[PB65] 学童期のIT教育における創造性評価モデルの検討
キーワード:IT教育、創造性、プログラミング教育
問題・目的
情報通信技術(Information and Communication Technology:IT)分野の発展と生活への浸透に伴い,日本においてもIT教育への着目が急速に広がりつつある。具体的には2020年より小学校の教育課程にプログラミング教育が導入されることを受け,学童期の評価方法を探る試みがいくつか行われている。それらは主にルーブリックを用いて,小学校での教科教育における学級単位での教育実践を念頭に作成されたものだといえよう(佐々木,2017ほか)。これに対し,そもそも学校教育にIT教育が導入された経緯を考えると,その柱は「プログラミング的思考」の育成であり,中核として想定されているのは「情報技術を手段として使いこなしながら,論理的・創造的に思考し課題を発見・解決し,新たな価値を創造するための力」だと読み取ることができる。したがって学童期のIT教育における評価を考える上では,事前に明示された学年進行とともに深化する資質・能力に関する基準・目安の達成の程度とは異なる観点から子どもの創造性を捉えるとともに,それを次の教育実践へと結びつける評価法が必要になろう。
このことをふまえ,本研究では学校教育で想定されているプログラミング教育の評価法とは異なる視点に基づき,IT教育実践における子どもの評価が可能かどうかを検討する。具体的には①創造性を柱として,学童期のIT教育における子どもの成果をいかに評価できるか,②それらの評価をふまえたとき,IT教育において創造性を伸ばすための教育実践および指導のポイントはどこにあるか,の2点を考察する。
方 法
対象 プログラミングとロボット制御を扱う民間のH教室の利用者である子どもおよびその作品を対象とした。利用者の年齢や通学回数,進度が多様であることをふまえ,1年以上教室を利用している小学校3年から中学1年までの6名に特に焦点をあてることとした。H教室での代表的な活動の一つは,教育用プログラミングソフトウェアであるScratchを用いてのオリジナルのゲーム作品制作であり,同時間帯に5名前後がそれぞれの課題に取り組みつつ,2名程度の指導者がそれを援助するのが通常のスタイルである。6名の対象児は,H教室の教室長・指導者である第2著者による実践の振り返り、および第1著者・研究補助者による教育実践の観察結果(2回)に基づき,以下いずれかの特徴にあてはまる者を抽出した。
Type 1 ゼロベースで自由に発想し制作を楽しんでいる。好奇心は旺盛であり,作品のアイデアは身近なものや経験に基づくことが多い。体系的な学習は得意ではなく,自分の興味を柱に,その周辺のものを付随させて学習していくことが多い。(P児:小3,Q児:中1)
Type 2 与えられたものを土台にしたアレンジが得意。根気があり,テキストの内容もきちんと読めて与えられた課題に応える能力は高い。体系的に学習していくことで一定の成長が望める。(S/T/U児:小5)(R児:小4は1-2双方の特徴)
作品については,2018年1月上旬時点で共有アカウントにアップロードされている作品を対象とした。各自の作品数はP児:66本,Q児:15本,R児:66本,S児:15本,T児:11本,U児:21本であった。
手続き 作品に対し,より一般的な観点から創造性について評価することを目的として,ゲームプレイに親しみがあるが自分で制作はしない大学生5名に,個々の子どもの背景情報については伝えず「小・中学生が作成したプログラミング作品(ゲーム)の評価」を依頼した。具体的には①面白さ,②創造的・独創的という2つの軸から,対象児ごとにそれぞれ3-5本ずつ作品を抽出すること,またその後抽出した全ての作品について,①面白さ,②創造的・独創的の2つの軸から全体としての順位付けを求めた。
結果・考察
「面白さ」「創造的・独創的」のいずれの観点からも,単独ではなく複数の評定者によって支持される作品はType 1児のものに集中していた。作品の生産量やペースと評価の高さについては個人差が大きいものの,高評価作品は教室に通い始めた数ヶ月が経過して以降に集中的に生み出される傾向があった。Type 2児の制作傾向,実践の観察結果と合わせて考えると,プログラミング能力の体系的習得に加え,作品に対する問いを創出し,他者と共有する場面が担保されたとき,はじめて創造的な作品が引き出されうることが示唆された。
付 記
本研究は香川大学と(株)テックプログレスとの共同研究として2017年度に実施された。
情報通信技術(Information and Communication Technology:IT)分野の発展と生活への浸透に伴い,日本においてもIT教育への着目が急速に広がりつつある。具体的には2020年より小学校の教育課程にプログラミング教育が導入されることを受け,学童期の評価方法を探る試みがいくつか行われている。それらは主にルーブリックを用いて,小学校での教科教育における学級単位での教育実践を念頭に作成されたものだといえよう(佐々木,2017ほか)。これに対し,そもそも学校教育にIT教育が導入された経緯を考えると,その柱は「プログラミング的思考」の育成であり,中核として想定されているのは「情報技術を手段として使いこなしながら,論理的・創造的に思考し課題を発見・解決し,新たな価値を創造するための力」だと読み取ることができる。したがって学童期のIT教育における評価を考える上では,事前に明示された学年進行とともに深化する資質・能力に関する基準・目安の達成の程度とは異なる観点から子どもの創造性を捉えるとともに,それを次の教育実践へと結びつける評価法が必要になろう。
このことをふまえ,本研究では学校教育で想定されているプログラミング教育の評価法とは異なる視点に基づき,IT教育実践における子どもの評価が可能かどうかを検討する。具体的には①創造性を柱として,学童期のIT教育における子どもの成果をいかに評価できるか,②それらの評価をふまえたとき,IT教育において創造性を伸ばすための教育実践および指導のポイントはどこにあるか,の2点を考察する。
方 法
対象 プログラミングとロボット制御を扱う民間のH教室の利用者である子どもおよびその作品を対象とした。利用者の年齢や通学回数,進度が多様であることをふまえ,1年以上教室を利用している小学校3年から中学1年までの6名に特に焦点をあてることとした。H教室での代表的な活動の一つは,教育用プログラミングソフトウェアであるScratchを用いてのオリジナルのゲーム作品制作であり,同時間帯に5名前後がそれぞれの課題に取り組みつつ,2名程度の指導者がそれを援助するのが通常のスタイルである。6名の対象児は,H教室の教室長・指導者である第2著者による実践の振り返り、および第1著者・研究補助者による教育実践の観察結果(2回)に基づき,以下いずれかの特徴にあてはまる者を抽出した。
Type 1 ゼロベースで自由に発想し制作を楽しんでいる。好奇心は旺盛であり,作品のアイデアは身近なものや経験に基づくことが多い。体系的な学習は得意ではなく,自分の興味を柱に,その周辺のものを付随させて学習していくことが多い。(P児:小3,Q児:中1)
Type 2 与えられたものを土台にしたアレンジが得意。根気があり,テキストの内容もきちんと読めて与えられた課題に応える能力は高い。体系的に学習していくことで一定の成長が望める。(S/T/U児:小5)(R児:小4は1-2双方の特徴)
作品については,2018年1月上旬時点で共有アカウントにアップロードされている作品を対象とした。各自の作品数はP児:66本,Q児:15本,R児:66本,S児:15本,T児:11本,U児:21本であった。
手続き 作品に対し,より一般的な観点から創造性について評価することを目的として,ゲームプレイに親しみがあるが自分で制作はしない大学生5名に,個々の子どもの背景情報については伝えず「小・中学生が作成したプログラミング作品(ゲーム)の評価」を依頼した。具体的には①面白さ,②創造的・独創的という2つの軸から,対象児ごとにそれぞれ3-5本ずつ作品を抽出すること,またその後抽出した全ての作品について,①面白さ,②創造的・独創的の2つの軸から全体としての順位付けを求めた。
結果・考察
「面白さ」「創造的・独創的」のいずれの観点からも,単独ではなく複数の評定者によって支持される作品はType 1児のものに集中していた。作品の生産量やペースと評価の高さについては個人差が大きいものの,高評価作品は教室に通い始めた数ヶ月が経過して以降に集中的に生み出される傾向があった。Type 2児の制作傾向,実践の観察結果と合わせて考えると,プログラミング能力の体系的習得に加え,作品に対する問いを創出し,他者と共有する場面が担保されたとき,はじめて創造的な作品が引き出されうることが示唆された。
付 記
本研究は香川大学と(株)テックプログレスとの共同研究として2017年度に実施された。