,履修群の「ソーシャルスキル総合得点」(p <.01)と「情動の利用」(p <.01),不完全履修群の「他者の評価」(p <.05)の平均値に有意な上昇が認められた。次に,両群の授業参加前得点差を調整した授業参加後の得点差について,従属変数を授業参加後の尺度得点,独立変数を群(履修・不完全履修),共変量を授業参加前の尺度得点とする共分散分析(ANCOVA)を行い,各群の修正平均とη2を算出した。その結果,「自分の情動の評価と表現」に有意差が認められ,修正平均は履修群が不完全履修群より高く,効果も中程度であり,授業の効果は小さくはない。(p <.05,η2=.07)。
 以上より,感情に焦点化したSELは,他人の情動に対する評価と認識の向上が示唆され,意欲的に授業に参加し理解もできる内容であることから援助ニーズが高い高校の生徒に適したプログラムと考えられる。一方,不完全履修の場合はネガティブな「他者の評価」が高められるため,欠席者へのフォローアップの在り方を検討した教育計画が必要であろう。
付  記
 本研究はJSPS科研費JP18K03075の助成を受けた。