日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-66)

Sat. Sep 14, 2019 3:30 PM - 5:30 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号15:30~16:30
偶数番号16:30~17:30

[PC14] 「読んで書く」タスクでの言語運用に語彙知識の広さと深さはどのように関わるか 

第二言語としての日本語の学習者・使用者を対象に

堀場裕紀江1, 李榮2 (1.神田外語大学, 2.神田外語大学)

Keywords:読み書き、語彙知識の広さと深さ、第2言語としての日本語

目  的
 文章を読んで意見を述べる行為は社会生活で必要不可欠なコミュニケーションと学習のためのスキルであり活動である。このような複技能タスクはコミュニケーション能力育成を目指す外国語・第2言語(L2)教育でも使用され学習効果が期待されているが,タスク遂行中にどのような言語運用(と学習)が起こり,言語能力(特に語彙)がどう関わるかについて未だ検証されていない。本研究では,国内の留学生を対象に短い文章を読んで意見文を書くというタスクを課し,語彙知識の広さ(語義)と深さ(上下位語・共起語)が読解(内容再生)と作文(全体的質・流暢さ・複雑さ・正確さ・使用語彙)にどのように関わるかを検討する。質問として(1)語彙知識は読解と作文にどのように関わるか,(2)語彙知識の読解・作文への関与は語彙力によって異なるか,を設定した。
方  法
参加者 中上級レベルの日本語力を持つ留学生58名(韓国語母語話者,平均23歳)である。 材料および測定 短い文章(テーマ「重病の子どもの治療法は誰が決めるべきか」1112字,33文)を読んで母語で筆記再生した。翌日同じ文章を読みそのテーマについて意見文を書いた。語彙知識の広さ・深さは語義テスト・語連想テストにより測定し,総合正答率をもとに上位群・下位群に分けた。 全体手順 全体説明・同意書記入→読解→広さテスト→再生テスト。深さテスト→作文タスク→謝金支払。 分析 読解の指標として再生率を算出した。作文は全体評価(5点満点),および,流暢さ(述べ語・異なり語・T-unit・節の数,T-unit・節あたりの語数,誤用なし節あたりの語数),複雑さ(語彙的複雑さ:述べ語数に対する異なり語数の割合,述べ語数x2の√あたりの異なり語数,統語的複雑さ:T-unitあたりの節数,従属節の数と割合),正確さ(誤用あり節数,誤用なし節の数と割合),使用語彙(読解文中・外の異なり語の数と割合)の観点から採点した(一致率は90%以上)。
結果と考察
 読解と作文 読解,作文の全体評価ともに上位群は下位群に比べて有意に成績がよかった。作文の下位領域を見ると,上位群は下位群に比べて,流暢さの異なり語数と節数,語彙的複雑さの述べ語x2の√に対する異なり語数,統語的複雑さの従属節数,正確さの誤用なし節の数・割合,使用語彙の読解文中・外の異なり語数で有意に高かった。しかし,流暢さの誤用なし節あたりの語数では下位群が上位群を上回っていた。語彙力の高いL2学習者・使用者は流暢さ・複雑さ・正確さの各領域においてより優れた作文を産出するが,複雑さと正確さに対する節・文生成ストラテジーについて語彙力による違いがあると推察される。
 語彙知識と読解・作文の相関関係 読解は両グループとも語彙知識の全体・広さと正の相関が見られ,深さとの相関は負かほぼゼロであった。作文の全体評価は,両グループとも語彙知識の全体・広さと有意な(または有意傾向)正の相関があり,深さとの相関は下位群で有意であった。語彙知識の広さ(既知語の多さ)は,L2インプットを処理してテクスト意味表象を生成する文章理解にも,アイデアを言語化してL2でアウトプットする作文の全体的質にも貢献するが,語彙知識の深さ(上下位語・共起語の知識)は語彙力の低い段階で特に重要になると考えられる。対象者の母語が統語的に日本語に近い言語である点が文章理解における統語や共起語の処理を軽減している可能性も考えられる。
 続いて,作文の流暢さについては,上位群では語彙知識の全体が誤用なし節あたりの語数と有意な負の相関が見られるが,下位群では語彙知識の全体・深さが節あたりの語数と有意な正の相関が見られる。語彙力の低い段階では語彙の豊富さ(特に深さ)がより多くの内容語を含む長い節や文の生成に関わるが,語彙力が上がると語彙の豊富さは簡潔な節や文の産出に関わるようになると考えられる。統語的複雑さについては,上位群では語彙知識(全体・広さ・深さ)はT-unitあたりの節数,従属節の割合と負の相関があり,下位群では語彙知識の広さが従属節数との間に有意な正の相関がある。語彙力の低い段階では語彙知識の広さは従属節を含む複雑な文の生成に関わるが,語彙力が向上すると語彙知識の広さと深さは統語的により簡潔な構文の生成に貢献するようになると考えられる。
 語彙的複雑さについては,語彙知識(全体・広さ)は上位群では述べ語x2の√に対する異なり語数と正の相関があるが,下位群では述べ語に対する異なり語の割合と負の相関がある。使用語彙については,語彙知識(全体・広さ)は上位群では読解文外の異なり語と正の相関があるが,下位群では読解文中の異なり語と正の相関がある。読解を通して語彙知識が活性化されて作文での豊富な語彙使用に繋がる可能性があるが,語彙力によって読解の活かし方(ストラテジー)に異なる特徴があると推察される。正確さについては,上位群では語彙知識の全体・広さに有意な相関がみられるが,下位群では深さに有意な相関がみられる。語彙知識の広さ・深さともに作文の正確さに関与するが,語彙知識の深さ,すなわち上下位語や共起語の知識が文生成における誤用の減少に繋がると考えられる。
 本研究の結果と考察をもとに,L2習得・教育の研究と実践への示唆を導き出したい。