[PC40] 社会化エージェントの多層的影響に関する研究(28)
幼少期の気質・環境要因が反社会的行動の行動決定心的過程に及ぼす影響
キーワード:反社会的行動、気質要因、環境要因
反社会的行動を導く心的過程は,環境が行動決定に影響するモデルの重要な媒介要因とされる(Dodge & Pettit, 2003)。心的過程を理論的に整理すると,行動決定の際の意図や意識の差異により,意図的・道具的な意識的行動決定(e.g., Crick & Dodge, 1994),衝動的で統制感が欠如した機能欠陥行動決定(e.g., Raine, 1993),無意識的・自動的な無意識的行動決定(e.g., Berkowitz, 2008)の3つに弁別される。先行研究では各行動決定心的過程に対応した因子構造が確認され(吉澤他, 2018),再犯群の弁別(吉澤他, 2015)や,非行・問題行動の予測(吉澤・吉田, 2016)における有効性を見出している。本研究では,生物心理社会モデル(Dodge & Pettit, 2003)に基づき,幼少期の気質および家庭や地域社会の環境が小中学生時点の各行動決定過程に及ぼす影響を検討する。
方 法
対象者 参加に同意したA県内の複数校の小学生831名(男子399名,女子432名;5年生418名,6年生413名)と中学生1281名(男子620名,女子661名;1年生429名,2年生398名,3年生449名)およびその保護者(小学生:父57名,母753名,その他4名;中学生:父92名,母1146名,その他9名)を対象とした。
測定内容(保護者による小学校低学年時の回顧法) (a) 子どもの気質:武井他(2007)の幼児気質質問紙尺度(18項目4件法),(b) 親の養育:中道・中澤(2003)の養育態度尺度(応答性・統制各5項目4件法),小保方・無藤(2006)の家庭の暴力と監督の尺度(各4項目4件法),(c) 地域社会:吉澤他(2009)の集合的有能感(非公式社会的統制・社会的凝集性信頼各6項目4件法)と共同体暴力(9項目4件法)の各尺度を測定した。
測定内容(子ども) (a) 意識的行動決定:吉澤・吉田(2004)の認知的歪曲尺度短縮版(15項目6件法)と吉澤他(2009)の規範的攻撃信念尺度(一般攻撃信念8項目4件法),(b) 機能欠陥行動決定:原田他(2008)の社会的自己制御尺度(自己抑制16項目5件法),日本版BADS遂行機能障害症候群の行動評価(鹿島, 2003)の質問紙尺度DEX(20項目5件法),共感性や罪悪感の欠如をあらわすCallous-Unemotional特性尺度(Frick & Hare, 2001)の邦訳版(6項目3件法),近藤(2004)の非行への接近・抑制傾向尺度(刺激興奮性6項目4件法),(c) 無意識的行動決定:反社会的行動への潜在態度(潜在的反社会性)を測定する紙筆版の反社会性Single Category IAT(吉澤, 2014)を実施した。
結果と考察
意識的行動決定と機能欠陥行動決定の各下位尺度に潜在因子を仮定し,潜在的反社会性を含めた3行動決定を従属変数,気質と環境の各要因を説明変数としたMplus ver. 7.31によるモデル分析の結果,適合度は十分な値を示した(χ2 (64, N = 1880) = 323.813, p < .001, CFI = .930, RMSEA = .046, SRMR = .018;Figure 1)。意識的行動決定へは,気質の外向性に有意な正の影響,気質の規則性に有意な負の影響があった。機能欠陥行動決定へは,気質の否定的感情反応・順応性・外向性と家庭の暴力に有意な正の影響,家庭の監督に有意な負の影響があった。無意識的行動決定には有意な影響がなかった。幼少期の気質が小中学生時点の行動決定に影響するという知見に加え,先行研究を踏襲する家庭の暴力や監督の影響が認められた。今後は,小中学生時点の友人や教師の影響も含めた環境の包括的影響を検討すべきである。
方 法
対象者 参加に同意したA県内の複数校の小学生831名(男子399名,女子432名;5年生418名,6年生413名)と中学生1281名(男子620名,女子661名;1年生429名,2年生398名,3年生449名)およびその保護者(小学生:父57名,母753名,その他4名;中学生:父92名,母1146名,その他9名)を対象とした。
測定内容(保護者による小学校低学年時の回顧法) (a) 子どもの気質:武井他(2007)の幼児気質質問紙尺度(18項目4件法),(b) 親の養育:中道・中澤(2003)の養育態度尺度(応答性・統制各5項目4件法),小保方・無藤(2006)の家庭の暴力と監督の尺度(各4項目4件法),(c) 地域社会:吉澤他(2009)の集合的有能感(非公式社会的統制・社会的凝集性信頼各6項目4件法)と共同体暴力(9項目4件法)の各尺度を測定した。
測定内容(子ども) (a) 意識的行動決定:吉澤・吉田(2004)の認知的歪曲尺度短縮版(15項目6件法)と吉澤他(2009)の規範的攻撃信念尺度(一般攻撃信念8項目4件法),(b) 機能欠陥行動決定:原田他(2008)の社会的自己制御尺度(自己抑制16項目5件法),日本版BADS遂行機能障害症候群の行動評価(鹿島, 2003)の質問紙尺度DEX(20項目5件法),共感性や罪悪感の欠如をあらわすCallous-Unemotional特性尺度(Frick & Hare, 2001)の邦訳版(6項目3件法),近藤(2004)の非行への接近・抑制傾向尺度(刺激興奮性6項目4件法),(c) 無意識的行動決定:反社会的行動への潜在態度(潜在的反社会性)を測定する紙筆版の反社会性Single Category IAT(吉澤, 2014)を実施した。
結果と考察
意識的行動決定と機能欠陥行動決定の各下位尺度に潜在因子を仮定し,潜在的反社会性を含めた3行動決定を従属変数,気質と環境の各要因を説明変数としたMplus ver. 7.31によるモデル分析の結果,適合度は十分な値を示した(χ2 (64, N = 1880) = 323.813, p < .001, CFI = .930, RMSEA = .046, SRMR = .018;Figure 1)。意識的行動決定へは,気質の外向性に有意な正の影響,気質の規則性に有意な負の影響があった。機能欠陥行動決定へは,気質の否定的感情反応・順応性・外向性と家庭の暴力に有意な正の影響,家庭の監督に有意な負の影響があった。無意識的行動決定には有意な影響がなかった。幼少期の気質が小中学生時点の行動決定に影響するという知見に加え,先行研究を踏襲する家庭の暴力や監督の影響が認められた。今後は,小中学生時点の友人や教師の影響も含めた環境の包括的影響を検討すべきである。