日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-66)

2019年9月14日(土) 15:30 〜 17:30 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号15:30~16:30
偶数番号16:30~17:30

[PC13] 児童の基礎リテラシーの習得度合いと代替手段の可能性(2)

「計算」の代替について

平林ルミ1, 高橋麻衣子2 (1.東京大学, 2.東京大学)

キーワード:計算困難、代替手段、インクルーシブ教育

問題と目的
 学習の特異的困難をICTの利用によって補い,学習参加を拡大するアプローチに注目が集まるなか,基礎リテラシーを補うために代替手段を用いることの公平性を議論することが目下の課題である。本研究は基礎リテラシーの中でも「計算」に焦点をあて,以下の二つの目的で研究を行う。一つ目の目的は小学生の計算スキルの習得度合いとして四則演算の流暢性を測定することである。小学生の計算スキルの習得度合いが明らかになれば,個々の児童の計算スキルが平均と比較して著しく低いかどうかを検討する指標となる。二つ目の目的は,「小学生にとって自力で計算するのと計算機で計算するのとではどちらが効率的なのか」を明らかにすることである。これは,代替手段を用いることの公平性を議論するための知見となる。さらに自力計算と計算機計算の流暢性が明らかにすることで,自力計算が著しく困難であるにもかかわらず,計算機でそれを代替できる児童が通常学級の中にどの程度存在するのかを併せて検討できる。
方  法
調査対象者および調査時期 高橋・平林(2019,教育心理学会総会発表論文集)と同様である。
調査課題 課題は9種類の四則演算課題(①たし算1(1桁/繰り上がりなし),②たし算2(1桁/繰り上がりあり),③ひき算1(1桁/繰り下がりなし),④ひき算2(2桁−1桁/繰り下がりあり),⑤かけ算1(九九),⑥かけ算2(2桁×1桁/筆算),⑦わり算1(九九からの逆算),⑧わり算2(2桁÷1桁/筆算),⑨わり算3(3桁÷1桁/筆算))を用意した。計算の習得学年を考慮し,小2は①-⑤,小3は①-⑦,小4は①-⑧,小5/小6は①-⑨を実施した。
手続き 課題は学級単位で実施し,四則演算課題を1分間の制限時間でできるだけたくさん解くことを求めた。まず,各自が自力で計算する自力計算条件で課題を実施
し,1週間後の 2回目は計算機計算条件で課題を実施した。計算機計算条件では,計算機を使わなくても答えがわかる問題についても計算機を使うよう教示した。
結果と考察
 自力計算条件における各学年の平均正答数をFigure 1に,計算機計算条件における各学年の平均正答数をFigure 2に示す。自力計算の流暢性は学年向上に伴い向上しており,特に単純な四則演算課題である①③⑤⑦では小6になると2秒に1個以上の問題を解くことができており,自動化されていると考えられた。これに対して,計算機計算の流暢性は自力計算ほどに伸びていない。①③⑤の結果を小2と小6とで比べてみると(⑦は小2では実施していない),いずれも小6における計算機計算の流暢性は,小学2年生における自力計算の流暢性よりも低いことが明らかとなった。つまり,「小学生にとって自力で計算するのと計算機で計算するのとではどちらが効率が良いのか」という問いに対しては,単純な四則演算においては「自力で計算する方が効率が良い」という結果が示唆された。一方,四則演算を繰り返して解く筆算課題のうち特に3桁÷1桁のわり算(⑨)で自力計算より計算機計算の流暢性が高くなった。
 一般的に計算に特異的困難のあるに苦手な子どもが計算機で計算を代替し算数のテストを受けることは,自力計算より有利になることが懸念される。しかし本結果から四則演算を行う上で計算機を使うことは一概に有利になるとは言えない。
 また,個人内で自力計算と計算機計算の成績に顕著な違いのある児童を抽出するために,自力計算と計算機計算に分け,各課題の素点を合計した得点を学年平均点と標準偏差から偏差値に換算して比較した。その結果,自力計算の偏差値が30以下であった児童は全体の170名のうち22名 (12.94%)であり,そのうち11名(6.47%)は計算機計算では偏差値が40以上であった。つまり,この児童は自力で計算することが著しく難しい一方で,計算機を用いることでその困難さを代替できる可能性があると考えられる。大多数の児童において自動化される四則演算の流暢性が低い児童に対しては,代替手段の活用も視野に入れた早期の介入を検討する必要性が示唆された。