[PC04] 就学前後の子どもにおける他者感情理解(1)
親しい他者と一般的な他者の比較から
キーワード:幼児、児童、感情理解
問題と目的
他者とかかわる中で基盤となるのは感情を理解し,表現する能力である(枡田,2014)。幼児期の感情理解についてはこれまで様々な先行研究によって明らかにされてきた。感情を引きだす状況的要因や基本的な表情の認識は,幼児期において大きく発達する(枡田,2014)が,「怒り」については理解得点が低く,「悲しみ」との混同が疑われる(渡辺・瀧口,1986:有馬,1993:戸田,2003,:江上,2010)。
しかし,架空の他者の情動を推測することと,日常場面で関わりを持つ他者の情動を推測することは発達的に等価ではない (近藤,2016)。私たちは日常レベルの自他理解の中で,特定の個人に関する知識によって異なる解釈をすることがある。実際に久保(2009)は幼児の感情発達に関してインタビュー法を用いて調査を行っており,年長児はヒントになる手掛かり質問があれば架空の登場人物の多重な感情について話せるが,自発的に話すことは少ない一方で,生活文脈に基づく園生活での多重な感情経験についてはより少ない手掛かり質問で語ることができた。そこで本研究では,「悲しみ」と「怒り」の理解に焦点を当て,そこに関係特性的な要因がどれだけ作用しているか,幼児と児童を対象として横断的な研究を行った。
方 法
実験協力者:愛媛県にある幼稚園に通う年長児26名(男児13名,女児13名)と小学校1年生28名(男児14名,女児14名)。手続き:M市内のA園・B小学校児童クラブに実験の協力を依頼し,同意が得られたら個室に協力者を呼び実験を行った。シナリオ:「悲しみ」「怒り」「無表情」情動を表す表情画,「悲しみ」「怒り」に基づくシナリオ紙芝居を渡辺・瀧口(1986)や有馬(1993),江上(2010)を参考にして作成した。シナリオには主人公が架空の人物である条件と協力者の身近な人物である条件を用意し,さらに身近な人物条件では,協力者の友達,母親,先生である場合の三つの条件を設定した。各感情につきこれらの合計4つの条件を4試行ずつ行い計16試行行った。
結果と考察
独立変数を学齢(年長児・小学一年生),性別(男児・女児),対象(架空・友人・母親・先生),感情(悲しみ・怒り)とし,従属変数を得点とした4要因の分散分析を行った。その結果,対象において主効果が認められ(F(3,150)=16.8,p<.001),多重比較の結果1%水準で,架空・友人<母親・先生であった。また,感情においても主効果が認められた(F(1,50)=22.33,p<.001)。Tukey法による多重比較の結果,1%水準で怒り<悲しみであった。学齢は主効果における有意傾向がみられた。(F(1,50)=3.76,p<.10)また,対象と感情において交互作用効果が認められた(F(3,150)=22.1,p<.001)。Sidakによる単純主効果の検定の結果,5%水準で怒りにおいて架空・友人<母親・先生,架空と友人において怒り<悲しみであることがわかった。性別と感情でも5%水準で交互作用効果が認められ,Sidakによる単純主効果の検定の結果女児において1%水準で怒り<悲しみであった。以上から先行研究と同様,全般的に「怒り」より「悲しみ」の理解得点が高いことがわかった。一方,架空・友人条件と比べて,母親・先生条件の時の方が他者感情を理解できていることが明らかとなり,特に「怒り」場面においてその差が顕著に表れた。したがって,子どもの感情理解についてはやはり生活文脈や「誰の」「誰による」感情理解なのかという関係特性的な要因の重要性が示唆されたといえよう。
付 記
本研究は科学研究費・基盤研究(C)「児童期における関係特性的な「怒り」・「悲しみ」理解と調整の発達(課題番号: 19K03258)」による助成を受けた。
他者とかかわる中で基盤となるのは感情を理解し,表現する能力である(枡田,2014)。幼児期の感情理解についてはこれまで様々な先行研究によって明らかにされてきた。感情を引きだす状況的要因や基本的な表情の認識は,幼児期において大きく発達する(枡田,2014)が,「怒り」については理解得点が低く,「悲しみ」との混同が疑われる(渡辺・瀧口,1986:有馬,1993:戸田,2003,:江上,2010)。
しかし,架空の他者の情動を推測することと,日常場面で関わりを持つ他者の情動を推測することは発達的に等価ではない (近藤,2016)。私たちは日常レベルの自他理解の中で,特定の個人に関する知識によって異なる解釈をすることがある。実際に久保(2009)は幼児の感情発達に関してインタビュー法を用いて調査を行っており,年長児はヒントになる手掛かり質問があれば架空の登場人物の多重な感情について話せるが,自発的に話すことは少ない一方で,生活文脈に基づく園生活での多重な感情経験についてはより少ない手掛かり質問で語ることができた。そこで本研究では,「悲しみ」と「怒り」の理解に焦点を当て,そこに関係特性的な要因がどれだけ作用しているか,幼児と児童を対象として横断的な研究を行った。
方 法
実験協力者:愛媛県にある幼稚園に通う年長児26名(男児13名,女児13名)と小学校1年生28名(男児14名,女児14名)。手続き:M市内のA園・B小学校児童クラブに実験の協力を依頼し,同意が得られたら個室に協力者を呼び実験を行った。シナリオ:「悲しみ」「怒り」「無表情」情動を表す表情画,「悲しみ」「怒り」に基づくシナリオ紙芝居を渡辺・瀧口(1986)や有馬(1993),江上(2010)を参考にして作成した。シナリオには主人公が架空の人物である条件と協力者の身近な人物である条件を用意し,さらに身近な人物条件では,協力者の友達,母親,先生である場合の三つの条件を設定した。各感情につきこれらの合計4つの条件を4試行ずつ行い計16試行行った。
結果と考察
独立変数を学齢(年長児・小学一年生),性別(男児・女児),対象(架空・友人・母親・先生),感情(悲しみ・怒り)とし,従属変数を得点とした4要因の分散分析を行った。その結果,対象において主効果が認められ(F(3,150)=16.8,p<.001),多重比較の結果1%水準で,架空・友人<母親・先生であった。また,感情においても主効果が認められた(F(1,50)=22.33,p<.001)。Tukey法による多重比較の結果,1%水準で怒り<悲しみであった。学齢は主効果における有意傾向がみられた。(F(1,50)=3.76,p<.10)また,対象と感情において交互作用効果が認められた(F(3,150)=22.1,p<.001)。Sidakによる単純主効果の検定の結果,5%水準で怒りにおいて架空・友人<母親・先生,架空と友人において怒り<悲しみであることがわかった。性別と感情でも5%水準で交互作用効果が認められ,Sidakによる単純主効果の検定の結果女児において1%水準で怒り<悲しみであった。以上から先行研究と同様,全般的に「怒り」より「悲しみ」の理解得点が高いことがわかった。一方,架空・友人条件と比べて,母親・先生条件の時の方が他者感情を理解できていることが明らかとなり,特に「怒り」場面においてその差が顕著に表れた。したがって,子どもの感情理解についてはやはり生活文脈や「誰の」「誰による」感情理解なのかという関係特性的な要因の重要性が示唆されたといえよう。
付 記
本研究は科学研究費・基盤研究(C)「児童期における関係特性的な「怒り」・「悲しみ」理解と調整の発達(課題番号: 19K03258)」による助成を受けた。