[PB41] 援助要請態度と援助者の探索過程(2)
若者に対する自殺予防教育の実践と効果測定
キーワード:援助要請態度、援助希求、自殺予防教育
問 題
自殺対策白書(厚生労働省,2019)で15歳-39歳の死因の1位は「自殺」であることが指摘された。2014年には文部科学省により「子供に伝えたい自殺予防-学校における自殺予防教育導入の手引き」が示され,さまざまな自殺予防プログラムが学校現場で展開されている。しかし,中学卒業後(15歳以上)の若年者については,上記の学校ベースでの予防教育は難しく,特に大学では1996年から大学生の死因の1位を占め,自殺者の8 割は保健管理センターなどの相談機関を利用することなく自死に至っている(内田,2010)。自殺の危険性は「自殺の潜在能力」「所属感の減弱」「負担感の知覚」の3つの要因が重なることで高まるとされている(ジョイナー,2011)。ハイリスク行動を自律し,価値ある存在である実感を得られる支えあえる他者との関係性の構築が求められる。
援助要請態度は,他者が問題解決してくれることを目的とする依存的援助要請と独力で解決する方法を学ぶことを目的とする自律的援助要請(Nadler,1998)が知られている。太田・阿部(2012)は,これら2つの援助要請を叶えてくれる援助者の探索方略として関係志向的な援助要請の所在を明らかにしている(Fig 1)。援助希求的態度は自殺の対人関係理論(ジョイナー,2011)と対応するこれら3つの援助要請態度の共通部分と考えられる。本報告は,若年者の援助希求態度の促進を目的とした自殺予防プログラムの効果検証を通じて援助要請態度の構造を明らかにする嚆矢とする。
方 法
自殺予防プログラムは,効果検証が進んでいるGRIP(川野ら,2018)を大学生用にアレンジして用いた。効果測定には,白神ら(2015)のGRIP実証研究に用いられたテストバッテリーの一部を使用し項目表現を大学生用に改変して使用した。具体的には,1.セルフモニタリングスキル(東海林ら, 2012)・レジリエンス尺度(石毛・無藤,2012)2.大人への相談に対するポジティブな態度を尋ねる項目3.「困っていることを解決するために,援助を求める態度について尋ねる項目4.相談せずに自分だけで解決しようとする傾向について尋ねる項目5.配慮のスキル(河村,2001)6.学校適応感(石田,2009)を用いた。
実施場所と時期;実施については筆者が担当する全学共通選択科目の講義(=4月第2週から8月第1週までの(90分×15回)」において教室内で実施した。対象学生(全員女性)は,1年生25名,2年生37名,3年生5名,4年生8名 の75名過半数の回答に不備のあった5名を除いた70 名を分析対象とした。
結果と考察
各変数のプログラム実施前後の平均値を算出し,t検定の結果有意な差が確認された(Table 1)。
自分の内的状態をとらえ他者との関係性を忖度する指標である「セルフモニタリング」「配慮のスキル」得点の上昇は関係志向的援助要請の促進と理解できよう。その結果「他者への相談にポジティブ」になり,依存的な援助要請を通じて自律的援助要請への展望を得ることにより学校適応感が上昇したと考えられる。これらを土台として援助希求態度が上昇し,その反面他者に相談することなく問題を個人で解決しようとする「自助努力」が低下しことから本プログラムが援助希求的援助要請態度の形成に寄与したと考えられる。今後は,援助希求態態度の構造を明らかにしつつ他の援助要請態度と関連性をより明らかにする必要がある。
自殺対策白書(厚生労働省,2019)で15歳-39歳の死因の1位は「自殺」であることが指摘された。2014年には文部科学省により「子供に伝えたい自殺予防-学校における自殺予防教育導入の手引き」が示され,さまざまな自殺予防プログラムが学校現場で展開されている。しかし,中学卒業後(15歳以上)の若年者については,上記の学校ベースでの予防教育は難しく,特に大学では1996年から大学生の死因の1位を占め,自殺者の8 割は保健管理センターなどの相談機関を利用することなく自死に至っている(内田,2010)。自殺の危険性は「自殺の潜在能力」「所属感の減弱」「負担感の知覚」の3つの要因が重なることで高まるとされている(ジョイナー,2011)。ハイリスク行動を自律し,価値ある存在である実感を得られる支えあえる他者との関係性の構築が求められる。
援助要請態度は,他者が問題解決してくれることを目的とする依存的援助要請と独力で解決する方法を学ぶことを目的とする自律的援助要請(Nadler,1998)が知られている。太田・阿部(2012)は,これら2つの援助要請を叶えてくれる援助者の探索方略として関係志向的な援助要請の所在を明らかにしている(Fig 1)。援助希求的態度は自殺の対人関係理論(ジョイナー,2011)と対応するこれら3つの援助要請態度の共通部分と考えられる。本報告は,若年者の援助希求態度の促進を目的とした自殺予防プログラムの効果検証を通じて援助要請態度の構造を明らかにする嚆矢とする。
方 法
自殺予防プログラムは,効果検証が進んでいるGRIP(川野ら,2018)を大学生用にアレンジして用いた。効果測定には,白神ら(2015)のGRIP実証研究に用いられたテストバッテリーの一部を使用し項目表現を大学生用に改変して使用した。具体的には,1.セルフモニタリングスキル(東海林ら, 2012)・レジリエンス尺度(石毛・無藤,2012)2.大人への相談に対するポジティブな態度を尋ねる項目3.「困っていることを解決するために,援助を求める態度について尋ねる項目4.相談せずに自分だけで解決しようとする傾向について尋ねる項目5.配慮のスキル(河村,2001)6.学校適応感(石田,2009)を用いた。
実施場所と時期;実施については筆者が担当する全学共通選択科目の講義(=4月第2週から8月第1週までの(90分×15回)」において教室内で実施した。対象学生(全員女性)は,1年生25名,2年生37名,3年生5名,4年生8名 の75名過半数の回答に不備のあった5名を除いた70 名を分析対象とした。
結果と考察
各変数のプログラム実施前後の平均値を算出し,t検定の結果有意な差が確認された(Table 1)。
自分の内的状態をとらえ他者との関係性を忖度する指標である「セルフモニタリング」「配慮のスキル」得点の上昇は関係志向的援助要請の促進と理解できよう。その結果「他者への相談にポジティブ」になり,依存的な援助要請を通じて自律的援助要請への展望を得ることにより学校適応感が上昇したと考えられる。これらを土台として援助希求態度が上昇し,その反面他者に相談することなく問題を個人で解決しようとする「自助努力」が低下しことから本プログラムが援助希求的援助要請態度の形成に寄与したと考えられる。今後は,援助希求態態度の構造を明らかにしつつ他の援助要請態度と関連性をより明らかにする必要がある。